第16話 オレ、ゲルボアルって獣らしい

 嫌なことほどよく当たる。


 食料を調べたら保存庫の中は空に近く、家畜も数えるほどしかいなかった。


 唯一の救いは畑を荒らされてなかったことか。今年の収穫はそれなりのものになるんじゃないかとのことだ。


「……まだ収穫まで数ヶ月あるんだがな……」


 コルモアの町の人口は三百人くらい。ここにきた頃から比べたらかなり増えているそうだが、畑も産業もなく他からの支援もない。これで統治しろとか無理ゲーでしかない。神よ、我にチートを与えたまえ!


 なんて願っても与えられるわけもない。今ある力でなんとかするしかない。


「海が近いだけまだマシか」


 コルモアの町のヤツらは魚も食べる。漁もしてるし、軍船を操れる船員もいる。そいつらに漁をさせて秋まではそれで乗り切るしかないだろう。


「セオル。コルモアの男女比はわかるか?」


「男女比、ですか?」


「ああ。生き物が発展するには子を作らなければならんだろう。女が少なければ奪い合いが起こる。争いを避けるためにも事前に調査して対策しないとならん」


 人間が滅びるなら滅びるで構わんが、人間の技術がなくなるのは惜しい。ゼルム族より人間のほうが優れている。発展のためには人間には増えて欲しいのだ。


「七対三、くらいかですかね?」


「元のところでは人口調査や戸籍調査とはやっていたか?」


「……あなたは、いったい……?」 


 不審な目を見せるセオル。まあ、無理もなかろう。獣が言うことじゃないしな。


「オレがなんであろうと関係ない。オレはギギのためにやってるんだからな」


 ギギは人間だ。獣といっても幸せにはなれない。某犬神様も苦心してたしな。だから、オレが人間社会に入る。それもそれで苦心することはいっぱいあるけどな……。


「人口調査と戸籍はちゃんとやっておけ。と言うか、紙を作れるヤツは生きているか?」


「すまない。そこまでは調べてない」


「発展させたければそう言うことをよく調べておけ。国として成り立っておかないとミドガリア帝国が攻めてきたとき奴隷落ちするぞ」


「そう、だな。もう祖国に戻れないのだから負けないようにするしかないか……」


「その覚悟でがんばれ。お前も嫁をもらい、子を作らんとならんのだからな」


「嫁か。確かに重要な案件だな」


 セオルも三十歳近い。嫁をもらわないと文字通り、一生独身貴族になるだろうよ。


「ゼル。コルモアの町の守り、頼むぞ。オレは周辺の獣を狩りをしてくる」


「わかった」


「よく人間を見て学んでおけ。いずれお前に国の王を任せるんだ、人間の考え、性質、暮らしを知っておかなければ苦労するぞ」


「お、おれが王!?」


「人間は他種族に寛容ではない。人間から王を出したらゼルム族は滅亡させられるか奴隷にさせられるかのどちらかだ。そうならないために人間をゼルム族に受け入れさせるんだ」


「…………」


「そんな顔をするな。お前らがギギに忠誠を誓うならオレはゼルム族を蔑ろにしたりはしない。オレはギギのためなら嘘はつかない」


 ギギに王は向いてない。面倒事を押しつけるのも可哀想だ。なら、ゼルに押しつけてしまえばいい。ゼルは誰よりも同族の未来を憂いているんだからな。


「今すぐってわけじゃない。少しずつやっていけ。まだ人は少ないんだら」


「……わ、わかった……」


 自覚を持つのも一朝一夕にとはいかない。少しずつやっていくしかないだろう。


 がんばれと言い残して狩りへと向かった。








 何年もコルモアの町にきてなかったからか、ゴブリンがやたらと増えていた。


 狩りをしているゴブリンを逆に狩っていると、なんか集落っぽいところを見つけた。


「集落を作るくらいには知恵があるんだな」


 枝葉を集めて家を作り、木の槍を持ち、火を使った形跡まである。猿人くらいの脳ミソはあるようだ。


 気配を殺しながら観察していると、なんかガタイのいいゴブリン? が現れた。


 ……ボスかな……?


 人間の子供くらいのゴブリンに対してボス的なゴブリンは人間くらいあり、筋骨隆々だ。と言うが、緑色の肌をした人間だな。角、あるけど。


「何者だ!」


 と、持っていた鉄の槍をこちらに投げてきた。


 ──しゃべっただと!?


 槍はオレに激突したが、鉄の槍程度でオレを傷つけることはできない。こんなの枝が触れた程度でしかない。


 気配を出してボス的ゴブリンの前に出た。


「……ゲルボアルがなぜここに……!?」


 ゲルボアル? オレのことか?


「お前、言葉を使えるようだな」


 猿ゴブリンはギーギーと鳴くだけなのに。この世界のゴブリンはゲームみたいに進化するのか?


「縄張りだったのなら謝る! 食わないでくれ!」


 両膝を地面につけて、祈るように懇願するボス的ゴブリン。なんか、文明を持った感じだな。もしかして、どこかで社会を築いているか?


「別に食いはしない。だが、この一帯はゼルム族と人間が支配している。狩られたくないのならどこかへ立ち去れ」


 ゴブリンは人間も食わない。狼もよほど飢えてなければ食わないほどだ。お前ら、どんだけ不味いんだよ?


「そ、そちらにはなにもしない。獲物も奪わないようにする。どうかここに住むことを許して欲しい!」


 頭を地面につけて懇願し始めた。


 ……また厄介なことになったものだ……。


「なら、ついてこい。ゼルム族と人間に合わせる」


 ゴブリンが害獣でないのなら利用しない手はない。いや、食料問題がさらに難しくなるが、ゴブリンの知識が手に入るのたらよしとしよう。こいつら、たくさんの木の実やら草を集めている。これはもしかしてもしかするかもしれない。


「お前、名前はあるか?」


「リドリル。ベイガー族だ」


 また新たな種族か。この大陸、生命に溢れてんな!

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