第7話 レオノール

 道具があればやることが増える。文明の利器とはよく言ったものだ。


 暖かくなりギギたちが働くところを眺めていたらミレナーの民が団体でやってきた。と言うか、移住してきたって感じだな。


 この集落はギギをリーダーとしているので、ギギを立てて顔合わせをする。


「こ、この集落を纏めているギギです」


「ミレナーの民、族長のリギと申します」


 ギギに言いながらもオレに意識が向いているのがわかる。


 まあ、オレの話は聞いてるだろうが、こんな図体のデカい獣がギギの横にいたら気にならないわけがないわな。


「まずはゆっくりしてください。魚を用意しましたから」


 ゼルム族では魚はご馳走らしく、ゼルも喜んで食っていたっけ。もしかすると、昔は海岸線で暮らしてたのかもな。


 ……もしかしてオレ、ここの食物連鎖を変えちゃったりしてる……?


 なんて頭の中を過ったけど、栄えたり滅んだり生まれたりの繰り返し。次の世がこいつらってことなんだろう。子を残すなんて考えてないオレは、ギギが幸せならそれでいいさ。


 ミレナーの民との交流はギギたちに任せ、オレは二種族を見守った。


「これをどうぞ。我らが作った酒です」


 なにかの胃の形をした作った袋を出した。


「子供にはまだ飲ませるな。大人だけで飲め」


「レオガルド様、どうしてですか?」


「子供のうちは体に悪いからだ。あと三年か四年したら飲んでもいい」


 異世界でお酒は二十歳を過ぎてから、なんてことは言わないが、ギギはまだ十二歳くらい。さすがにアウトだろう。


「レオガルド様は飲んでもいいんですか?」


「大丈夫だろうが、オレは人の味覚とは違うからな、旨いと感じるかはわからん」


 肉と魚の味の違いはわかるが、植物の味は同じようにしか感じない。甘い果物なら甘いとは感じたな。


 今のところ旨い、苦い、しょっぱい、不味い、甘い、かな?


 一応、オレも酒を飲んだが、なんか果物の味かな~ってくらいしかわからない。アルコール度数も低いから酔いもしなかった。


「ギギ。町で樽を作る者はいたか?」


 樽があるのは見たことがあるし、水を溜めておくようの樽が集落にもあるが、作ってる者はいなかった。


 ギギはわからないようで、長老格の老人を見た。


「はい。作る者はいます。開拓団の半分は職人なので」


 言われてみれば納得か。なんの技術もないヤツを未開の地に連れてってもなにもできずに滅ぶだけだしな。


「樽があれば酒はもっと旨くなるんだが」


「──それは本当か!?」


 と言った言葉がミレナーの民の男たちの心に火をつけてしまったようだ。


「まあ、いろいろ手間はかかるがな」


「構わない。旨い酒が飲めるなら!」


 種族に関係なく『好き』はとんでもない行動力をみせるもので、樽を見せて構造を教えると、すぐに作り始めた。


 んな無茶な。とは思ったけど、数日後にそれなりの樽を作ってしまった。


 まあ、水を入れたら至るところから漏れている。が、樹液で隙間を塞いだら塩を入れるくらいには使いものにはなった。


「せっかくだからミレナーの民も職人を育てろ。暮らしが楽になれば子も増えるからよ」


 こうなると金属製の道具が欲しくなるよな。どこかに鉄鉱石とか落ちてないかね。


 ってか、その前に窯か。泥粘土を火で焼けばそれなりの煉瓦ができるかな?


 窯の作り方を知っている者がいるので、ミレナーの民を使ってたくさんの窯を作らせた。


 陶器用の窯(うろ覚えだけど、芸術品を作り出すんじゃないんだから無問題)も同時に作り、壺やカップなどを焼いた。


「と言うかゼル。ミレナーの民はここに住むのか?」


 春から夏へと移り変ってからの今さらな質問。オレ、のんきか?


「ダメか?」


「いや、こちらは人手が増えて助かるから構わんが、元々住んでいたところがあるんじゃないか?」


 住むところがあって、別の場所に移り住むって一大事だろうに。


「ゴゴールの民との戦いが激しくなって、移る場所を探していた」


 大森林でなにかきな臭いことが起こっているようだ。


「なんだ、ゴゴールとは?」


「毛の多い、人間に似た生き物だ」


 ん? 毛が多い? 人間に似た? え、獣人か?


「危険な民なのか?」


「危険と言うか、縄張り意識が高い。昔からよくゼルム族とぶつかっていたが、祖父の代で殺し合いになった」


「それでよく人間を受け入れたな?」


 普通、他の種族と戦っていたら人間だって受け入れないだろうに。


「人間には命を救われ、知恵をくれた」


 あーうん。ミレナーの民がこうして生き残ったのが理解できたよ。この柔軟な考えがあったから生き残れたんだろうな……。


「もっと連れてきてもいいだろうか?」


「人間を受け入れられるなら好きにしたらいいさ。オレはギギを幸せにするためにいるからな」


 ギギはオレの生き甲斐。世界の中心。害にならないのならなんでもいいさ。


「助かる」


 誰かを走らせたのか、秋になる頃には百人近いレミナーの民がやってきた。のだが、その中に人間が八人いた。


「これで全員か?」


「いや、半分だ。集落を離れたくない者もいるのでな」


 郷土愛を持ったらゼルム族も人間も違いはないか。種の出発地点は違うのに、通る過程は同じなんだな。


「皆さんを受け入れます。一緒に生きていきましょう」


 オレはなにも言わないが、ギギに従えないなら排除すると睨みを利かせた。


「は、はい。よろしくお願いします」


 代表者っぽい男が前脚を折って頭を下げた。空気が読める種族も発展するぜ。


「我もよろしくお願いします」


 人間の代表なのか、四十歳くらいの男も膝を地面につけて頭を下げた。長いことミレナーの民といて習慣づいた感じだな。


「はい。皆さんの知識を頼りにさせてもらいますね」


 こうして集落──って、名前なかったな。気づけよ、オレ。


「ギギ。ここの名前をつけろ」


「集落のですか?」


「ああ。それに人数も百人を越えたから村でいいだろう」


 集落と村の定義など知らんが、百人を越えたら村のほうがしっくりくるだろうよ。


「レオノール。レオノールの村にします。約束の地って意味です」


 なんかの宗教から取ったのか?


「いい名前じゃないか。では、皆にレオノールの村と知らしめろ」


 これから何百年と続く地になるといいな。

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