第91話 学べ

 ラゼばかりに時間を割くわけにもいかなく、マイノカから連れてきた銃士隊二十四人を騎士ワルキューレに会わせることにする。


 旧ミレナーの民と旧ミナレアの民との交流は昔からあったとは言え、友好的だったわけではない。仲間意識もそれほど強いわけでもなく、物々交換な仲でしかなかったそうだ。


 まあ、同族なだけに憎しみ合うことはないのは救いだが、レオノール国の国民同士と言う意識はまだ育ってはいない。自己紹介し合っても、銃士隊と騎士ワルキューレの間には溝があった。


 ……わかっていたが、これをどう縮めるのが悩みどころだな……。


 まずはお互いの力を見せ合うことにした。


 騎士ワルキューレは集団戦を模した戦いを。銃士隊は二段一斉射を。そのあとに二つの戦い方をオレが説明した。


「双方の戦い方。戦闘スタイルと言うのだが、この戦い方の意味を理解できた者はいたか? いた者は手を揚げろ」


 オレが双方に問うと、銃士隊だけが手を揚げた。


 銃士隊にはオレが教えたし、マイアナ大艦隊との戦いにも参加させた。戦争が槍一本でどうにかなるものではないと知っている。だから騎士ワルキューレの戦い方も否定しないし、嫉妬もしない。冷静に受け止めているのだ。


「この差は、知識の差であり経験の差だ。別に騎士ワルキューレたちが劣っているわけではない。銃士隊が勝っているわけでもない。まずは、双方の戦い方、戦争スタイルの違いを学び理解しろ」


 と言って理解してくれるならどんなに楽か。そうでないからオレの苦労は一向に減ってくれないのだ。


「ミゼル。銃士隊を第一次防衛線まで連れていけ。ボゼ。地形をよく覚えてこい」


 ボゼは銃士隊隊長で、ゼルの親戚筋だと言う。


 だからって縁故採用はしていない。実力があったからオレが認め、ゼルが銃士隊隊長として任命したのだ。


「わかりました。ミゼル殿、よろしく頼む」


 オレが教えた期間は長いので、自分の役目は心得ている。ミゼルにも頭を下げることも厭わなかった。


「あ、ああ。こちらこそよろしくお願いする」


 ミゼルもボゼの行動と態度を悟り、騎士ワルキューレとして恥じぬ対応で返した。


 種族に関係なくトップに立つヤツは察する能力が高い。頭で考えるより早く行動に移せるんだからな。


「ミゼル。お前も銃士隊をよく見て学べ。銃士隊は人間の戦いを経験し、人間とも共闘している。戦い方はお前たちより確実に上だ。いや、先をいっている。あとからくる者に負けるなよ」


 暗にお前らの後ろにはゴゴール族がいることを伝えた。


 弱肉強食な世界に生きてる者には諭すより競争心を煽ってやるほうが伸びるだろうよ。


「……わかりました……」


 オレの言葉を何人が理解したかわからんが、トップがわかっているならそいつらに下を理解させてもらおう。


 銃士隊と騎士ワルキューレ団が第一次防衛線にいっている間、ミナレアの町でルゼとジュニアのサポートに当たった。


「ジュニア。ミナレアの町は賑やかだろう」


 マイノカも賑やかと言えば賑やかだが、人口はこちらのほうが多い。


「はい。同族がこんなにいるとは思いませんでした」


 オレも人口が何人かは知らないが、少なくとも千人はいるんじゃなかろうか? よくそれだけいて纏まっていられると思うよ。


「ルゼ公爵。ジュニアを長老たちにも会わせてやれ」


 その場にはオレも同席──と言うか、ジュニアとルゼの後ろに寝そべり、長老たちとの挨拶を見守った。


 長老たちは、オレがやっていることを理解した様子で、地面に下半身の腹をつけ頭を下げ、ジュニアを王の息子として認める姿勢を見せていた。


「レオガルド様は本当に人を従える手段を知っているのですな」


 挨拶が終わると、ラゼが感心したように言葉を漏らした。


「あれはオレを恐れて頭を下げているだけだ。従わせているわけじゃない」

 

「それでも従わせていることに変わりはないのでは?」


「ゼル王の時代はそれでもいいが、ジュニアの代になっても恐怖で従わせるのはダメだ。法と秩序をレオノール国に根づかせ、信頼と尊敬で従わせなくてはレオノール国は長続きしない」


 誰が言ったか知らないが、国など三百年も続けば立派なもの。その頃には民主主義が生まれているかもしれない。それまでに他種族国家としての体を創っておかなければ人間に侵略されていることだろうよ。


「いいか、ジュニア。強くなることは必要だ。だが、強いだけではダメだ。賢くもあらねばならない。人を知らねばならない。レオノール国に愚王はいらない。それを覚えておけ」


 まだ子供に言うには厳しいだろうが、こればかりは小さい頃から言いつけておかねばならない。


「大丈夫。お前の後ろにはオレがいる。支える者がいる。それも絶対に忘れるな」


 謎触手でジュニアの頭を撫でてやる。


 王は孤独になりがちだが、王の上にオレと言う守護者がいれば孤独にもならんだろう。ちゃんと立っていられるはずだ。


「はい。忘れません」


 純真な心のままではいられないだろうが、少しずつ理不尽を教えていけば性格がねじ曲がることもなかろう。


「ラゼ。お前も学べ。ジュニアを支える者として」


 お前に野心があるなら努々忘れることなかれ。死ぬそのときまで学習だとな。


「はい。よく学びます」


 あなたを見て、と目が語っていた。

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