第58話
「そろそろ行きましょうか」
日付けが変わったのを確認するとジゼルに声をかける。
「居場所を確認するので少し待ってください」
「分かったわ」
ジゼルが例の男性の場所を確認している間にジェドを呼びに行く。部屋を出る際に「寝ていたら二人で行きましょうね」と声をかけられた。
相変わらずジェドが嫌いみたいだ。
彼の部屋まで向かい扉を叩く。
「エルです。ジェド、起きていますか?」
「起きている」
ドタバタと音が聞こえたと思ったら勢いよく扉が開いた。寝惚けた表情と髪の毛が乱れているところを見ると寝ていたのだろう。
眠かったら寝ていて良かったのに。
「ジゼルは?」
「私の部屋で男性の位置を確認して貰っています」
「そうか」
「そろそろ終わっているはずですので呼びに行ってきますね」
「じゃあ、俺は外に出る準備をしている」
今のジェドは寝間着姿だ。いくら深夜といっても寝間着で外に出るのは気が引けるのだろう。頷いて「分かりました」と返事をする。
私も動き易い格好に着替えた方が良いわね。
自分の部屋に戻ると何故かジゼルが私の着替えを用意してくれていた。
「何してるのよ」
「エルさんが着替えると思って用意しておきました。手伝いますか?」
私がワンピースを着ているからこそ着替えると思ったのだろうが察しが良過ぎる。
「お気遣いありがとう。でも、手伝いは要らないわ」
もう何も言わない。どうせ言ったところで聞いてくれない性格だと知っているからだ。
私の服に伸ばされたジゼルの手を捻り上げて微笑む。
「要らないわ。貴女も着替えて来なさい」
ジゼルもスカートを履いている。彼女ならスカートであろうと人を追いかけられるけど部屋から追い出す口実が欲しかった。
諦めた表情で「分かりました」と部屋を出て行くジゼルにロビー集合という事だけ伝える。
「本当にジゼルは懲りないわね」
着替えてから部屋を出ると同じタイミングで部屋から出てくるジェドがいて目が合う。
先程と違って身なりを整えている彼は顔を洗ったのか寝惚けた表情じゃなくなっていた。
「ジゼルはどうした?」
「下で待って貰っています」
答えるとジェドは納得した表情で「そうか」と頷く。
二人揃って下まで向かう。
「二人きりになるのは久しぶりだな」
「そうですね」
ジゼルと合流してからは常に彼女が一緒に居た為、ジェドと二人きりになる機会がなかった。
別になりたいとは思っていなかったので別に良いけど。ジゼルが居ないだけで静かに感じる。
「俺、ジゼルに何かしたのか?」
「朝会った時に気が付いたのですが私の昔の知り合いなんです」
公爵令嬢と専属侍女だった事を避ければ話しても問題ないだろう。
ジェドは驚いた表情で「そうなのか?」と尋ねてくるので頷いた。
「少しお世話を焼いた事があって…それ以降、私を慕ってくれているんです」
親を亡くして町を彷徨っていたジゼルを助けたのは事実だ。
何日もご飯を食べていなかった彼女は私の目の前に現れた途端、倒れてしまった。屋敷に連れて帰って世話を焼いた後、とある事件に巻き込まれて行く宛がなくなった彼女を侍女として側に置いていたのだ。
命を助けたお礼として私に忠誠を誓ってくれている。
「私を慕ってくれているからこそ、その…」
「言い寄る男として警戒されているのか」
苦い顔をするジェドに苦笑で頷いた。
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