第8話 秋

 道具があればやれることが増え、人が増えれば分担ができる。数は力とはよく言ったものだ。


 季節は秋に突入。実りの季節だ。


 去年は魚と木の実で乗り切ったが、今年は作物や肉があるので心豊かに過ごせそうだ。


「レオガルド様。ゴノを採りにいってきます」


 ミレナーの民数十人が籠を背負い、オレの寝床(石を積んで高くして、村を眺めてます)にやってきた。


「ああ。たくさん採ってきてくれ」


 ギギに腹一杯食わせてやりたいからよ。


「はい。お任せを」


 笑顔で出発するゼルム族。暮らしが安定すると顔つきも変わるんだな。きた頃は険しい表情だったのによ。


 ゴノを採りにいくゼルム族から煉瓦を積んでいるゼルム族に目を向けた。


 二十人でやっているからか、毎日泥煉瓦が百近くできている。


 その分、薪が必要になり、集めるのにも数人がかりだ。


 ……木の伐りすぎに注意しないとな……。


 まだ植林なんて技術も概念もないから、生活圏ができたら分散して木を伐るように言わないとな。


 樽作りも順調で、水漏れしないものを作れるようになった。酒飲みパワーは凄いもんだ。エロゲーでパソコンが上手くなる理論かな?


「レオガルド様。ブブルを採りにいってくる」


 ブブルとは山葡萄みたいなものらしい。干したものをギギが食べたら目を輝かせていたっけ。


「オレもいく。ギギが好きみたいだからな」


 ギギが喜ぶ顔を見たい。いっぱい採って毎日食えるようにしてやろう。


 道具が増え、人が増えればオレにやれることはない。最近は狩りにいく以外は寝床で村の発展を眺めていることが多いのだ。狩り以外にも動かんと村の連中から石像扱いされそうだ。


 ゼルム族の足に合わせてのんびりゴノが生るところに向かっていると、上空に赤い竜──火竜がいるのに気がついた。


「久しぶりに見たな」


 母上様に育ててもらってた頃はよく見ていて、狩られる立場だったが、一人立ちしてサンダーランスを撃てるようになってからは見なくなっていたのだ。


「降りてこないかな~」


 火竜の肉って旨いんだよ。特に心臓が。血もなにか力漲る味がしたしな。


 こちらの欲望を受信したかのように火竜は空の彼方に消えてしまった。


 村を出て二日。森が甘ったるい匂いを放っていた。


「凄いな」


 一面のブブル──ではないが、至るところにブブルが生っており、幾種類の猿が集まっていた。


「種の宝庫だな」


 植物だけ食った猿は淡白だが、冬前の肥えた猿は油が乗っていて秋を感じる味だった。


「放電!」


 ゼルム族から離れて辺り一帯に軽い雷を放って隠れている猿を気絶させた。


 ボタボタと落ちてくる猿。カブトムシのようだ。


 猿は一口サイズからゴリラサイズまでいろいろ。これだけ多種な猿がいて争いが起きないんだからここは豊かなんだろうよ。


 すべてを食うことは無理なので肥えたものを主にいただきます。バリボリバリ。


 腹八分目で止めておき、ゼルム族のところへ戻った。


 ブブルが生っている木は五、六メートルくらいあり、前足から頭まで二メートルくらいのゼルム族には下のほうしか届かず、Y字の棒を使って四メートルのところのを採っている。


 やはり知恵がある種は生存競争に勝つんだな~。


 手のないオレはゼルム族が収穫に集中できるよう見張りをしながら作業を見守った。


「こうも甘い匂いが強いとキツいな」


 猿の血よりブブルの匂いのほうが強くて、ちょっと辛くなってきたぜ。


「少し、そこら辺を見回ってくる。なにかあれば笛を鳴らせ」


 鎧竜の骨で作ったもので、皆に持たせてあるのだ。


 まあ、モンスターの気配なら匂いがキツくてもわかるが、蛇とかだとわかり難いんだよな。あいつら、臭いも薄くて気配もない。よく寝てたらいつの間にか絡まれてたことが何度もあったっけな。


 オレの気配で大物はいないが、猿が溢したものを狙って小動物(オレから見たらな)がいたるところに見て取れた。


 普通ならオレを見ただけで逃げ出すのだが、オレの満腹気配がわかるのか、逃げ出すことはなく、一心不乱に落ちたゴノを貪っていた。


 自然界で無駄な殺しはご法度。冬を越せる肉は塩漬けにしたり燻製にしたりしているので、小動物を横目に散策する。


「んお? ひょうたんが生ってるよ!」


 まさしくひょうたん。どこから見てもひょうたんであった。異世界でもひょうたんとか生るんだな。異世界マジわけわかんねー。


「塩とか入れたり水筒にしたり、いろいろ使えそうだ」


 小学生の頃、体験学習でひょうたん作りしたっけな~。懐かしいぜ。


 風の刃でつるを切り、爪で丸く纏めてゼルム族のところへ戻った。


「ミゴルじゃないですか」


 こちらではひょうたんをミゴルと呼ぶらしい。


「ゼルム族も使っているのか?」


「はい。入れ物と便利なんですが、生っているところが少ないんですよ」


 そうなんだ。オレは運がいいぜ。


「じゃあ、またくるか」


 一回の収穫では微々たる量。何回かに分けてくる計画はしていた。回数が多くなってもひょうたん──ミゴルを集めておくほうがいいだろう。


「そうですな。冬の仕事にもなります」


 あ、冬の仕事か。なら、籠もたくさん作ってもらうか。オレ用の、な。


 それからブブルがなくなるまでここに通い、ミゴルも何百と収穫した。


 と言ってもオレはたまにくるくらい。大型モンスターが近寄ってこないための威嚇するためだ。村でもモンスターが近寄ってこないようにしなくちゃならないからな。


 一旦、泥煉瓦作りは止め、ブブル酒作り、ミゴル作り、壺作りをする。


 ブブル酒は昔からあり、工程は葡萄酒作りと変わらないからオレが口出すこともなく、ミゴルも以下同文で壺作りも以下同文で進んでいった。


 日に日に気温は下がっていき、雪がちらついてきた。


 もう何度目の冬だろうな?


 二十回にはなってないとは思うが、獣で二十年は生きているほうだと思う。が、衰えは感じない。もしかすると結構長生きな種なのかもしれんな。


「レオガルド様。どうしました?」


 村ではなく湖を眺めていたらギギがやってきた。


「なに、いつまで生きれるかと考えてただけだ」


「……死ぬんですか……?」


 ヒゲを引っ張るんじゃないよ。敏感なところなんだからさ。


「ギギの子、いや、孫が産まれるまで死なないよ」


 少なくともお前が年老いて死ぬまでは生きてるよ。お前はオレの生きる理由なんだからな……。

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