第17話 呪法管理人

 知的生命体が三種集まった。あ、オレは除外ね。人間から転生した獣だし。


 人間、ケンタウロス、緑鬼。獣に転生してなんだが、オレってファンタジーな世界に生まれたんだな~ってつくづく思うよ。


「ゼルは、ベイガー族を知っているか?」


 この大陸、獣歴二十数年のオレにはわからないことばかりだわ。


「ああ。呪われた種族だ」


 呪われたって、この世界、大航海時代なのかファンタジーなのかはっきりしてくれ。方向性がバラバラだろうが……。


「そうなのか?」


 リドリルに確認する。


「……そう、呼ばれている……」


 不承不承ながらも認めるリドリル。そうなるくらいこの大陸に根づいた事実のようだ。


「そちらの邪魔にならないようにする! どうか追い払わないでくれ!」


 ゼルを見ると、苦い顔をしている。呪われた、と言うよりは嫌われた種族って感じだな。あー面倒事確定か。ハァ~。


「ゼル。問題は常に起こる。こちらの事情などお構いなしに、な。知らぬと突っぱねるのもいいが、それは問題の先送りだ。回り回ってより大きな問題になって降りかかるものだ。今は解決できなくても事情だけは知っておけよ」


 王になったらさらなる問題が次々と起こる。逃げたところで解決はしない。王に逃げるが勝ちなんてないぞ。


 ……支持率低下が王の最大の敵と知れ、だ……。


「リドリル。どうして呪われた種族と言われるようになったんだ?」


 事情がわかれば問題も見えてくる。解決できるとは言わんけど。


「コハドマバルに嫌われたからだ」


 ゼルに説明よろしくと目を向ける。


「言い伝えでは霊樹だったらしいが、ベイガー族が伐り倒して、霊樹が怒って呪いをかけたそうだ。それからベイガー族は醜く愚かな子しか産まれなくなった」


 遺伝子を変化させるとか、おっかねーのがいるんだな。


「なぜ、リドリルは大丈夫なんだ?」


「霊力がまったくないからだ」


 つまり、霊力のある者に効くってことか。霊力、スゲーな。


「セオル。人間には霊力があるのか?」


「個人差はありますが、大体の者は持っていると言われてます」


「ゼル。ゼルム族は?」


「たまに持った者も産まれるが、おれは一人しか見たことはない」


 ほぼないと判断していいってことか。


 霊力か~。厄介だな~。前世の記憶じゃどうにもならんしな~。専門家とかいねーかな~。


「話を戻す。ベイガー族を受け入れるか、それとも追い出すか、お前らの意見を聞きたい」


 判断できる材料がなさすぎる。いや、頭の中では決まっているんだが、呪いとか霊力とか言われてもわかんねーよ。


「わたしは、レオガルド様が認めるなら反対はありません。緑猿──いや、ベイガー族のことはまったくわからない。どんな種族かもわからないでは判断もできませんから」


 人間らしい答えだな。オレも思考は人間よりだけど。


「年寄りたちは拒むだろうが、コルモアの町で面倒を見るなら受け入れてもいいと思う。レオガルド様はなにか考えがあって連れてきたのだろう?」


 あれ? オレってわかりやすかったりする?


「まあ、ベイガー族の知恵は欲しいと思うな」


「知恵、ですか? こう言っては失礼ですが、そんな賢いようには見えませんが……」


 だろうな。呪いでゴブリン化(?)して着の身着のままな生活。木の棒を持つしかできないとあって、なにが知恵だと思うわな。


「弱者には弱者の知恵がある。強者に見えないものを弱者は見る。強者であることを自負するのはいい。だが、驕れる強者は弱者にも負けるものだ」


 それはオレにも言える。どんなに強力な牙や爪があろうとレイギヌスの弾を一発撃ち込まれたら……たぶん、死ぬ。あんなのを四方から撃たれたら勝ち目なんてないよ。


「真の強者は弱者を狩るときも全力を出す」


 まあ、相手を見極められるならそれなりの力で狩ればいいだろうが、集団を相手するなら警戒して損はないはずだ。


「セオル。コルモアの町に呪霊師はいないのか?」


 いなくてもレイギヌスを管理するヤツは欲しいだろう。アレが半永久的に効果を維持し続けるなら別だけどよ。


「……おれは管轄外だったからわからんが、呪法管理人ならいるとは思う。ちょっと聞いてくる」


 そう言ってどこかへと駆けていき、しばらくして若い女を連れてきた。


「この女が艦隊の呪法管理人です。レオガルド様に名を告げろ」


 そう凄むなよ。怖がってんだろう。知らない者からしたらオレは化け物なんだからよ。


「……ミ、ミレア・レンダルです……」


「そう怖がらないでいい。オレは人間は食わんから。ゼルム族もベイガー族もな」


 あ、ゴブリンは昔食ったっけ。でも、もう食わないから安心しろ。


「呪法管理人と呪霊師はどう違うんだ?」


 教えてルプミー。と、にっこり笑えないのでゆったり腹這いとなった。


 ……表情筋がないと不便だぜ……。


「じゅ、呪法管理人は、国が定めた専門役職で、レイギヌスの弾や槍などを作ったり、管理したりします。呪霊師のように汎用なことはできません」


 なるほど。分業にした感じか。


「あの金属は特別なものなのか?」


「は、はい。希少金属です。どこで採取するかは上級呪霊師しか知りません」


 秘密扱いか。こりゃ手が出せんな。


「ミレアはレイギヌスに霊力を籠められるんだな? と言うか、霊力をただ籠めるだけか?」


「いいえ。光系の霊力じゃないとダメです」


 ヤダ。属性とか出てきちゃったよ! 厄介度、アップだな!


「ハァ~。セオル。呪霊の系統とかを文字にして記録に残してくれ。あとで読むから」


 今言われても頭に入ってくるかわからない。落ち着いてからじっくり頭に入れるよ。


「リドリル。しばらく置いてやるし、食料も渡す。その間に自分らの価値を示せ。お前らは食える植物を知ってそうだからな」


 ゴブリンが食って大丈夫なら人間でも大丈夫なはずだ。違いは徐々に調べていけばいいさ。


 解散、と言いかけて止めた。もしかしてと、ミレアを見た。


「レイギヌスの弾を持ってこい」


 そう命じた。

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