第90話 理解
子供の脚ではミナレアまでは十日もかかってしまった。
ジュニアはまだ八歳。上半身は十六歳に見えるが、肉体的にはまだ幼いらしく、十歳になるまでは長距離移動はしないそうだ。
……産まれたときから見てるが、ゼルム族の成長は未だによくわからんな……。
「ルゼ公爵。しばらくジュニアの面倒を頼む」
「わかりました。ゼルの息子、よくきました」
オレが使っていることでジュニア呼びは広まってはいるが、身内ほど息子呼びがしっくりくるそうだ。
「叔母上。よろしくお願いします」
前脚を折って頭を下げるジュニア。王の息子とは言え、身分的に格的にルゼのほうが上なので、ルゼを立てるように挨拶をするのだ。
「ルゼ公爵。ジュニアにミナレアのことを教えてやってくれ。ラゼ。ついてこい」
オレはラゼに教えてやろう。将来、ジュニアを支えるために、な。
まずはラゼを連れてミナレアの繁華街的なところへと向かう。
「ラゼ。お前はミナレアにきたことはあるのか?」
「昔に何度かきました。こんなに発展はしてませんでしたが」
確かに人も建物も増えたな。初めてきたときはアマゾンの奥地の少数部族みたいな感じだったのに。
「知り合いは?」
「いません」
人脈はなしか。繋がりがないのは痛いな。
そう大した広さもないので三十分もしないで見回ってしまった。
町の外れに向かい、木陰に寝そべった。
「もし、お前がミナレアの族長になったとして、どう治める?」
「……わかりません。ミナレアの民はたくさんの氏族が集まった民でしすから……」
「そうだな。氏族が集まった民を治めるなんて難しすぎて答えなんて導き出せんわな」
民一番の強さを持っていれば可能だろうが、ラゼの力では無理だろう。もう三十過ぎて一線を退いているみたいだからな。
「まず、ミナレアの民の掟を探れ。そして、ミレナーの民の掟と統合しろ。ゼルム族に取って許されること、許されぬことを知れ。それがわかれば他の種族を知れ。他種族を治めるには種族の特性を知らなければ始まらない」
オレも他の種族の特性を熟知しているわけじゃないが、見ている分にはわかることはある。
ゼルム族は誇り高く、ゴゴール族はしたたか。人間は計算高くてベイガー族は従順。まあ、あくまでも種としての特性で、すべてが、そうではないがな。
「種として見て、個を知れ」
「こう言っては失礼だが、レオガルド様は細かいのですな」
「獣なオレが言うのもおかしなものだが、力だけで解決できるのは獣がいる世界だけだ。人の中では力だけでは解決できないことはたくさんあるものだ。それはわかるだろう?」
「……はい……」
その辺は力のないヤツのほうが理解は早いのが助かるぜ。
「人が人を治める。年齢を重ねるごとにその苦労がわかっていく。だからこそ長老たちは知恵を働かせていくんだ」
これは一歩引けて、客観的に見れるヤツでなくてはわからないだろうな。
「今はまだオレがいる。力で従わせることができる。だが、オレがいなくなれば、いや、人が増えればオレの目がいき届かなくなり、オレの見えないところで
不満を口にし、歯向かう者も出てこよう」
それはしょうがないとわかっていても、なるべく起こらないようにするのが統治と言うものだろう。
「ミナレアでお前と考えが同じ者を集めろ。ゼルム族の男たちがすべて力を求めているわけではあるまい? 力がなくても知恵を持つ者は必ずいるものだ。そう言う者との繋がりは将来役に立つ。味方を増やせ」
それは派閥を生み、武官と文官のいざこざを起こすことに繋がるが、それで国が潰れるならそれまで。また新たな社会体制が築かれていくってことだ。
「いいか、ラゼ。ここでレオノール国が纏まらなければいずれ人間に支配され、この大陸の者は家畜にされる。だからと言って人間を敵に回すな。いや、敵なら殺せ。だが、同時に味方も作れ。オレがやってきたようにな」
マイアナの大艦隊がきたときラゼもいた。オレのやったことを見ている。すべてを理解できなくても理由はなんとなくはわかっているはずだ。
「これは、ゼル王には無理だ。お前のような頭で考える者でないと無理だろう。野望を持つのもいい。王になりたいと言うなら奪えばいい。オレは止めたりはしない。わざわざ苦労したいってんだからな」
王の苦労がわからないようではラゼもそこまで。賢いならナンバー2を目指すだろうよ。
「わたしに王は無理です。ですが、レオガルド様のように裏で動くほうが性に合ってるようです」
「ふふ。オレの苦労を理解できるヤツがいてくれて心強いよ」
獣のオレでは人の暮らしには入っていけない。人を治めるのは人でないといけないのだ。
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