第70話 石碑
賢いヤツは大抵奥の手を用意するものだ。
あの女も賢いとみるなら島の奥になにかを隠しているはずだ。
まあ、なにを隠しているかまではわからないが、なにか隠していると意識して探れば遅れは取らないだろう。
油断せず、足音を殺し、集中して臭いをかぎ分けて進むと、白いローブを纏った男が滝のところにいた。
歳の頃は二十半ばくらい。真っ白な髪を持ち、凄まじい霊力を纏わせていた。
……Aランクはあるな……。
人間の域から逸脱はしているが、この大陸ではたまによくいるレベルだ。
「抵抗はしません」
へ~。オレの気配、いや、霊力を感じ取れるか。ヤトアとは違ったタイプのようだ。
木々の間から出て男の前に現れる。
「わたしは、ザザ。呪霊師です」
呪法師ではないのか? ランクで呼び名が変わるのか? ってか、ザザって、ギギと同じ出身か?
「……オレは、レオガルド。レオノール国の守護聖獣だ」
「守護聖獣ですか。まさか本当に出会えるとは思いませんでした」
ミドが空にも海にも守護聖獣はいると言ってたが、人間の世界にも伝わっているか。
……人から獣に転生させるとか、この世界の神かなにかは無慈悲すぎるよな……。
「抵抗はしません。あなた様に従います」
もしかして、先ほどのことを見ていたのか?
「いいだろう。その言葉を大事にすることだ」
未知な力はなにができるかも未知だ。こちらにバレずになにかやってもフシギバナではない。ちょっとでもなにかやればこちらもすぐに反応するまでだ。
ザザを先に歩かせ、夕暮れとぎに砂浜へと帰ってきた。
クレンタラ号もやってきたようで、人が増えている。
「レオガルド様。大丈夫でしたか?」
「ああ。話のわかるヤツですんなり降伏したよ。こちらはどうだ?」
女たちが半分くらい減っている。女伯爵はまだ砂浜に倒れているがな。
「あの女のことが心配なようで、残りは動こうとしません」
へー。この女、人望はあるようだ。
「まあ、そのままにしておけ。それより、せっかくきたのだから拠点を造るぞ」
ミドットリー島を所有化するのは考えていたが、コルベトラが忙しくて手が出せなかった。
だが、こうしてきたのだからチャンスと思って開拓しておくとしよう。
クレンタラ号からピストン輸送して物資を降ろし、オレは海へ潜って岩礁を破壊し、艦が入ってこれるようにする。
のだが、艦一隻入れるくらいとなるとかなりの広さとなる。霊装術で重機ばりにやれるのだが、オレは生き物。食わなきゃ動けないのだ。
「毎日ウツボばっかりだと飽きるな」
オレの足に噛みついたウツボほどではないが、二メートルサイズのばかりのがわんさか出てくる。狩ったものは食うことを信条にしてる自分が憎くてたまらないぜ。
ミドットリー島にきて十日。女伯爵が動けるまでに回復した。
「獣並みの治癒力だな」
オレ、そこまでケガしたことないから獣並みの治癒力があるかわからんけど。
「……お前に言われてもな……」
「確かにな」
動けるまでに回復しても戦えるまでには回復してないので、手下の女に任せて仕事を再開させた。
「レオガルド様。手頃な岩があったのでお願いします」
波が高くなって中断してると、島を探っていた兵士が報告にきた。
兵士に案内されてその場所にいくと、二トントラックくらいの岩があった。
その岩を掘り出し、一キロ先の砂浜へと転がしながら運んだ。ふぃ~。さすがに疲れたわ。
少し休んでから爪で岩を削り、四角くする。
働かず者食うべからずと、女たちに表面を石で磨かせる。
ミドットリー島にきて二十日目。女伯爵が完治したので、改めて問うことにした。従うか死ぬかをな。
「レオガルド様。なにをしているか尋ねても?」
ザザも混ざって磨いていたら、そんなことを尋ねられた。
「ここがレオノール国のものだと知らしめる石碑だ」
領有権は領有したことを知らしめてこそ領有地となる、はず。
まあ、所有地であることを示しておかないと将来領有権とか問題になったときに石碑や記録を残しておかないと子孫が大変だ。だから先祖の義務として領有権を残しておくのだ。
六面すべてに「この島をレオノール国の領有とする。レオノール歴十四年。国王ゼルが宣言する。レオガルドの守護地也」と刻んだ。
波で持っていかれないよう岩で埋めて土台とし、その上に石碑を鎮座させる。
「今度、ゼル王を連れてきて式典をやらないとな」
既成事実は残していかないとならんからな。
季節は秋になり、ミドットリー島も人が住めるようになり、小屋もいくつかできた。
港はまだ時間がかかるが、上陸はしやすくなったので艦からのピストン輸送も捗っているぜ。
「さて。レイトラル。再度問う。レオノール国に従うか、罪人として一生を終えるか、お前に選ばせてやる。もちろん、従うなら人としての誇りは認める。ただし、裏切るなら許さない。オレがお前を殺す」
考える時間は充分すぎるくらい与えた。ここで決断できないのなら罪人として人の誇りは与えてやらん。お前に従う女たちもだ。
ため息を吐いたレイトラルは、片膝を砂浜につけて頭を下げた。
「レニーラ・レイトラルはレオノール国に忠誠を誓います」
そう言うと、背後にいた女たちも同じく片膝を砂浜につけた。
「認めよう、レニーラ・レイトラル。今このときよりレオノール国の民だ」
こうしてまた新たな民が増えることとなった。
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