第44話

「やっぱり一人って楽ね」


アーバンの中を歩きながらのんびりとする。

特に目的があるわけでもないので目に入ったお店を眺めるだけだ。これが結構楽しい。

ふと目に入ったのは一枚の貼り紙。


「大盛りチャレンジ?」


内容は三十分で大盛りオムライスを食べ切ったら無料というものだった。


「無料でご飯が食べれるのね」


今のところお金にはまだ余裕がある。

しかし無駄遣いは出来ない。

無料でご飯が食べられるというのは魅力的な話だ。

そして丁度お腹が空いている。


「これはもう行くしかないわね」


よし、と気合を入れて貼り紙に書いてあるお店に向かった。


店内に入るとお昼時だからか混雑していた。

ほとんどが男性客。そして巨大オムライスがテーブルに乗せられていた。

女性客はともかく男性客は貼り紙に乗せられてここまで来たのだろう。

無料は魅力的だからね。気持ちは分かるわ。

若い女性店員に通されたのは中央の二人掛けの席だった。


「ご注文はどうされますか?」

「貼り紙に書いてあった大盛りチャレンジをしたいのですけど」

「え?」


注文を紙に書こうとしていた店員の手が固まった。

嘘でしょと見つめてくる。そして周りも驚いた顔でこちらを見てきた。

若干の居心地の悪さを感じる。

女が大盛りチャレンジは変なのだろうか。


「あの…」

「あっ、は、はい!大盛りチャレンジですね!畏まりました!」


呆けていた店員は慌てた様子で注文を紙に書いて去って行く。

そして十分程度で持ってこられた巨大オムライスは注目を浴びる。

他にも注文している客もいるのにどうして私だけが注目を浴びるのだろうか。という疑問を持ちながらオムライスを眺める。

うん、美味しそうね。


「砂時計の砂が全て落ちる前に食べ切ってください。食べ切れない場合は料金が発生しますから注意してくださいね」


そういえば貼り紙にも食べ切れない場合の事が書かれていた。

食べ切る自信があったので気に掛けなかったけど。


「いただきます」


巨大オムライスに相応しい大きなスプーンで食べていく。

かなり美味しい。これならいくらでも食べれそうね。


食べ始めてから二十分ほどで完食する事が出来た。

ごちそうさま、とスプーンを置くと店の中に歓声が響く。

何事かと周囲を見れば客全員が私を見ていたのだ。


「嬢ちゃん、すげぇな!」

「あぁ!あの量を食べ切っちまうとは…」

「俺、前に挑戦したけど半分も食べれなかったぜ」


褒め言葉と共に巻き起こる拍手。

そんな凄い事をしたつもりはないのだけど。


「凄いですね!女性のお客様で食べ切られたのはお客様が初めてですよ!」


注文を受けてくれた女性店員に褒められる。

私が初めて?

それでこの歓声なのね。


「ごちそうさまでした。とても美味しかったです」

「また来てくださいね!」


そう言って握らされたのはお店の割引券。

貰っておいて損はないのでポケットに仕舞ってから店を出ると入り口前で蹲っている人がいた。


「なにやってるんですか、ジェド」


付いてきていたのかと呆れたように彼を見下ろす。

私が大盛りチャレンジをしていたのを見ていたのか苦笑いを向けられる。


「いや…。エルって凄いんだな」


どこか落ち込んだ様子のジェドが呟いた。

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