幕間14 ジェド視点

エルが森の中に居た理由は知れなかった。

せめて彼女に関する情報が欲しかった俺は彼女が訪れたというポルトゥ村に向かった。

村に入ると大きさの割に中は若干寂れている。


「当主の統治が上手くいっていないのか?」


そんな事を思いながらエルがクリームパンを貰ったというパン屋を訪ねてみた。


「いらっしゃいませ!」


出迎えてくれたのは優しそうな風貌をした女性。


「すみません。あの、エルという女性について何か知りませんか?」


碌に聞き込みをした事がない俺はど直球に聞いてしまった。エルの名前を出した途端に女性の表情が厳しいものに変わる。


「知らないね」


素っ気なく返される。

エルは彼女に何かしたのか?

いや、でも、クリームパンを貰っていたし。


「先程エルという女性にここのクリームパンを分けてもらいました。お礼をしたかったのですけど、急いでいたみたいで」


そこまで話すと女性の表情が再び変わる。

驚き、戸惑い、そして申し訳なさそうにする女性に俺は首を傾げた。


「エルはまた人助けをしたのかい…。お人好しだね」

「また?」

「あ、いや、なんでもないよ。さっきは冷たくして悪かったね」

「いえ…」

「それから彼女の事で話せる事はなにもないんだ」


明らかに何か知っているのに話せないと来た。

口封じでもされているのだろうか。

無理に聞き出すわけにもいかず店を後にした。


「エルは貴族だし、領主なら何か知ってるか?」


村の中で最も立派な屋敷に向かうと庭の方から身なりの良い初老の男と若い男の会話が聞こえてきた。


「ガブリエル様を冤罪で国から追い出すなどアンサンセは本当に何を考えているんだ」


ガブリエル…エルが冤罪で国から追い出された?

どういう事だ。

もっと詳しい事を聞きたくて気付かれないようにこっそりと近づいた。


「父様、僕達に出来る事はあるのでしょうか?」

「アンサンセの人間はガブリエル様を探している。私達が出来るのは彼女が追っ手から逃れられるように情報を偽装する事くらいだろう」


開いた口が塞がらないとはこの事。

エルは冤罪で国を追われた。

そして彼女を追い出した国から追っ手が来ている。

彼らの会話から知る事が出来たのはそれだけだった。

ふらふらと木陰に隠れた俺は声を出さないように口を手で覆う。


一体、エルはどういう冤罪をかけられて国を追い出されたんだ?

そして追い出したアンサンセ王国の奴らはどうして彼女を追いかけている?

仲睦まじそうにしていた婚約者は何を考えているのだ?


疑問に思うがそれ以上に彼女の事が心配になった。


「不味いな」


エルは大陸の中でも上位に入るほどの魔法の使い手だ。

もしエルがアンサンセ王国から追い出された事をフォール帝国が知ったら確実に彼女を欲しがるだろう。

そもそも今まで帝国が彼女に手を出さなかったのは友好国であるアンサンセ王国の王太子の婚約者という肩書があったから。

エルが帝国に連れて行かれたら間違いなく彼女は兵器もしくは強い魔力を持つ子を産ませる道具のような扱いを受けるだろう。


「……俺に出来る事はあるのか」


エルがどこに行ったのか分からない今の俺に出来る事などなかった。

せめて彼女を見つける事が出来たら帝国からも、彼女が逃げているというアンサンセ王国の追っ手からも守ってやれるのに。


「エル…」


大切な人を守りたい。

目的なく旅を続けていた俺の初めての目的が決まった。

エルを探し出して、それから守る事だ。

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