第三章 公都探索編
第35話
メールを出発して一週間後アーバンに到着した。
前に来たのは公爵令嬢としてだった為、下町を見て回る事は出来なかったのだ。せっかく来たのだから今回は楽しみたいと思うのだけど…。
「楽しそうだな」
出来る事なら一人で来たかったというのが本音だ。
快活な声に隣を見ればジェドが微笑ましそうな表情を向けてくる。
この一週間で彼の事は少しだけ知る事が出来た。
年齢は二十四歳。旅を始めたのは約一年前。
帝国にいた頃に何かあったみたいですけど、言い辛そうにしていたので無理には聞きませんでした。
私も過去の事は話していないからお互い様だ。
「エルは好きな物とかあるか?」
「え?」
「飯奢るって言っただろ」
「そういえば、そうでしたね」
忘れてたのかと笑われる。
ここに来るまでの間に何度も食事代を出させてしまっている為、今更奢られても良いのだろうかって感じだ。
「それで何が食べたい?」
「ジェドにお任せしても良いですか?」
「分かった。苦手な物は?」
「ありません」
凄いな、と驚かれる。
幼い頃は好き嫌いが多かった私は王太子の婚約者になったのをきっかけに無くすように努力したのだ。
おかげで今は何でも食べられるようになった。
「じゃあ、肉でも良いか?」
「構いませんよ」
「そうか」
嬉しそうに笑うジェド。おそらく彼が今一番食べたい物なのでしょう。最初からお肉が食べたいと言ってくれたら付き合ったのに。
奢ると言った手前、言い出し辛かっただけなのかもしれない。
「良い店があるんだ。行こうか」
「はい」
迷う事なく道を進む彼の後を追う。
「ジェドはアーバンによく訪れるのですか?」
「急にどうした?」
「なんだか慣れている感じがするので」
「アーバンに来るのは二回目だな。道を覚えるのが得意なんだ」
得意気に笑うジェドに「なるほど」と返す。
私は道を覚えるのはあまり得意な方ではない。アンサンセ王国の王城でもよく迷ったものだ。
あそこには二度と行く事はないでしょうけど。
「エルはすぐに呆けるな」
「あ、すみません…」
顔を覗き込まれる。あまりの近さに驚いていると両腕を軽い力で引っ張られてしまう。
辿り着いたのは彼の胸元で抱き締められているのだと気がつくのに数秒かかった。
「ぼんやりしてるとこんな風に襲われるぞ」
見上げると楽しそうに笑うジェドがいた。
急にこんな事をするなんて軽い人だ。
目の前にある無駄に鍛えられた胸を押して彼を突き飛ばした。
「やめてください」
「悪かったからそんな怖い顔をするな。美人が台無しだぞ」
「次は殴りますよ」
「それは怖いな。でもお兄さんの忠告は聞いておいた方が良いぞ」
簡単に襲われる程、私は弱くはない。
「もしかして自分は強いから大丈夫とか思ってるのか?」
「そうです」
「確かにエルの魔法は強いからな」
アーバンに到着するまでの道中、何度か大型の魔物に襲われたが全て私が魔法で片付けた。
その事を思い出して言っているのだろう。
「でも、エルは女だ。単純な力比べだと男には勝てないだろ」
「身体強化を使えば勝てますよ」
体術は幼い頃から教わってきた。
確かに普段の力の差は覆せないが、強化魔法を使えば問題ない。
「そういう意味じゃないんだけどな…」
何故か呆れたような顔を向けられた。
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