第59話
「なるべくジェドには失礼な事をさせないようにしますので」
既に手遅れな気がするけどこれから気をつければ良いだろうと声をかけるとジェドは「気にしなくて良い」と笑ってくれた。
「ジゼルとはいつからの知り合いなんだ?」
「かれこれ十年くらい前ですね」
「十年前か…」
意味あり気な表情を向けられる。
十年前からの知り合いだったら変なのだろうか。首を傾げながら「どうかしましたか?」と尋ねる。
「いや、長い付き合いなんだな…」
「そうですね」
今となってはジゼルが一番の理解者だろう。
階段下まで向かうとロビーのソファで腰掛けていたジゼルが「エルさん!」と駆け寄ってきた。わざと私とジェドの間に入るように立つ彼女に二人揃って苦笑いになる。
「さて、行きましょうか」
宿屋を出るとジゼルの案内を受けながら歩いて行く。
昼間賑わっていた町は静まり返っており、灯りも弱くなっている。
「ジゼル、どこに向かっているの?」
「路地裏ですね。さっきからずっと同じ場所に居ますから犯行最中かもしれません」
「急いだ方が良いわね」
路地裏に入って行くと遠くから声が聞こえてくる。
一人二人じゃない。五人くらいは居そうだ。ただ集まって騒いでいるだけかもしれないが警戒はした方が良いだろう。
「お前、本当に気を付けろよ」
「バレたら捕まるぞ」
「大丈夫ですよ、上手く誤魔化せましたから」
違和感のある会話が耳に届いた瞬間ぴたりと足を止める。それはジェドとジゼルも同じようだ。
物陰に移動しながら男性達の会話を聞く。
「そもそも警備隊がちゃんと巡回してくれたらこんな事をしなくて済むのに」
「無理無理、この町の警備隊はやる気がないんだ。事件が起きていようが無視だぜ」
「路地裏に住む人の事も考えて欲しいですよね…」
聞こえてきたのは警備隊の愚痴だった。
ちらりと覗き見ると男性達は面倒臭そうな表情で殺した虫を路地裏の壁に貼り付けている。
思わず悲鳴を上げそうになったのは虫が苦手なせいだ。
「エル、顔色が悪いぞ?」
「虫が苦手なのですから無理しないでください」
「大丈夫…。それよりもあの人達に事情を聞いた方が良さそうですね」
彼らは積極的に虫を貼り付けているようには見えなかった。さっきの警備隊の愚痴と良い。こんな馬鹿な事をする事情が何かあるのだろう。でも、虫を持っている人に近づきたくない。
「エル、ジゼル、俺が捕まえてくるから少し待っていろ」
ジェドは男性達のところに駆けて行った。流石に一人で任せるわけにもいかず私も飛び出すと「私も行きます」とジゼルもついて来る。
私達の登場に男性達は驚いた表情を見せる。その中で一人だけ。昼間ジェドに捕まった人だけは顔を青褪めさせていた。
「も、もしかして警備隊の人間か?」
「ばかっ、あいつらがこんなところを巡回するわけがないだろ!」
男性達は怯えた様子を見せるだけで敵意があるようには見えなかった。
これなら話を聞けるだろう。
「あの、私達は少しお話をしたいだけです。こんな事をしている事情を聞かせて貰えませんか?」
怯えさせないように、逃げられないように優しく穏やかに声をかけると男性達は顔を見合わせる。そして諦めたように溜め息を吐いた。
「警備隊の屑どもに言わないなら話してやる」
リーダー格っぽい人に声をかけられて頷いた。
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