第68話 名前に歴史あり
コンクリート。それは建築に必要なものだ。
が、泥煉瓦を作っているような時代にセメントなんて作れるはずはない。それを知るヤツもいないと諦めていたが、灰を見て思い出した。
灰からコンクリートってできたんじゃなかったっけ?
まあ、昔の記憶なので正しいかどうかはっきりと思い出せんが、灰をふるいにかけて、煉瓦を砕いたものを混ぜて水で溶けばできたんじゃなかったっけ?
曖昧な記憶で作らせてみたらそれなりのができた。
「こう言うものだったっけ?」
うんうんと記憶を探るがこれ以上はできない。理系じゃなく文系だったんだ、詳しくなど知らんわ。
「こう言うときのマルジェムだ」
と、マイノカからマルジェムを呼び寄せた。
「コンクリートですか」
「ああ。本当は石灰、鉱物から作るんだが、灰からも作れる。その配合を突き止めてくれ」
一応、灰と煉瓦を混ぜて水で溶かして作ってみせた。
「……なるほど……」
そう呟いたあと、周りの声など聞こえないほど集中してしまった。
まあ、天才とはこんなもんだろうと、技術局預かりとした。
「レオガルド様! 沖にプレアシア号です!」
作業をしていたら物見櫓に立つ兵士が声を上げた。
「プレアシア号より緊急信号です! ミドットリー島に難破船ありだそうです!」
光の点滅だけでよくそれだけのことがわかるもんだ。
「コルモアに向かえと伝えろ!」
「了解!」
「ゼル王。オレがいく。コルベトラを頼む」
反乱など起きないと思うが、コルベトラは重要な地だ。王がいることで知らしめなくちゃならないのだ。
「レブもここにいろ、獣神の巫女としてな」
王とともに獣神の巫女もいる。その関係性を知らしめるためにもゼルの側に獣神の巫女はいたほうがいい。
「ギギ。ついてきてくれ」
「わかりました」
ギギは獣神の大巫女。王の代理人になってもらおう。
久しぶりにギギを乗せ、コルモアへと駆けた。
プレアシア号より早く到着したので、セオルの代理人や海軍の幹部を集め、ミドットリー島に難破船を発見したことを伝えた。
「まだ情報は集まってないが、食料や薪を積めるようにしておけ。クレンタラ号は出せるか?」
マイアナの戦艦を修復してクレンタラ号と命名したレオノール国の二番艦だ。
「はい。食料を積めば出港できます」
「よし。すぐに積み込め」
指示を出し、積み込みしているとプレアシア号が湾に入ってきた。
いつでも出港できるようにか、湾に入ったところで錨を下ろし、ゴルティアが小舟でやってきた。
「難破船は帝国の旧式の戦艦です。おそらくこちらの様子を探りにきて難破したと思われます」
ミドガリア帝国も大国ならマイアナの動きを探っているはず。なら、あの大船団も把握していても不思議ではない。いや、知っているとみて動くべきだろう。
「遠くて確認はできてませんが、岩礁に乗り上げた感じなので生存者はミドットリー島に上がっていると思われます」
「帝国がくる前にこちらで確保する」
帝国の新しい情報を得るチャンス。レオノール国がいただこうじゃないか。
「ゴルティア。出れるな?」
「もちろんです」
自信満々なゴルティア。立場が人を作ると言うが、この数年で大将の貫禄がついたものだ。
「クレンタラ号も用意が整い次第出港しろ」
そう指示を出し、プレアシア号へと乗り込んだ──ら、いつの間にかギギも乗り込んでいた。
「ギギ!?」
「わたしもいきます」
笑顔でそう言われて押し黙ってしまった。なんか迫力に圧されて。
「あ、ああ。そうか」
と言うのが精一杯。そのまま出港してしまった。
夕方からの出発だったので夜を挟んでしまったが、オレの雷で磁石を作り、曖昧な知識で羅針盤を作ったので、天候がいいのでそのまま進み、昼前にミドットリー島が見えてきた。
「島を一周して帝国の船がいないかを確認します」
ゴルティアの言葉にミドットリー島を一周する。
他に船はなし。すると、ミドットリー島に煙が上がった。
「生きてるヤツがいるみたいだな」
「そのようですな。見張りより数十人の人影が見えるようです」
「ここ、そんなに座礁しやすい場所なのか?」
「いいえ。そんなことはありません。ただ、帝国の船乗りは大陸間を航海できる者はそういません。わたしも近隣を行き来する船長でしかありませんでしたからな。経験もなく長い航海もしたことがない。食料や水の配分ができず、なくなった頃にミドットリー島が見えた。我慢できる者は少ないでしょうな」
なるほど。そう言う理由で座礁するのか。
「冥府の番人がミドットリーと呼ばれています。それに倣ってあの島をミドットリーと呼ばれるようになったそうです」
なんでミドットリーと呼ばれてるのかと思ったらそんな理由があったんだ。名前に歴史ありだな。
「ミドットリー島は調べ終わったのか?」
「四割、と言ったところです」
「やはり調べるのは大変か?」
「そうですな。海のモンスターはレイギヌスのお陰で寄ってはきませんが、潮の流れが複雑でなかなか難航しております」
島へと上陸できる道はわかっているので、錨を下ろせる場所に帆を畳み、小舟三艘で向かった。
ちなみにオレは潜水して向かった。万が一に備えてな。
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