第69話 ジェンダーフリーか?

「ん?」


 鼻だけ出して泳いでいたら、なんか後ろ足を噛みつかれた。


 潜って確かめたらウツボ? みたいなのがいた。


 後ろ足から雷を放って瞬殺。にも関わらず噛みつきを緩めないとか、なかなか凶悪である。人間なら真っ二つにされてることだろうよ。


 まあ、痛くはないのでそのまま泳ぎ、小舟を追った。


 波はそれほど高くはないので二十分くらいで浜へと上陸した。


 浜には女が一人立っている。


 遠くてよくわからないが、兵士の体格からして二メートルはあるんじゃなかろうか? 威風堂々とした立ち振舞いが強者だと語っている。


 これはアレだ。素直に従うタイプではないな──と思ってたら女が兵士を殴り飛ばしてしまった。


 まったく、命知らずなヤツだ。


 小舟にはギギも乗っており、万が一に備えてトンファーを持たせてある。


 ヤトアから戦いの仕方を習っており、持ち前の怪力が加われば大抵の者には負けやしないだろう。


 ましてやオレと一緒にいたのだ、油断などしようもない。兵士を殴った瞬間に飛び出しており、トンファーを女の脇腹に打っていた。


 トンファーはウルドと呼ばれる堅い樹から削ったもの。あばら骨が折れたかヒビは入っただろう。ご愁傷様である。


 兵士たちもすぐに銃を構え、臨戦態勢を取った。


 ギギは呻く女の首をつかみ、盾にするように小舟へと下がる。と、木々の中から銃を構えた女たちがわらわらと出てきた。


 はぁ!? なんで女ばかり?! どう言うことだ??


「レオガルド様!」


 おっと。惚けている場合じゃなかった。


 ウツボっぽいものに噛まれたまま海から上がり、ギギの横に立った。


「抵抗するなら殺す! 逆らえば殺す! 従うなら生かしてやる! 選べ!!」


 ギギの鋭い叱咤に女たちは戦意消失。銃を砂浜に落とした。


「銃を集めてください」


 オレはしゃべらずギギに任せる。


「……ところで、レオガルド様。その足のはいいんですか?」


 あ、噛みつかれたままだったっけ。えいっ! 


 風で首を切り落とし、反対の足で頭を踏み潰して離した。


 ギギや兵士たちが女たちを武装解除させている間にドラム缶サイズのウツボをいただきます。生焼けも美味いもんだ。


 ごちそうさまして砂浜で寝そべっていると、気絶していた女が目を覚ました。


「下手なことをするな。噛み殺すぞ」


 謎触手で女の手を打ち払い、隠しナイフを放せさせた。


「……しゃべっただと……!?」


 久しぶりに驚かれた。ちょっと新鮮。


「お前だってしゃべっているだろうが」


 可愛い反応するので、ちょっとからかってやった。


「ふざけるな! 人の言葉をしゃべる獣がいてたまるか!」


「獣が人の言葉をしゃべれないと言うなら、お前が獣の言葉を理解しているのだろう」


 オレの返しに黙ってしまう女。戸惑ってる戸惑ってる。


「レオガルド様。生存者は三十八名。女は三十六名で男は二名です」


 なんともまあ男女の比率が片寄っているな。つーか、女の船乗りとかいるんだ。この世界はジェンダーフリーか?


「レオガルド様。この女、もしかするとレイトラル伯爵かもしれません」


 一人の兵士がそんなことを言った。


「レイトラル伯爵?」


「わたしも名前だけしか知らないのですが、女の船乗りを集め、探検家として海を航海していると聞いたことがあります。ゴルティア様なら詳しく知っているなもしれません」


「まあ、それはあとで訊くとして、レイギヌスはあったか?」


「正確な数はわかりませんが、かなりの数がありました。呪法管理人も五人いました」


 それは多くないか?


「それは、当たり前のことか?」


「いいえ。かなり多いです。あと、男は呪法師かと思います」


 呪法師は謂わば魔法使いな存在。霊力を操って奇跡を起こす、とかなんとか。希な存在なために呪法管理人も正確にはわかってないそうだ。


「また厄介なものが現れたもんだ」


 初めてなことばかりで嫌になるぜ。


「呪法師は分けて──いや、一人はプレアシア号に連れていけ。従う女がいたら一緒に連れてって構わない」


 いるかどうかはわからんがな。


「ギギ。オレは島を調べてくる。逆らう者は容赦なく殺せ」


 女たちに聞こえるように言ってやる。


「わかりました! 容赦なく殺します!」


 ギギもオレの意図を汲んでわざと声を大きくして答えた。


「隠れている者がいないといいな?」


 女にそう言い、奥へと駆け出した。

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