第51話
「そろそろ外に行きましょうか。不本意ですが情報収集をするとあれにお約束しましたし…」
あれってジェドの事よね。
そこまで嫌わなくても良いと思うが彼の素性が分からない以上は警戒するのも無理ない。
「そうね。ジェドばかりに迷惑をかけるわけにはいかないし、行きましょうか」
変装をしてから宿屋を出るとお昼時だからか中央広場の方が賑わっていた。
事件の多くは路地裏で起きている。そこにある店から調査に回った方が良いだろう。
「そういえば、どうして公国に来たの?」
治世が安定していないアグレアブル公国よりもフォール帝国に向かった方が良かったのに。
公国の方が向かい易いからという理由が濃厚だと思うけど。
「マガリー様に助けを求めようと思ったからです」
マガリー・ド・ブランシュ。
アグレアブル公国の公妃だ。王太子の婚約者として幼い頃から交流があった人物。
優しくて穏やかな性格の持ち主で会うたびに可愛がって貰ったものだ。ただ時々寂しそうに私を見ていた事もある。もしかしたら産まれた直後に亡くなってしまった自身の第一子と私を重ね合わせていたのかもしれない。
「あの方ならエルさんの力になってくれると思って」
「無理があるでしょ」
「ええ。公爵令嬢の侍女ならともかく平民では会う事も叶いませんでした」
私のせいで追い出された後も私の為に奔走してくれたジゼル。彼女の為に私が出来る事はあるのだろうか。
「アーバンに居れば視察に訪れたマガリー様と会えるかもしれないと淡い期待を寄せていたのですが…」
「それでずっとここに居るのね」
「ええ。ですが、最近掴んだ情報によるとマガリー様は体調を崩れているみたいでここ二ヶ月はまともに屋敷から出て居ないようです」
マガリー様が体調を崩されている?
半年前に会った時は元気そうにしていたのに。
冗談だと思いたいが情報収集に長けているジゼルが言うのだ。おそらく間違いないのだろう。
「会いに行けないのが歯痒いわね」
公爵令嬢の私であれば屋敷を訪ねる事も出来ただろうが今は無理だ。
手紙を送るという手もあるがアンサンセ王国にあるオリヴィエ公爵邸に返事を出されるわけにはいかない。
「会いに行けば良いかと」
「あのね…」
「国外追放を受けた件は他国にはバレていませんよ」
耳元で私に聞こえるように言うジゼル。
確かに他国から見れば私は公爵令嬢のままだ。貴族令嬢らしく着飾って向かえば招き入れて貰える可能性が高い。しかし…。
「居場所がバレるでしょ」
「それもそうですね。それに噂の範疇ではありますが公王がマガリー様を誰にも会わせないようにしているみたいですからどちらせよ会えないかと」
その噂があるなら最初から行く事を推奨するのはやめて欲しい。
もしかしたら私なら会えるかもという気持ちがあって言ったのかもしれないけど。それよりも…。
「おかしな話ね」
元々マガリー様はフォール帝国の公爵令嬢であり現皇帝の婚約者だった。二人が愛し合っていたという噂もある。結婚目前というところで独立騒動が起きて引き離されてしまったのだ。
公国の独立後マガリー様は現公王と無理やり結婚をさせられた為、二人は冷めた関係になっている。
公王がマガリー様を縛るような真似をするとは思えないのに誰にも会わせないとは不思議な話だ。
「流行病だったら会わせないわね」
「そうだとしても二ヶ月も誰にも会わせないと言うのは…」
「そうね。他に理由があるかもしれないわ」
事件の予感がするのは私だけが感じている事じゃない。ジゼルも渋い表情をしている。
「調べましょうか?」
「今の事件が終わったらね」
「そうですね。あの不審者から離れる為にも今の事件をさっさと解決してしまいましょう」
「不審者って…」
少しだけジェドに申し訳ない気持ちになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。