第6話
酒場を後にした私は日が暮れる前にバティストの屋敷まで向かった。
「ここがバティストの屋敷ね」
近くで見るとそれなりに立派な屋敷だった。
しかし中から感じられる雰囲気はどこか嫌な感じがする。
チャイムを鳴らせば中から執事らしき人がやって来た。
「何か用か?」
私の身なりを見た瞬間、偉そうな態度を取る執事。
質素な服を着ているのだから仕方ない。
それにしてもこの人は本物の執事ではなさそうだ。それくらいは身の動かし方、立っている姿勢を見れば分かる。つまり執事もどきなのだ。
「す、すみません…。私をこのお屋敷に雇っていただけませんか?」
「は?」
「実は最近両親を亡くし、住む家もなくなり、お金もなく困り果てていたのですが…。バティスト様のお屋敷が使用人を募集していると小耳に挟みまして…それで、あの、雇っていただけませんか?」
我ながら良い演技だと思うわ。値引き交渉の時とは大違い。
ちなみに私の作戦は至って単純。
一、使用人として雇ってもらう。
二、隙を見て害虫駆除。
三、囚われた娘達の解放。
中に入る事が出来れば後はどうにでもなる。つまりここが鬼門なのです。
「ちょっと待ってろ」
門前払いかと思いましたが、待ってろと言われてしまいました。
粘るつもりだったのに興醒めだ。
五分ほど待ってから執事もどきは戻ってきた。
「中に入れ。面談する」
「は、はい!ありがとうございます!」
笑いかければ、ふんっと鼻を鳴らされてしまう。
態度が悪い人だ。主人に似たのだろうか。
屋敷の中に入れば酒場のユルバンおじさまがくれた通りの内部構造をしていた。
「ここだ」
応接室らしき部屋に通されると額に脂汗を浮かべ荒く息を切らす気持ち悪い小太りの男性が座っていた。
この男がバティストだろう。
彼の身なりの良さから判断する。
「君が、はぁはぁ…僕の屋敷で働きたいっていう女の子?」
「はい、エルと申します」
気持ち悪いですね。今すぐ殴りたい。
「うんうん、いいねぇ。かわいいねぇ…はぁ…はぁ…」
いちいち息を切らすのやめてもらいたいのですけど。
私の体を視姦してくる気持ち悪い害虫。他の娘さん達も経験したのでしょう。
「決めた!雇ってあげるよ!ふふ、可愛がってあげるねぇ、はぁはぁ…」
私も決めました。
二度とくだらない真似ができなくなるくらいに可愛がってあげますわ。
「ありがとうございます」
にっこりと笑いかけると害虫は上機嫌になる。単純な男に鼻で笑いそうになった。
「じゃあ、早速働いてもらおうか」
「よろしくお願いします」
さっきの執事もどきに連れられて向かったのは簡素な使用人部屋だった。
「今日からここを使え。仕事着はクローゼットの中に入ってる。急いで着替えろ」
バタンと音を立てて部屋を出て行かれた。
本当に態度が悪い。
「潜入は成功ですし、次は害虫駆除ですわ」
待ってなさい。
今日で貴方の悪行もお終いにして差し上げますから。
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