幕間12 ジェド視点
お腹を空かせて倒れていると近くに人の気配がする。
物取りかと思って勢いよく起き上がった。
「誰だ!」
俺の前で尻餅をついた女性の顔を見た瞬間、驚き固まった。
エル、なのか?
こちらを見つめる女性は髪色や瞳の色が違うが俺を救ってくれた女の子があのまま成長した姿に見えた。
「君は…?」
「貴方こそ誰ですか…」
怪訝な表情を見せた女性は立ち上がり、服についた土を払っていた。
お腹が空き過ぎてフラフラしている俺は木に寄りかかりながら自己紹介をする。
「俺はジェド。君は?」
本名は名乗れないのでエルがくれた愛称を名乗った。
旅をしている間はずっとこれを名乗っていたのだ。
「エルです」
間違いない。俺の知っているエルだ。
どうしてアンサンセ王国の公爵令嬢であるエルがアグレアブル公国の森の中にいるのか全く分からなかった。しかも変装付き。
どうなっているのだと疑問に思うのは無理ない。
「エル、か…」
「私の名前が気になりますか?」
「いや、なんでもない」
エルは俺には気が付いていないみたいだ。
碌に切っていないから伸びっぱなしの髪色は赤ではなく黒だ。あの時とは全然違う風貌をしている。
彼女が気が付かなくても無理はないのだ。
「ジェドさんはどうしてこんなところで倒れていたのですか?」
「あー…」
好きな女の子に情けない姿を見せたくなくて、言い淀んでいるとエルは申し訳なさそうな表情をする。
困らせたかったわけじゃないのだけどな。
「実は…」
「はい」
「腹が減って動けなくなったんだ…」
俺の答えがしょうもないものだったからかエルは呆れた視線を送ってくる。
居た堪れない気持ちになりながら「エル、なにか食べ物を持ってないか?」と尋ねた。
お腹が空いているのは事実だけど、それ以上に彼女と話す時間が欲しかったのだ。
「持ってますけど…」
「頼む、分けてくれ!礼はするから!」
手を合わせてお願いするとエルは呆れた表情を続けるだけで驚きはしなかった。
おそらく俺が食べ物を強請ると予想出来ていたのだろう。
「私が持っているのはクリームパンですけどよろしいですか?」
「ああ、甘い物好きだから嬉しいよ」
俺の隣に腰を下ろしたエルはパンの詰まった紙袋を差し出してくる。
「好きなだけどうぞ」
「え?全部食べていいのか?」
「くだらない事を言う元気がある人にはあげませんよ」
冗談を言って笑わせようと言ったら睨まれた。
エルってこんな性格だったか?
少なくとも俺が知っているエルだったら「冗談を言わないでください」と楽しそうに笑ってきたはずだ。
会わない三年間に何かあったのか?
森の中に居る事もそうだし、これは話を聞き出す必要がありそうだ。
上手く聞き出せるように頑張ろうと思いながらクリームパンに齧り付いた。
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