第4話

領主の成敗。

決めたは良いけど流石に派手にやるのは不味い。それくらいは分かっている。

じゃあ、どうするのか?

こんな時は情報収集が重要となってくる。

領主がどんな動きをするのか。隙があるのか。調べてから動くべきだろう。


「ふふ、情報収集は酒場が定番!」


って持ってきた本に書いてありました。

やはり持つべき物は本です。


「嬢ちゃん、まだ店開いてねーよ」


中に入ると薄汚れた服を着た中年男性に注意された。

どうやら酒場は夜からの営業らしい。新しい事を覚えた。

それにしても店の中が随分とぼろぼろになっている。

これも領主が地代を値上げしたせいなのでしょうか。


「あの、一つだけ聞いてもいいですか?」

「うん?悪いが夜にしてくれ。今は掃除で忙しいんだ」


帰った帰った!と手を振られてしまう。

少し話を聞くだけでいいのだけど、どうすれば…。

ああ、そうですわ。


「では、お掃除を手伝います」

「は?手伝ってもらったところで払う金はねーぞ」

「お金は要りません。少しだけお話を聞かせて頂きたいのです」


にっこりと笑えば、呆れたような顔をされてしまう。

別に今はお金を必要としていない。それよりも話を聞く方が最優先だ。


「嬢ちゃん、変わってるな」

「そうでしょうか?」

「まあ、いいや。金を払わず手伝ってくれるなら」

「ありがとうございます」


お礼を言えば「やっぱり変わってるな」と言われますがよく分かりません。

掃除の手伝い。そう言ってもそこまで大きくない……ような気がするお店です。

魔法を使えばすぐに終わるでしょう。


「まずは何をしますか?」

「じゃあ、床の掃除を頼めるか?」

「分かりました」


空の桶を渡されるのが受け取るのを拒否する。

それは必要ない。

対象物の汚れを消し去る浄化魔法を床に向かって放つ。

一瞬で汚れが綺麗になっていく。

昔メイドに教わったけど綺麗に汚れが取れるものね。


「すぐに終わらせますから待っててください」


驚いた顔をするおじさまに笑いかけ、腕まくりをしてから床の掃除を行っていく。ついでに汚れが酷い窓も並行して掃除する。

幸い魔力量は多い。掃除くらいでくたばったりはしないだろう。

五分ほど経過した頃、床と窓の掃除が終わる。

かなり綺麗になった気がする。これならおじさまも喜んでくれるはず。

振り返れば口をあんぐりと開ける彼と目が合った。


「終わりましたけど、他にやる事ってありますか?」

「えっ、いや…」

「ああ、壁の傷も直しておきましょう」


なにがあったのかさっぱり分からないがかなり傷だらけだ。

まあ、魔法を使えば一瞬で直せるのだけど。昔、屋敷の壁を壊した時に執事に教えてもらったのよね。


「じょ、嬢ちゃん、何者だ?」


壁の修繕を終えてからおじさまのところに戻るとあり得ないものを見たような顔をされた。

私が使ったのは初級魔法なのだけど…。

そういえばアンサンセ王国とは違ってアグレアブル公国の平民は魔法を使いこなせないと習った。

元々独立した国とあって未だに基盤が不安定なのだ。民が力を持ち、謀反を起こされるのを危惧している為、平民が力を持たないようにしていると聞いた事もある。

詳しくは知らないけど、もっと学んでおくべきだったと思う。


「嬢ちゃん?」


考え込んでいるとおじさまに声をかけられて我に返る。


「私は……ただの旅人ですよ」

「旅人?」

「はい、アンサンセ王国出身です。だから魔法も得意で」


嘘偽りなく答えれば、納得してくれたようで「なるほどなぁ」と笑ってくれた。


「お嬢ちゃん、名前は?」

「エルです」

「俺はユルバンだ。本当に助かったよ、ありがとう」


お礼を言われるほどのことをしたつもりはないが素直に受け取っておく事にする。

どういたしまして、と笑顔で返した。


「そういや、話が聞きたかったんだな?ここまでしてもらったんだ。俺に分かる事ならなんでも答えてやるぞ」

「では、この村の領主について聞かせていただけますか?」


尋ねた瞬間、ユルバンおじさまの表情が暗いものに変わった。

どうやらここでも碌でもない話が聞けそうだ。

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