幕間31 ジゼル視点
「久しぶりね、ジスラン。よくも私の大切な友人を傷付けようとしてくれたわね」
いつかに見た光景と台詞だ。
どうしてエル様がここに?
彼女は熱があるのに。早く帰さないと。
考えている一瞬のうちにエル様は私とジスランの間に立って彼を強く睨み付けていた。
「エル様…お逃げください」
伸ばして触れた手は熱を帯びていた。立っているのも辛いはずなのに大規模な魔法を使って、身体を壊したらどうするつもりだ。
私の気持ちは伝わっているのにエル様は優しく笑って「大丈夫よ」と頭を撫でてきた。
「ジスラン、多勢に無勢とはやる事が卑怯だと思わないの?」
「ジゼルには少し眠って頂くだけのつもりでした」
「それでジゼルを連れ去って私を居場所を聞き出そうと尋問する予定だったんでしょ」
一瞬ジスランの眉が動いた。図星なのだろう。
ただの尋問程度で私が口を割らない事は彼も分かっている。私に施そうとしたのは拷問だ。
エル様もそれが分かっているのだろう。彼を冷たい表情で見つめていた。
「旦那様はガブリエル様をお探しです」
「もう会ったわ」
「どうしてお戻りになる事を拒否されるのですか!」
「それを貴方が聞くの?お父様の命もなく、あの子爵令嬢を守ろうと私に暴力を振るったくせに?」
ジスランの顔色が一瞬で悪くなる。
公爵がエル様を殴りつけた事は知っていた。ただジスランが同じような事をしていたのは知らなかった。
衝撃の事実に驚いていると彼は膝立ちを崩し、頭を下に擦り付ける。
「も、申し訳ございません…!あの時は…」
「魅了にかかっていたから許せって言うの?」
「どうしてそれを…」
「貴方に教える義理はないわ」
アンサンセ王国で魅了にかかっていた人は皆エル様がそれを解いたと知らない。
魅了にかかっていたから馬鹿な事をしてしまった。
そう謝れば許して貰えると思っているのだろう。
「魅了にかかっていたからといってされた事を許してあげられるほど私は優しくないの。お父様もアンドレもシリル殿下も、貴方も誰も許すつもりはないわ」
何も言い返す事が出来なくなるジスラン。
罪を犯した相手であるエル様に許すつもりはないとはっきり告げられたのだ。何も言えなくなって当然の事である。
「貴方達を許すつもりはないし、アンサンセ王国に帰る気もないわ。お父様にそう伝えなさい」
言いたい事を伝えるとエル様は指を鳴らす。
氷漬けになった捜索隊と護衛達が解放されてく。全員気絶しているが呼吸はある。死んではいないだろう。流石はエル様の魔法だ。
「王国には貴女の力が必要です…」
ジスランの言葉にエル様は顔を顰めた。
彼女の優しさに漬け込もうとしているジスランに苛立った。彼女の手を握って「話に耳を貸す必要はありません」と伝える。
「もう戻らないと決めたの。さっさと下がりなさい」
「ガブリエル様…!」
手を伸ばすそうとするジスラン。しかし天から降り注ぐ雷光が彼の身体を貫く。エル様によって強力な魔法を喰らった彼は頽れ呻き声を漏らす。
「二度と私に関わらないで。次は手加減しないから」
エル様の本気が伝わったのか、痛みが酷いのかジスランは何も言わずに倒れ込んだ。
「行くわよ、ジゼル」
私の手を引いてジスラン達の前を後にするエル様。路地裏に降りたところで身体を揺らした。
苦しそうに息を漏らし、ぐったりとする彼女の身体はさっきよりも熱くなっている。
「どうして来たのですか…」
「ジスランの気配がしたからよ」
私ではジスランに敵わない。分かっていたから助けに来てくれたのだ。
「私の事など心配されなくても…」
「大切な友達を助けるのは当たり前の事よ」
この人は本当に…。
私の頰を撫でて「今ならジスラン達は追って来れないわ。宿に戻りましょう」と笑うエル様に泣きたくなった。
守りたいのに肝心な時こそ守らせてくれない。
弱い自分が情けなくなる。
「次こそは守らせてくださいね」
「ジゼルが私よりも強くなれたらね」
くすりと笑うエル様。
この人は敵う気がしないと苦笑いが漏れた。
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