第47話 大船団

「まずこいつらを綺麗にしろ」


 病原菌とか持ち込まれたらたまったもんじゃないからな。


 マイアナの連中を裸にして海岸線の滝になっているところで体を洗わせ、服も洗わして天日干しさせた。


 ゴゴールたちに見張らせ、人間たちに戦艦を探らせる。


「小動物は陸に上げるな。銃や火薬は運び出せ。書物類もだ」


 オレは入れないので桟橋から指揮をし、小動物が上がらないよう監視する。


「この艦、新しいですな」


 見張りをしていた年配の男がそんなことを呟いた。


 言われてみれば確かに新しく見えるな。新造したのか?


 中もそれほど汚れてないようだが、臭いは相当で、久しぶりに嗅いだ船乗りたちは辟易しているようだ。


 陽が暮れてきたので一旦中止。艦長や高官みたいなヤツらは村に連れていき、下っ端連中は戦艦に戻した。


 もちろん、武器類は取り上げ、監視は残し、その日の食料だけ渡しておく。仮に逃げたところで朝まで生きられることはないだろうよ。


 ちゃんと教えてやったのにも関わらず逃げた者が何人かいた。


「すみません、レオガルド様」


 見張りの代表に謝罪されたが、フレンズな獣人の隙をついて逃げるヤツである。きっと碌でもないヤツだろう。探す手間が省けたと言うものだ。


「とりあえず、生死を確認してこい。生きてたら殺せ。ただ、なにか特殊な訓練をした者かもしれない。命乞いしたからと言って油断はするなよ。なにか隠してるかもしれないからな」


 追跡はゴゴールに任せ、戦艦の探索を開始させる。


「レオガルド様。逃げた者は今回のことに集められた地方の船乗りで、身元がはっきりしないそうです」


 逃げたヤツらのことを艦長らに訊いていた男がやってきて、そう報告した。


「そうか。洗いざらいしゃべらせろ。特に今回なにをしにやってきたかは何度も聞き出せ。辻褄の合わないことをしゃべったら痛めつけても構わない」


 レオノール国にまだ人権はまだない。ましてやこいつらは犯罪者。レオノール国の者を害しようとしたのだ、優しくしてやる筋合いはない。


 戦艦のものを粗方持ち出した頃、セオルたちがやってきた。


「遅くなりました」


「気にするな。人間の脚にしては早くきたほうだ」


 どんなに急いでも途中で一泊しなくちゃならない。無理しても肉食獣に襲われるだけだ。


「セオル。航海日誌を調べてくれ。元マイアナの者は連れてきたか?」


「はい。一応、呪法管理人のミレアも連れてきました」


 あーいたな。そんなの。すっかり忘れてたわ。


「取り調べが終わったら河川工事をさせろ。ゴゴールの連中にはオレからセオルに従うよう言いつけておくから」


「わかりました」


「ゼルがきたらセオルはコルモアに戻れ。指揮する者がいないと困るからな」


「マイアナが攻めてくると考えですか?」


「どうもあいつらは尖兵のようだ。二十隻近くがこちらに向かっているらしい」


 それを吐くまで四人が天に召されたが、細かいことは伝えられておらず、本隊と別の軍港から出たそうだ。


「マイアナも同じことを考えていようとは」


「帝国のやっていることが気に入らなかったんだろう」


 どちらも大国。遅れを取るわけにはいかないのだろう。こっちは迷惑でしかないがな。


「そうですな。張り合ってばかりでした」


 それに付き合わされる自分らはたまったもんじゃないと言った顔で笑うセオル。いつの時代も生きるのは大変だな。


「ゴルティアにプレアシア号を出させてオレも出る。万が一、別動隊がいたら指揮はセオルがしろ」


 こうなることを予想してゼルにはセオルに任せろと言ってある。人間との戦いをよく学べとな。


「わかりました。お任せください」


 セオルにもこうなることを前提に迎え撃つ作戦は考えさせてある。オレがいなくてもなんとかやれるだろうよ。


 あとは任せてオレはコルモアの町へ──とはせず、まずは保護区へと走る。


 昨日から碌なもんを食っていないし、プレアシア号へ積む肉もいる。マンモス──ミゴルを二匹狩り、一匹は食って、一匹はコルモアへと運んだ。


 コルモアの町に着くと、町は殺気立っており、兵士が慌ただしく動いていた。


「レオガルド様!」


 セオルの副官に当たる男がオレに気がついて駆けてきた。


「ゴルティアは?」


「出発準備をしています」


 やはり軍人は行動が迅速だな。


「オレもプレアシア号で出る。セオルが戻るまで頼むぞ」


 ミゴルをプレアシア号に積めるよう解体してもらい、次の日の朝に港を出た。


「まずはミドットリー島へ目指せ」


 あそこを目標としてるならミドットリー島で待ち構えてるのが最良だろうよ。


 風が悪かったので二日ほどかかったが、まだ船影は見えない。


 その間に食料確保のためにミドットリー島へ向かい、リバットやウツボのデカいのを狩っていると、大砲の音が轟いた。


「きたか?」


 ウツボのデカいのを食ってからプレアシア号へと戻る。


「戦艦が四隻、こちらに向かっています」


 そう報告され、一時間くらいしてオレの目にも捕らえることができた。


「戦艦の後方、船多数! 大船団です!」


「ゴルティア。逃げたほうがいいか?」


 さすがにプレアシア号を守りながらあの大船団を沈めることは不可能だ。


「そうしていただけると助かります」


 下手なプライドがなくてなによりだ。


「食料はちゃんと積んでるな?」


「帝国に帰れるくらいには」


 ニヤリと笑うゴルティア。冗談が下手な男だ。


「後方撹乱だ。あと、逃げる船がいたら沈めろ」


「お任せを」


 セオルと言い、ゴルティアと言い、頼もしい人間がこちらについてくれてよかったよ。


 プレアシア号を旋回させてコルモアへと戻った。

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