幕間③ アンドレ視点

僕アンドレ・ド・オリヴィエは最低な人間だ。


大切な姉を守る事が出来なかった。いや、守れなかっただけならマシな方だ。

僕は姉を追い出す事に加担した。


姉の名はガブリエル・ド・オリヴィエ。

優しく、美しく、誰よりも聡明で完璧な姉。

小さい頃から誰よりも僕の事を考えてくれていたのは姉だ。

我儘放題だった僕を叱り、甘やかし、公爵家の嫡男として相応しい人間に育ててくれた姉が僕は尊敬していたし大好きだった。

それなのに僕はその姉を…。


僕や父を始めとする多くの貴族が一人の子爵令嬢がかけた魅了に惑わされ、何もしていない姉を断罪したのだ。


『悪魔のような貴女が自分の姉なんて信じたくありません』

『死んだのが母様じゃなくて貴女だったら良かったのに』

『もう家族ではありません。消えてください』


あの忌まわしい舞踏会の日、僕が姉に投げかけた言葉だった。

到底許されるものじゃないと分かってる。謝って許される事じゃない事も。それでも一言謝りたい。


「エル姉様…」


あの日、僕達に裏切られ断罪された姉の顔を僕はよく覚えているのだ。

断罪の最中、全てがどうでも良くなったという顔をしていた姉が最後には笑顔を見せた。

その際、姉は何を考えていたのだろうか。

呆れていたから嘲笑ったのか?

それとも悲しみを越えて笑いが溢れ出た?

いや、苦しみから解放される事による喜びの笑みだったかもしれない。

今となっては分からず仕舞いだ。


「アンドレ、酷い顔だな」

「父様こそ…」


父も僕同様に姉を愛していた。でも、断罪に加担した。

魅了が解けた僕達は必死になって姉を探しているが手掛かりすら見つかっていない。

姉は優秀な魔法師だが、僕同様に外の世界には疎い人間だ。そんな姉が一人で外に放り出されまともに生きていけるはずがない。

早くしないと手遅れになる。いや、もしかしたらもうなっているかもしれない。


「僕はどうすれば…」

「エルの無事を祈る他ないだろう」

「…やっぱり僕も捜索隊に混ざります!」

「駄目だと言ってるだろ!いい加減にしろ!」


ただ待っているだけなんて耐えられない。

優秀なエル姉様が僕の立場だったらどうするんだろう。きっと身勝手に家を飛び出し僕を探してくれる。エル姉様はそんな人だから。


「アンドレ、大丈夫だ。エルは見つかる…」

「もし…エル姉様が死んでいたら僕は…」

「滅多な事を言うな!」


おそらく父も同じ事を考えては否定してを繰り返しているのだろう。


「エル姉様、無事でいてください…」



弟が無事を祈っている頃、エルは…。


「その程度の魔法で私に勝てると本気でお思いですの?潰しますわよ」


愉快な笑みを浮かべて害虫駆除を行なっていた。

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