第18話
アンナおばさまから頂いたクリームパンを食べながらジェドさんと話す。
「エルはどこ出身なんだ?」
「アンサンセ王国です。ジェドさんは?」
「俺はフォール帝国だ」
アグレアブル公国はフォール帝国から独立して出来た国だ。表立って対立しているわけじゃないが友好関係を築いているわけでもない。その為、公国に立ち入ろうとする帝国出身者は少ないと聞いている。
だから彼からの返答に驚いた。
「帝国の人間が公国にいると思わなかっただろ」
「そうですね」
「二国の歴史を知っていれば誰だって思う事だ」
どうして彼は公国に居るのだろうか。
尋ねてみようと口を開いたところでやめた。同じ質問を聞き返されたら困るからだ。
「ジェドさんは冒険者ですか?」
それとなく話題を変えてみると首を横に振られた。
「ただの旅人だよ。エルは?」
「私も旅人です」
「え?一人で旅してるのか?」
面食らった表情を向けられた。
どこ国でも女の一人旅は珍しいですからね。
彼の驚きは当然のものである。
「大丈夫なのか…?」
「今のところは問題ありません」
むしろ村の問題を解決したくらいですし。
問題ないといったのにジェドさんは眉を下げて心配そうな表情を向けてくる。
そこまで気にしなくて良いのに。
「問題あるだろ。助けてもらった俺が言えた事じゃないが見ず知らずの男と一緒に食事なんて普通はやらない」
「そうですけど困ってたじゃないですか」
「もし俺が悪いやつだったらどうするんだ…」
「え?悪い人なのですか?」
「そうじゃないが、そういう話をしているわけでもないぞ…」
ジェドさんの言いたい事は分かっています。
ですが破落戸に負ける事はありませんし、それなりに戦える人であっても指一本触れさせず完封する自信がある。
アンサンセ王国にいた頃は騎士相手に戦闘訓練を行っていた事もあるのだ。
うん、問題ない。
「大丈夫です」
ジェドさんは私の返答に大きく溜め息を吐いた。
俯かせていた顔を上げた彼は決意したような顔をしている。
「よし、決めた。パンの礼として君の護衛になろう」
「要りません」
即答する。
なに勝手に決めてるのですか。
私はのびのび一人旅をしたいのですから人について来られるとかなり面倒です。
「いや、しかし…」
「お礼も要りません。このパンはご好意で頂いた物です。私のお金で買った物ではありませんので。お礼をしたいなら向こうにあるポルトゥ村にあるパン屋のおばさまにしてくると良いですよ」
そう言った後、残り一つだったクリームパンを口に頬張り立ち上がる。
「それに私は馬で移動します。見たところジェドさんは徒歩ですよね?普通に考えて一緒に行動するのは無理なお話ですよ」
ここまで言えば諦めてくれるだろう。
現に移動手段の話を聞いてジェドさんは苦い顔になっている。
「心配してくださってありがとうございます。ですが私は一人でも大丈夫です」
「……分かった。諦めよう」
納得できない顔をしながらも諦めてくれた。
これで一人旅が出来そうだとホッとする。
「また会えたらその時はちゃんとお礼をさせてくれ」
「ええ、楽しみにしています」
広い大陸です、もう彼に出会う事はないだろう。
「パン、ご馳走様。助かったよ」
「もう行き倒れないでくださいね」
「気をつけるよ」
「それでは失礼します」
お辞儀をしてからにアミに跨った。
近くにやってきたジェドさんに別れの挨拶をされる。
「また会おう、エル」
「ええ」
手を振るジェドさんに笑いかけてから駆け出した。
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