第29話 多勢に無勢
予想通り、拠点兼避難所造りは秋まで食い込んでしまった。
秋は食料確保の季節。これはフレンズな獣人たちも同じで、秋は食料確保に勤しまなくちゃならない。
「ゼル。一旦レオノール村に帰れ」
「わかった。ミナレアの民の村によってから帰る」
あーミナレアの民のこともあったな。問題が多くて頭から溢れ落ちてるぜ。
「ドーガ。これからバルバを遠くへ追いやる。春まで堪えろ」
「ああ。頼む」
ゼルやドーガたちと別れ、原野を駆ける。
毎日一匹狩ってたからか、バルバはかなり遠くまで移動しており、なにか茨が多い雑林に隠れていた。
「なんか意味あるのか?」
嗅覚のいいモンスターなら隠れても意味はないし、巨大なモンスターなら茨など物ともしない。なにから身を隠してるんだ?
と考えていたら黒と灰色の斑な毛を持つ……虎? の群れが現れた。
体はオレの半分。元の世界の虎くらいはあるか? バルバよりも小さいが、集団で襲うなら適度なサイズかな?
「世界が違えば習性も違うか。群れる虎とかほんとファンタジーだな」
獣に転生したオレが一番のファンタジーだが、斑虎(仮)はこれと言った特殊能力はなく、嗅覚や聴覚もあまり性能はよろしくないようで、オレに気づくことなく茨の中に入っていった。
すぐにバルバの悲鳴が上がり、なかなか激しい戦いをしている感じだ。
「狂鳥類も群れる斑虎には勝てないか」
斑虎が茨からバルバを咥えて出てきた。
三百メートルくらい離れて斑虎を追うと、小高い丘に灰色の虎と子がいた。
メスは灰色してんのか。子は白とか不思議だこと。
しばらく観察していたら群れのボスなのか、体に傷のある斑虎がこちらを向いた。
伏せていた状態から立ち上がる。
ボスが一鳴きすると、他のオスたちが毛を逆撫でしてオレに向けて威嚇してきた。
しゃべるかな? と期待したが、会話どころかコミュニケーションもできないようで、周りを囲まれ、ガルルと威嚇されていた。
「……しゃべれない獣か……」
まあ、しゃべる獣のほうが珍しいんだからがっかりするのも身勝手だな。
「去れ!」
軽い雷を周囲に放ち、斑虎を追い払った。
斑虎くらいならフレンズな獣人でもなんとかできるだろうし、無闇に殺す趣味はない。あっちいけ、だ。
逃げていく斑虎を見送ってからバルバのところへと向かった──ら、とっくに逃げて一匹もいなかった。
「完全に警戒されてるな」
まあ、警戒されようがオレの鼻は逃がさない。ってまあ、足跡がいっぱい残ってるからそれを追えばいいだけなんだけどな。
駆ける速さはオレのほうが上なのであっさり追いつき、最後尾にいるバルバに雷を放った。
痙攣するバルバの首に噛りつき、万力も顔負けな顎力? で噛み切った。
胴体を咥え、首から流れる血を周辺に撒いた。
なにをしているかと言えば、バルバにオレがいると示すマーキング的な行為であり、この原野にどんな肉食獣がいるかを調べる撒き餌でもある。
咥えていたバルバを放り投げ、五百メートルくらい離れて、周囲の雑草を風で切り取って体に覆った。
数時間待つと、上空に鳥が集まり出した。
「鷲かな?」
竜だったら最高なのに、神はオレの期待には応えてくれないようだ。
五百メートル離れているので鷲(仮)のサイズはいまいちわからんが、かなりデカいのはなんとなくわかった。
「って言うか、オレって視力いいな」
視力5・0はありそうだ。マサイ族並みだな。いや、マサイ族の視力なんてよく知らんけど。
「アニメみたいにレールガンとかできたらいいんだけどな」
そしたら五百メートルの距離も関係ないのに。
生憎とレールガンの仕組みなど知らないし、できるだけの電気を発生させるかもわからん。まあ、オレは雷と言うより風を操るほうが得意だ。レールガンじゃなくても石を飛ばすことはできるのだ。
風の筒を作り出し、手頃な石を装填。風を圧縮させて筒に解放する。
発射された! はしたけど、命中はしなかった。まあ、そりゃそうだ。
鷲の群れは逃げてしまい、どこかへと去っていってしまった。
「さようなら~」
と諦めてバルバの群れを探しに出た。
夕方にはバルバの群れを発見──したのだが、なんか増えてね? 軽く千はいるぞ……。
「……なんだ、あのニワトリの化け物は……?」
バルバは全高三、四メートルはあり、嘴は四十センチくらいある。そんなバルバより軽く二倍は大きい。もうモンスターの域である。
「しかも三十匹はいるな。どうなってんだ?」
大きさだけ言えばオレに匹敵する。
「なんかヤバイ感じがするな」
獣の勘と言うのか、胸の奥が冷たくなっている。こんなのはまだ母親に守られてるとき以来だぜ。
試しにと、レールガンならぬウインドガンで石を発射する。
三百メートルからの発射なので、バルバの一匹をぶっ飛ばせた。
さらにもう一発放つと、バルバの群れが騒ぎ始めた。
風を起こし、砂を舞い上がらせて姿を隠し、バルバの群れに近づき、雷の射程距離(五十メートル)内に入ったら全力を食らわせた。
砂風を解いて全力ダッシュ。バルバの群れに飛び込み、雷を四方へと放った。
感電死したバルバの首を噛み、棍棒のように振り回してさらに混乱させる。
──っ!?
殺気だかなんだかを感じてその場から大きく飛び去った。
バルバを吹き飛ばしながら姿勢を戻し、さっきまでいたところを見たらバルバが溶けていた。
どこぞのエイリアンほどではないが、毛がしゅーしゅーと音を立てて溶けていた。
……目に入ったら痛そうだな……。
「まあ、石化じゃないだけマシだな」
タダ酸を吐くだけなら風で防げばいい。ただ、群れで行動するモンスターは厄介である。
知能もそれなりにあるのか連携してオレを囲もうとしている。
……まだなんか隠し球持ってるっぽいな……。
多勢に無勢。退き時だな。
全力で雷を周囲に放ち、怯んだ隙──あ、夕食用に一匹いただかないと。手頃なものを咥えて撤退した。
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