第22話

タイスと名乗った女性と一緒にお店に入ると窓際の席に案内を受けた。


「エルは何を頼むんだい?」

「初めて来たので迷います。タイスさんのお勧めはどれでしょうか?」

「あたしは白身魚が好きだからよく白身魚のフライ定食を頼んでいるよ」

「じゃあ、それにします」


即決するとタイスさんは戸惑った表情を見せた。


「それ結構安い定食だよ?あたしが奢るんだからもっと高いのを頼んでもいいのに」

「美味しい物を食べられるなら値段は関係ありませんよ」


それに料理名を聞いた途端にそれを食べたくなったので変えるつもりはない。

結局タレスさんも同じ物を頼んだ。

二人で雑談をしていると私側の後ろの席から気になる会話が聞こえてくる。


「なぁ、また失踪者が出たらしいな」

「ああ、もう五件目だぜ。いくらなんでも多過ぎるだろ」


失踪者、五件目…?

不穏な単語に胸が騒つく。詳しい話を聞きたくて耳を傾けようとするとタイスさんが深い溜め息を吐いた。


「またあの話かい…」

「ご存知なのですか?」

「エルは失踪事件について知らないのかい?」

「ええ。よろしければ詳しい話を聞かせてもらえませんか?」

「構わないよ」


タイスさんの話によればメールの町で失踪者が出始めたのは今月に入ってから。つまり二週間前からだ。

一人目は花売りをしていた若い女性。

二人目は家族旅行中の少年。

三人目は路地裏の浮浪者。

四人目は一人暮らしの年配女性だったらしい。


「それから昨日失踪としたとされているのが貨物船の若い船員らしいよ」


話を聞く限りだと関連性が見えてこない。


「失踪者に共通点はないのですか?」

「警備隊の人間が調査中だね」

「なるほど」

「それにしても本当知らなかったんだね。結構な噂になってると思ったのだけど」


メールで失踪者が出ているという話は私が立ち寄った村では聞かなかった。ただ思い返してみればメールの話をしている人達は確かに多かったかもしれない。

そういえば。


「町の入り口にある預かり厩舎のお爺さまがこの町には問題があるみたいな事を言っていました」

「ああ、グレゴリー爺さんの事だね。ちゃんと説明してあげれば良いのに」

「観光客で来ている人に余計な事を言いたくなかっただけですよ」


単純に自分の口から言いたくなかっただけかもしれないけど。

お茶を飲んでいると再び後ろから声が聞こえてくる。


「なぁ、やっぱりあいつが攫ったんじゃねーの?」

「ありえるな。あいつが来てから失踪者が出るようになったんだから」


あいつ?一体誰の事でしょうか?

彼らが話す人物が気になりタイスさんに尋ねてみようかと思ったら店員さんが注文した定食を持って来た。


「お待たせしました!」

「ありがとうございます」

「ありがとう」


男性客達が言った『あいつ』が気になって仕方がない。

タイスさんに聞こうかと思ったが彼女は定食に夢中な様子。聞ける雰囲気ではなかった。


「美味しそうですね」

「ああ、とても美味しいよ。冷めないうちに食べな」


食べ終わった後で話を聞けば良いかと白身魚のフライ定食に「いただきます」と呟いた。

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