第67話 コルベトラ
冬の終わる頃、フガクはオレの行動圏内から出ていった。
ただ、移動するのを眺めているだけでこんなに疲れたのは獣生で初めてだぜ。
「まさに災害だったな」
フガクが歩いた場所は木々が倒れ、針葉樹を中心に食われていた。
まあ、食えば出すのが生き物。フガクの出したものが大森林を肥やすものとなるなら損ばかりではないか。自然の営みと納得するとしよう。
コルモアに帰り、フガクが去ったことをゼルたちに告げた。
「まさに、嵐は去った、だな」
ゼルが上手いことを言う。
「そうですね。次の嵐に備えるとしましょう」
それに上手いこと返すセオル。自分の役割を熟知した男だよ。
季節は春となり、去年から計画していたことを開始した。
コルモアの港の整備と新たな港開設、そして、ミドットリー島の開拓だ。
本当はコルモアの町周辺の開墾をしたいが、いつミドガリア帝国やマイアナの侵攻があるかわからない。そのとき矢面に立つのはコルモアだ。そうなっても弾き返すようにしておかなくちゃならないのだ。
コルモアの港は今のところ不自由なく使っているので、新たな港開設を中心にやるとする。
場所的には塩作りをしていところにする。
あそこは川がいくつかあり、村もできている。道も踏み固められているので輸送も楽でもある。
指揮はミドアと言う男で、セオルと同期と言うことだ。
身分があるほうが指揮しやすいだろうと、ゼルやセオルと相談して男爵の位を与えることにし、民衆に知らしめるべく人を集めて大々的にやることにした。
「これまでの働きによりミドアを男爵とし、コルベトラを任せる。励むがよい」
「はっ。謹んでお受けします」
王の言葉にミドアは恭しく応え、集まった者たちに祝福の拍手を起こさせる。
「レオノールの守護聖獣たるオレもミドアを男爵として認めよう。レオノール国のために身を捧げよ。さすればオレの守護を与える」
守護がなにかを問われたら答えようもないが、まあ、鰯の頭も信心からとも言う。オレが言えばそれっぽく聞こえるだろう。一応、
「ありがたき幸せ。この身をレオノール国に捧げます」
さらに拍手を起こさせる。
ミドアをデコレーションしたオレ用の荷車に乗せ、コルモアの町を一周させてコルベトラへと向かった。
「レオガルド様に牽いてもらうなど末代までの誉れですな」
「あはは。子々孫々まで誇るといい。なんなら、お前の子が産まれたらオレが名付けてやるよ」
「それは是非ともお願いします」
「ああ。任せろ。それとコルベトラが完成したら伯爵に推してやる。しっかりやれよ」
「そこまで優遇されると気圧されますな」
「地位には責任と義務がついてくるものだ。がんばれ」
ノブレス・オブリージュだっけ? 地位を与えて報酬を与えるのだから義務と責任は持てってことだ。
コルベトラに到着。ここでもミドアの立場を示してやり、役職を決めてミドアの下につけた。
「男ばかりだな」
ゼルが港造りを始めた光景を見てボソッと呟いた。
それは仕方がない。大船団で女は三割しかおらず、適齢期はさらにその半分。男が余るのは自明の理だ。
一生独身がほとんどだろうが、オレもその中に入るのだから諦めろ、だ。
「オレもやるか」
川が流れるところを湾にするために崖を削り、石を海に埋めていくのは人間には厳しい。なので我が爪を振るい、重機の代わりに働いた。
一番硬い崖を崩すと、穴を掘りやすくなり、三十日もやると緩やかな傾斜ができた。
「大雨でも降って土砂を流してくれるといいんだがな」
人力でやってたら何十年とかかる。大雨で大量の土砂を流してくれると短縮できる。まあ、それはそれでどんでもないことになりそうだ。
「これは、ゴゴールも呼んだほうがいいのではないか?」
作業を見ていたゼルがそんなことを提言してきた。
「そうなると食料消費が多くなるんだよな」
それは輸送も多くなると言うこと。輸送担当のゼルム族を増やさなくてはならないってことだ。
「あれをやればこれを増やさなければならない。まったく、頭が痛いことだ」
今はこの人数──百五十三人でやるしかない。
オレも作業員と一緒にやっていると、オレに向ける目が変わってきた。
「レオガルド様! 大きい岩が出ました!」
「おう! 任せておけ!」
岩にレオパンチを放ち、岩を粉砕する。
オレもヤトアに付き合って霊装術を練習し、前足に霊力を集中。ハンターなアレなジャン拳グーで岩を砕けるようになったのだ。
同じ釜の飯を食う、ではないが、同じように泥まみれになり、汗を流し、達成感を分かち合うと、人間は連帯感を持ち、仲間と認め合う生き物だ。
「レオガルド様、今日もがんばりましょう!」
「おう! 今日も働くぞ!」
いつの間にか朝の挨拶となり、作業員のやる気と自信が天元突破。コルベトラと言う場所に愛着を持つようになっていた。
「アハハ。レオガルド様は人の心をつかむのが上手いですな」
なんて、セオルにからかわれる。
だが、悪い気はしない。元が人間なだけに好かれることが嬉しいのだ。
「お前ら。今日も安全第一。ご安全にだぞ!」
「はい! ご安全に!」
さあ、今日も元気に働くぞ!
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