第20話

「宿屋ってどこが良いのかしら」


きょろきょろと辺りを見回して宿屋を探していた。

やっぱり人が少ない気がする。

初めて来たので普段と比べようがないけど。


「あそこが良さそうね」


ふと目に入ったのは中央広場にあった宿屋。

部屋が空いていると良いなと思いながら中に入ると中年男性が若い女性を怒鳴っているところだった。


「今すぐに町を出て行く!金を返せ!」

「は、はい…!」


女性が用意したお金を荒々しく奪い取った男性はドタバタと宿屋を出て行く。


「こんな呪われた町に居られるか」


すれ違う際に聞こえた台詞だった。

呪われた町?どういう事なの?

後で調べてみた方が良さそうね。


「あっ、いらっしゃいませ…」


怒鳴られていた若い女性は力ない挨拶をする。


「お客様も予約の取り消しですか?」

「え?私は部屋を取りたくて来たのですけど…」

「宿泊してくださるのですか!」

「は、はい…」


カウンターから身を乗り出した女性に吃驚する。

宿屋なのだから別に不思議な事ではないはずなのに。

驚き固まっている私を他所に女性は一枚の紙を取り出した。


「何泊される予定ですか?」

「とりあえず一週間でお願いします」

「一週間も?」

「観光で来たので…」

「そうですか、そうですか!」


さっきまで怒鳴られて元気がなかったのに急に元気になる女性についていけない。

苦笑いのまま彼女からの問いかけに答えて行った。


「ああ、最後にお名前を聞かせてください」

「エルです」

「エル様ですね」


名前、宿泊期間、宿泊目的など基本情報を書いた紙を渡される。

内容を確認しろという事なのだろう。


「お間違いなかったですか?」

「はい。大丈夫です」

「ありがとうございます。それでは料金のお支払いを…」


提示された金額を見ると予想よりも安い。

いい立地にあるのだからもっと高くても良いと思ったがただのお客が口を出す事じゃないと何も言わなかった。


「はい、丁度ですね。それではお部屋のご案内に移ります」

「お願いします」


女性は鼻歌を歌いながら部屋まで案内してくれた。

おかしい…。

宿屋の中からは全く人の気配を感じられなかったのだ。

どこかで食事をしているだけかもしれないがそれにしても夕方で誰も居ないとなると気になる。

曰く付きなのだろうかと思っていると私が泊まる部屋に通された。


「あっ、お客様。絶対に夜中は出歩かないでくださいね!」


一通り部屋の説明をしてくれた女性は立ち去る前にそう言った。

厩舎のお爺さまといい、さっきの女性といい。

どうして夜に出歩くなと言うのだろうか。


「尋ねてみれば良かったわ」


一人残された部屋で小さく呟いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る