第19話
ジェドさんと別れてから一週間が経つ。
小さな村を経由しながら目的地である港町メールに到着した。
「凄いわ」
夕日に照らされた海は橙色に輝きを放ち、多くの貨物船が見える。真っ白な石造りの建物が数多く並んでおり、住民の多さを感じさせた。
アンサンセ王国にも港町は幾つかあった。ただメールの広さは桁違いだ。
おそらく行き交う人の数は公都を訪れる者に近い数字だろう。
アンサンセ王国の人間も多くいるはずだ。
いつも以上に気合の入れた変装をしなくてはならない。
黒髪はいつも通り、瞳の色も黒に変え、外見も実年齢よりも老けて見えるように自分に魔法をかけた。
「こんなものかしら」
手鏡で変わった自分の姿を確認する。
四十代くらいに見える風貌は自分によく似た亡き母の事を思い出させた。芋づる式のように脳裏に浮かぶのは生きている家族の事。
最後に彼らから投げかけられた言葉は「家族じゃない」だった気がする。
「嫌な事を思い出しちゃったわ」
忘れるように首を横に振った。
気を取り直してメールの様子を見る。
楽しめそうな予感がするのは来てみたかった町に到着したが故だろう。
「とりあえずアミを預けないと」
当然アミを連れて中に入る事は出来ない。
町の入り口、大きなアーチを越えたすぐのところに預かり専門の厩舎を見つけた。
「すみません、この子を預かってほしいのですけど」
中に入るとカウンターには誰も居なかった。
出払っているのかなと思いながら声を出すと奥からガサゴソと音が聞こえてくる。
「いらっしゃい」
奥から出てきたのは私よりも背の低い、口の周りに白髭を蓄えた好々爺さま。
私の顔を見るなり少しだけ驚いた顔をする。
「お客さん、観光客か?」
「そうです」
「……そうかい。楽しんでいってな」
苦笑いでそう告げられた。
よく見れば厩舎に預けられている馬が少ない。
メール着の乗合馬車は多くの村や町から出ている。わざわざ自分の馬で来る人が少ないだけかもしれない。
「何日くらい滞在予定だ?」
「とりあえず一週間くらいで」
「は?そんなに長くいるのか?」
「え?長いですか?」
観光ならこれくらいが普通だと思いますけど。
他の人達は違うのだろうか。
「まぁ、いいや。短くなったらその分は返金する。とりあえず、今はこれくらいだな」
金額を提示されて支払う。
それにしても彼の対応はどこか変だ。違和感を感じていると「気をつけるんだぞ」と言われる。
よく分からないまま頷くとお爺さまは苦笑いをした。
「夜になる前に宿を取ると良い。夜の間は出かけちゃいけないよ」
「え?ええ、分かりました」
やっぱり違和感を感じる。
なにか問題でもあるのでしょうか?
「なにか問題でもあるのですか?」
「……中に入れば分かるさ」
言いたくなさそうな顔をするので「分かりました」と返事をするしかなかった。
アミを預かってもらうお礼を言ってから厩舎を出て、メールの中を歩き始める。
想像していたよりも人が少ないのは夕方のせいでしょうか。
「とりあえず宿を取りに行きましょうか」
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