第36話

「ごちそうさまでした」


ジェドに連れて行ってもらったお店の料理はどれも美味しかった。一頻り楽しみ、お店を出てからお礼を言うと「喜んでもらえて良かった」と笑顔で返される。

変な人だけど悪い人じゃないのよね。


「エルはこの後どうするつもりなんだ?」

「適当にお店を見て回ろうかと」


のんびりと町を回れたらそれで良いと思っていたので特に目的は決めていない。

何にせよ、ジェドとはここでお別れだ。

お別れを言おうとするがそれより先に彼が口を開いた。


「エル、良かったら一緒に回らないか?」

「ご飯を食べたら別行動と言いましたよね?」

「そうだが…」


彼が何を考えているのか分からなくてじっと見つめていると一人の女の子が泣きそうな表情をしながらこちらに向かって走って来るのが見えた。


「お母さん、どこ…?」


不安そうな声を漏らし、きょろきょろと周りを見ながら歩く女の子。

言動からして迷子なのだろう。誰も彼女を助ける様子はなく素通りしていく。


「すみません、失礼します」

「エル?どうしたんだ?」


首を傾げるジェドから離れて女の子のところまで向かう。彼女の前に辿り着くと怖がらせないようにしゃがみ込んで目線を合わせてから話しかけた。


「どうかしたの?」

「……お母さんがいないの。いなくなっちゃったの」


母親が事件に巻き込まれたという可能性もあるが今回の場合はそうじゃないだろうと予測をする。


「それは大変ね」


怯えさせないように、安心させるように柔らかな髪を撫でると女の子の表情は次第に崩れていく。そして大声を出して泣き始めた。

これは落ち着くまで待っていた方が良さそうね。


「その子は迷子か?」


声がした方を見るとジェドが立っていた。

いきなり離れた私を追いかけてきてくれたのでしょう。


「みたいです」

「そうか。どうする?警備隊に引き渡すか?」


警備隊、か。

確かにその方が良いかもしれない。すんすんと鼻を啜っている女の子に「お母さんを探してくれる人達のところに行きましょう」と手を伸ばした。


「警備隊のところに連れて行く事にします」

「詰所を案内しよう」

「助かります」


ジェドの案内を受けて警備隊の詰所に到着をした。女の子を預けようとしたのは良いけど。


「いや〜!お姉さんといっしょがいいの〜!」


どうや女の子に懐かれてしまったらしい。

離れようとした途端に「はなれたくない!」と泣き付かれてしまったのだ。

これには警備隊の人間も苦笑いでどうしたら良いのか分からない様子。

その中で一人笑っていたのはジェドだ。


「随分と懐かれたな」

「みたいです。どうしたら」

「その子と一緒に母親を探してやったらどうだ?」


ジェドからの提案は母親探し。

元々そのつもりだったから別に良いけど下手に動かない方が良いのでは?と思っていると女の子は「さがすー!」と大きな声を出した。


「分かったわ。一緒に探しましょう」

「うん!」


元気よく返事をする女の子の頭を撫でながら警備隊に事情を説明する。

夕方になっても母親が見つからなかったら戻ってくるという旨を伝えると「お母さんがこちらを訪ねて来られたら待機してもらうように言っておきますね」と納得してくれた。


「エル、俺も一緒に母親を探そう」

「え?」

「二人で探すより三人で探した方が効率が良いだろ?」

「それはそうですけどジェドの迷惑になりませんか?」


ジェドは自分の目的があってアーバンに来たはずなのに巻き込んで良いのだろうかと思っていると「問題ない」と短く返される。


「お嬢さん、お兄さんも一緒にお母さんを探しても良いか?」


ジェドは地面に立膝をついて女の子に笑いかけた。すると女の子は不安そうな表情で「いいの?」と返事をする。


「ああ、勿論だ。必ず君のお母さんを見つけよう」

「うん!ありがとう、お兄さん!」


にっこりと笑う女の子はジェドの手を握って振り回した。無邪気な姿に自然と頬が緩む。

ああ、肝心な事を尋ね忘れるところでした。


「お嬢さん、お名前は?」

「コゼット!」

「私はエル、こっちのお兄さんは」

「ジェドだ。よろしくな」

「うん!」


ジェドは「元気だな」と笑いながらコゼットを抱き上げた。目線が高くなって嬉しいのか彼女は「たかい!たかい!」と大はしゃぎする。


「よし、探すか!」

「早く見つけてあげましょう」


そうして三人でコゼットの母親探しに向かった。

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