第45話 オレ的国家百年の計

 耕した畑にはまず豆を植えた。


 荒れ地にはまず豆を植えるのがいいとか聞いたことがあるからだ。


 まあ、真偽のほどは知らんが、この大陸でも豆はよく育っていたし、全種族口にできるものだ。植えて損はないだろうよ。


「コルモアから鶏を連れてくるか」


 数十羽だった鶏も数年で数百羽に増えた。農業村(仮)でも増やせば食料になるだろうよ。


「師匠。ベイガー族から剣を教えてくれとお願いされているんだが、どうしたらいい?」


 農作業を見てたらヤトアがやってきてそんなことを言った。


「いいんじゃないか? ベイガー族は身体能力に長けてるし、お前の剣を受け継がせるのもいいんじゃないか」


 ヤトアは色恋沙汰に興味がなさそうだし、子を残せそうにない。誰かに教えて受け継つがせたほうがいいだろうよ。


「……受け継ぐか……」


「まあ、それはヤトアの好きにしたらいいさ」


 残すも消すもヤトア次第。オレが口出すことじゃない。


 少し悩んでいたヤトアだが、気がついたらベイガー族に剣を教えていた。どう言う心境だ?


「ヤトアさん、この地にオウノミトの名を残すと意気込んでました」


「名を?」


「はい。昔、オニと言う角のある守護聖獣様にいただいた名前みたいです。ベイガー族は、そのオニの姿に似ているそうです」


 オニとは鬼のことだろうか? と言うかオレ、初耳なんですけど。君たち、いつの間にそんな話をする仲になってたの? 


「わたしもヤトアさんから剣を習ってるんです」


 それも初耳なんですけど。


「ギギ、剣に興味なんてあったのか?」


「レオガルド様に守られるだけの存在にはなりたくありませんから」


 と、満面の笑顔で言われた。


 まあ、ギギがそうしたいのならオレは認めて好きにさせるだけ。強くなって損はないんだからな。


 ヤトアの剣術教室を見ていたいが、オレはこの世で忙しい獣。レオノール国の守護聖獣である。ギギが安心して暮らせるようあちっちこっちに向かわなければならないのだ。


 特にコルモアの町にはちょくちょく顔を見せなくてはならない。元人間なだけに人間の厄介さを知っているからな。


 コルモアの町は日に日に発展している。


 人間の特性か、一旦、知識を与えるとよりよいものを作ろうとする。改善しようとする。


 なんだか日本人みたいな感じだが、発展しようとするときの力は人種に関わらず人間特有のものなんだろうよ。


 オレが歩けるように道は広く造り変えられ、オレが過ごせる場所も造られていた。


「オアール人だったヤツらはどうだ?」


 セオルに町を案内してもらい、気になっていたことを訊いた。


「相変わらずですが、大人しくはしています。無理矢理広めようともしてません」


「そうか。いずれ宗教の自由は認めるつもりだが、無理矢理は絶対にさせない。した場合は極刑にする」


「レオガルド様は寛容ですな」


「人は信じたいものを信じる生き物だ。やるなと決めても隠れてやるものだ。なら、宗教を認め、宗教に寛容な思想を植えつけたほうがいい。結婚はあの宗教。葬式はあの宗教。あちらの神の誕生を祝いながらこちらの神の誕生を祝う。そうなれば宗教はそんなに怖くなくなる」


 もちろん、極端なヤツは出るが、それは法律で縛るしかないだろうよ。


「レオガルド様はどこまで先を見ているんです?」


「百年先を見据えて十年先を目標として歩む。これ、国家百年の計だ」


 まあ、オレ的国家百年の計だけどな。


「国家百年の計、ですか。ふふ。百年先の者には神託として伝わってそうですな」


「お前は、神の神託を聞いた者として聖人扱いされそうだな」


 もし、オレが生きてたら聖人セオルとして語り継いでやるよ。おもしろおかしくな。


「アハハ! わたしが聖人ですか。それは光栄ですな」


 オレの横で笑うセオルを周りは驚きの目で見ている。


 これはセオルの立場を確立させるためのもの。民衆を従わせるためのパフォーマンスだ。


 他種族国家を治めるのはオレが考える以上に大変なことだろう。ゼルに従わぬ者も出てくる。オレがいても細かいところまでは見れない。誰かに見張ってもらわないとならないのだ。


 レオノール国の形ができるまではセオルに見張ってもらいたい。そのためには地位を与え、オレに認められていることを示し、他種族の王に従うことを当然と思わせる。


 そうなるには何十年とかかるだろうが、これも国家百年の計だ。少しずつ受け入れさせていくしかない。


 オレとセオルの姿を見せるために町の中を歩き、開墾地へと移動する。


「ベイガー族が減って遅れてると思ったが、そうでもなかったな」


 開墾しているのは大体が人間で、ベイガー族はちらほらと見えるだけだ。


「戦いがないので兵士にやらせています」


「砂鉄集めはどうだ?」


 オレの雷で鉄を磁石にして、川で集めさているのだ。人間が持ってきた鉄には限りがあるからな。


「充分に、とは言えませんが、それなりには集まってます。ただ、それも限界があるでしょうから鉄鉱山を見つけないとダメでしょうな」


「山師が欲しいところだな」


 開拓団にはいたらしいが、オレが殺してしまったそうだ。


「まあ、当分はモンスターの素材で代用してもらうしかないな」


 今のところは持ってきた道具で足りている。あとはモンスターの素材で代用すれば十年先まではやっていけるだろうよ。


「作物の収穫はどうだ?」


「多からず少なからず、ですね。ただ、山羊は増えすぎて困ってますね。外敵もおらず草は豊富ときてますからな」


「ゴゴールのところに運んで牧畜してもらうか」


 平原に放てばここより増えてくれるだろうよ。


 その増えた山羊をいただき、フレンズな獣人のところへと向かった。

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