第21話
折角の港町に来たのだから魚料理が食べたい。
そんな事を考えながら宿屋を出て中央広場を歩いていると一際賑わいを見せる食堂が目に付いた。
ちょっと並びますがそれだけ美味しいのでしょう。
列の最後尾に並ぶと私の後ろにも人が並んでいく。
十分が過ぎた頃、二人組の男性が列にも並ばないで店内に入ろうとしていました。店員なら分かりますがどう見てもお客さん。地上を歩き慣れていない歩き方を見るにおそらく船員なのでしょう。
二人組の男性達を止めたのは先頭に並んでいた初老の女性。
「ちょっとあんた達!ちゃんと並びなさいよ!」
ごもっともな事を言う女性を男性達は睨み付ける。
「うるせぇ!こっちは疲れてるんだよ!」
「邪魔するな、ババア」
疲れているからって横入りは駄目でしょう。
いい大人なのだから常識を弁えてほしいところだ。
周囲の人達は女性に心配そうな眼差しを向けるが誰一人として助けようとしない。
おそらく男性二人組が筋骨隆々の逞しい体躯をしているからだろう。
「ちゃんと並びな!」
女性が強めに注意すると男性の一人が苛立った様子で拳を振り上げた。
不味いと男に拘束魔法をかけてから強めの風を起こして転ばせる。急に身動きが取れなくなった男に周囲が騒ついた。
「女性に手を上げるのはどうかと思いますよ」
列を抜けて焦っている男性二人組に声をかけた。
全く余計な事で魔力を使わせないでほしい。
「お前がやったのか!」
「そうですよ」
拘束魔法をかけた方の男に尋ねられるので素直に認める。
メールは観光客の多いところ。魔法が使える一般人がいてもそこまで驚かれないのが幸いだ。
「ふざけるな!解けよ!」
「嫌ですよ、解いたら暴れるじゃないですか」
冷たく突き放すと拘束魔法をかけていない方の男が顔を真っ赤にして怒り出す。
「ふざけやがって!」
こちらに向かって走り出して来た男に足払いをかけて転ばせた後に拘束魔法をかける。
起き上がる事が出来なくなった彼は地面の上で転がるだけだ。
程なくして町の警備隊が到着して男達を連れて行く。
その際に脅すような事を言われたが怖くもないので笑顔で聞き流してあげた。そ
もしも牢から出た彼らが襲ってきたとしても問題なく倒せると確信があったからだ。
「あんた、強いね」
連れて行かれる男性二人組の後ろ姿を見ていると殴られそうになっていた初老の女性に声をかけられる。
「アンサンセ王国から観光に来ました」
「あの魔法大国から来たのかい。そりゃあ、魔法を使えるわけだ」
「ええ、そうです。魔法を使えるだけでそこまで強くないですよ」
「まあ、それはそれとして助かったよ。おかげで殴られずに済んだ」
「お気になさらずに」
常識を守らず女性に殴りかかろうとした彼らが許せなかっただけだ。
女性は少しだけ考えた後に「そうだ」と声を上げた。
「お礼に食事を奢らせておくれ」
「え?でも…」
「どうせここで食べる予定だったんだろ?一緒に食べようじゃないか!」
そう言われても私が並んでいたのはもっと後ろの方だ。加えて列を抜けてしまっているので最初から並び直し。だというのに横入りをするのはどうかと思う。
「私は列に並び直すので…」
「ああ、そこを気にしていたのかい」
それがどうした?と言いたそうな表情を見せた女性は大声で「この人はあたしの恩人なんだ!一緒に入れてやってもいいかい?」と列に並んでいる人達に声をかけた。
そこまでしなくても、と私が焦るよりも早く許可する声が続々と聞こえてくる。
「みんな、いいってさ。さぁ、一緒に入ろう」
「は、はい…」
拒否権を与えてくれなさそうな女性に頷く事しか出来なかった。
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