第43話

懐かしい夢を見ていた気がする。

どこかに行って誰かと友人になる夢だったような。

思い出そうとしているのにそれを遮ってきたのは扉をどんどんと叩く音だった。


「……朝から騒がしい人ですね」


寝起きだからか低く掠れた声が漏れ出た。

起きて早々嫌な気分にさせてくれるとはジェドは凄い才能の持ち主です。

私はベッドから立ち上がり、扉の前に立つと「誰ですか?」と尋ねた。


『ジェドだ』


朝から元気が良いのは素敵な事だと思うが、人の寝起きを邪魔しないで欲しい。


「おはようございます、ジェド。何の用ですか?」


扉越しに尋ねると『おはよう、エル。扉を開けてくれないか?』と言われるので深く溜め息を吐く。


「今起きたばかりで準備をしていないので無理です」

『す、済まない!えっと、その、また後で来る!』


思わず冷たく言い放ってしまう。ただ悪いのは朝から訪ねてきたジェドの方なので謝ったりはしない。

彼は申し訳なさそうに謝った後、足音を立てて去って行く。


「女性慣れしていないのね」


彼の対応を見ていると女性の扱いがなっていない事くらいは分かる。だから、どうしたという感じだけど。

どうでも良い情報を得てしまったと頭の隅っこの方に追いやる。

ふと鏡に映る白髪を見つめた。


「この姿を見られるわけにはいかないものね」


珍し過ぎる色だ。もし過去にジェドと会っていたら私がガブリエルだと気が付かれてしまう恐れがある。

彼が私にとっての敵ではないと分かってはいるが信用出来るかどうかは別問題だ。

町を回る為の準備を整えてから宿屋の玄関に行くとソファで座って待機しているジェドの姿があった。


「改めておはよう」

「おはようございます、ジェド」


にこにこと嬉しそうなジェドはまるで大型犬のように思えてくる。

犬の方がお利口だけど、と心の中で愚痴を吐いた。


「今日も一緒に…」

「申し訳ありませんが今日は一人で回ります。ジェドも一人でのんびりしてくると良いですよ」

「い、いや、しかし…」

「アーバンに着いてからは別行動。忘れたわけじゃないですよね?」

「もちろん…」


しょんぼりされると私が悪い事をしてる気分になるじゃないですか。

でも負けませんよ。


「ジェド、お願いですから無駄絡みはやめてもらえますか?」

「む、無駄?違う、俺は…」


何か伝えたそうにするが言い淀む彼に首を傾げる。

無駄絡みじゃなかったの?

そう思うが明らかに無駄絡みをされているように思えてくる。だから付き合うだけでも無駄だ。


「それでは、私はこれで失礼します」


お辞儀をしてから宿屋から立ち去った。

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