十一想 ボケたつもりはないらしい

「寝起き早々、他の女性を想っておられるのですね」


 ドア越しでも何考えてたか分かったのかな、

コリレがいなくてさみしかったんだけど。


「んう、気にしないで、想ってないよ、初恋の人を考えていただけなんだから」


「余計に許されませんよ、と言ってもマスターが想える方は、私以外で義姉あね上しかおられませんか」


 想ってなんかいないのに、もう嫉妬深いんだから。

 相変わらず私が大好きみたいで安心感、

身体に十分刻まれてるけど、愛はあり過ぎて悪いという事はないな。


「そういえばお姉ちゃんのことを考えたのは久しぶりかもなぁ」


「マスター、私の前でその思考は無神経すぎるとは思いませんか、食事が抜きでもいいんですね」


「あ、いるいる、やめるやめる」


 お姉ちゃんのことを考えるのはやめよう。

 コリレが近くにいない時にしておこう。

 前のことだから気にしなくてもいいと思うけどね。


 あれ?ごはん持ってきてるんだ。

 …ごはん、

 …猫、

 …首輪、

 …お箸が一膳。


 …餌付け…?


 そういうプレイ…?

 でも名前呼びじゃないんだよな。


 もしかして抑えられなくなった?

 でも発情はしてないし…。

 あれ?


 確かに今までもテーブルマナー度外視で食べさせてきたことはあったけど、

そういう時は名前呼びだったし。

 平常時のコリレが真面目じゃないなんて…。


 珍しいけどかわいいからいっか。

 私への愛が強すぎるってだけだろうし。


「口を開けてください」


「はーい」


 今日のご飯は前に放した幼虫と枝豆みたいなものを、

醬油とかを使って煮たものみたいだね。


 ちゃんと虫の牙が処理されてるのを近所の人にもらってるから快適に食べれる。

 この幼虫は生だと柔らかくて嚙んだ食感が、

ソフトキャンディーを食べてるみたいで気持ち悪いんだけど。


 ある程度あっためると固まって、

豚肉の油脂みたいな食感と味になるから見た目以外は最初から平気だった。

 10年くらいは見た目できつかったけど。


「はく」


 むぐむぐ、おいしい。

 あとコリレはあっためた後ならおいしく食べてたと思う。

 それも最初から。


「はく」


 むぐむぐ。

 ちょっといつもより味が濃い感じがする。

 運動した後は塩を食べたほうがいいっていうけど、

私たちにはあんまり関係ないんだよね。


 でもトイレには行くし。

 お腹が減るような感覚はある。

 これも神様に聞いてみよう、急いでない時にね。


「私も頂きます」


 鍋からとって食べてる。

 コリレもおいしいと思ってるのかな…!?


 鍋だ…。

 お皿とかフライパンじゃない…。

 鍋だ…。


 鍋と言っても家庭用の、カレーとか作るときの鍋だけど、

 鍋だ…。


 しかも鍋から直接だし。

思い返してみたらさっき私に食べさせてくれたのもお箸で直接とってだったし。


「あの…コリレ…?」


 コリレさん…?


 あっ、手のひらを見せてきた。

 待て、ね。

 私は犬か、

比喩的な意味では間違ってないけど!


 あ、飲み込んだ。


「案外美味しくできましたね、どうされましたか、マスター」


「ねえ、鍋ごと…?」


 多くない?

 鍋の四分の一ぐらいに詰まってるけど…。


「?はい」


「全部…?」


 それはさすがに食べれても見た目でつらいよ。


「いえ、私も頂きますので」


 ああ、よかった。


「八分の七程をお食べください」


 え、それでも多いんですけど、あの…。


「お食べください」


「はい…」


 これだけはきついって…。



「ごちそうさまでした」


 腹八分目くらいのちょうどいい感じにはなったけど。

 同じものをひたすら食べ続けるのはさすがにしんどくてこれ以上入らない。

 だいたいは食べましたけど!


 相手が相手だったらちゃぶ台返しならぬテーブル返ししてる。

 あの斧を振り回せるんだからいける。


「お粗末様でした、私もお腹が空いていたので直ぐに作れる上に量を作れる物を選びましたが、自覚している以上に空いていたようです」


「四分の一くらい食べてたもんね」


 私が四分の三ほど食べたはず、

だいたいって言ってるから間違いない。

 八分の七食べてたらほとんどって言うはず、顎の疲労感的に。


 それに途中から私用のお箸持ってきてたし、

片手で食べるのむずいからベッドに少しこぼしてる。

 落としたご飯は拾って食べてるけど、うん。


 今見てみりゃシーツが酷いことになってるな。

 考えないようにしよう、私の心のためにも。


 なんか黄色い汚れがある気もするけど気にしない。



 あ、そうだ、

聞きたいことがあったんだ。


「ねえコリレ、漫画とかで主人公の彼氏とかが他の女の子と話してる時にね」


「はい」


「その時に主人公が、胸がぎゅっとするとかもやもやするみたいな事を言うけど」


「ありますね」


「あれって嫉妬であってるよね」


 多分そうだと思うけど、うろ覚えだから心配。


「はい、嫉妬と言う筈です」


「よかった~」


 コリレに聞いてよかった。


「コリレはよく嫉妬してるもんね」


「…は」


 あ…、これ怒ってる。

 だって”は”のニュアンスがは?だったから間違いない。

 抑揚無いから疑問符が付かなかったけど、間違いなくイラついてる。


「ご、ごめんなさい」


 何が原因?

 って言っても私が”よく嫉妬してる”って言ったのが原因だろうけど!

 よく嫉妬してるのは間違いないはず…。


 あ。


「私の衝動が、感情が、嫉妬などという甘いものだと思われていたのですね」


「はい、すみません」


 心は壊さないでいただけるとうれしいです。


「許しません」


 はい…。

 お嫁さんの気持ちが理解できておらず申し訳ありませんでした。


「ただ私も疲れておりますので、今は刻み込みません、次にマスターがお帰りになられた際に行いますね」


「うん…」


 ”刻み込む”になにでとか何にとかがなかったのが一番怖い。

 それにもう身体には刻んであるし。


「一つ教えておきますね、私がよく感じている情動は独占欲というものです、はう」


っつ…」


 嚙みつかれた、

 鎖骨の上あたりにすごい力を入れられてる。


 それでもいつもよりは優しめにしてくれてるみたい。

 顎が疲れてるのかな。


 だってまだ痕の範疇の痛さだし。


「はあ、ふー、今はこれくらいにしておきましょう」


「私も痕つけていい?」


 ずっと見てたらちょっとね。


「分かりました、が、まだ説教自体は終えてませんからね」


「はーい、あむ」


 同じところにつけよ。


「んっ」


 え、えっちい…。

 やめてその声。

 我慢が利かなくなるじゃん。


 私の付けた痕から、曲がった白糸が私の口まで届いてる。

 自分がつけたってことがわかりやすい。


「くー、ついたよ」


「報告されずとも痛みで分かります」


 確かに。


「私に痕がつくと暫く消えないのですが遠慮がありませんね」


「私の辞書に遠慮の文字はそんなにないからね」


「そうでしたね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る