第3話

パンを食べ終わった後もおばさまとの会話は続く。


「お嬢ちゃん、名前は?」

「エルです。おばさまは?」

「アンナだよ」


自己紹介を終えるとアンナおばさまの表情が寂しそうなものに変わる。


「最後にお嬢ちゃんのような子の笑顔が見られて私は幸せだよ」

「最後?」

「ああ。今日でお店は最後なんだ」


どうやら店仕舞いをするらしい。

こんなに美味しいパンが作れるのに、どうして店を閉めようとしているのだろうか。


「なにかあったのですか?」

「……ここの土地代が払えなくなったんだよ」


アンナおばさまはちょっと悩んだ後に困ったような笑顔で答えてくれた。

急に地代が払えなくなるとは売り上げが芳しくないのだろうか。

そう思っているとアンナおばさまが理由が説明してくれる。


「この村を治める領主様が変わってね。値段を上げちまったんだよ」


その言葉を聞いて不穏な空気を感じた。

これは元貴族としての本能から来るものだろう。


「ちなみにどのくらい上がったのですか?」

「前領主様の三倍の値段だね」

「なっ…」

「急に値上がったせいでたくさんのお店が潰れていったよ。うちも前は繁盛していたんだけどねぇ…」


流石にそれは横暴過ぎるだろう。

公国は何をしているのでしょう。


「国は何も言わないのですか?」

「ああ。国の端っこにある村の事なんて気にかけてくれる訳がないからねぇ」


もっとちゃんと管理しなさいよ。

そう思うがアグレアブル公国は北にあるフォール帝国から独立してからまだ三十年も経っていない。

杜撰な管理にも頷けてしまうのだ。


「村の人達は領主に対して抗議しないのですか?」

「した奴もいたよ?でもね、ボロボロになって帰ってきたんだ。屋敷で酷い暴力を振るわれたらしく生きて帰ってこれただけマシってもんさ」


理不尽な地代に加え、暴力…。

碌でなしはどこの国にもいるものだ。


「許せないです…」

「そうだね。でも、力を持たない平民が出来る事なんて限られてくるんだよ」


許せるわけがない。

しかし自分は犯罪者として国を追われた身。

他国にそれが伝わっているかどうかは知らないし、あまり目立つ事をするべきじゃないのは分かってる。

それでも放置する事も出来そうにない。


「おばさま、領主の屋敷はどちらですか?」

「えっ?あっちだけど」


アンナおばさまが指を差す方向を見ると離れたところに立派な屋敷があった。

領民を苦しめているくせに自分達は豪勢な暮らしをする碌でなし貴族なんていなくなればいい。


「おばさま、今食べたクリームパンは依頼料として受け取っておきますね」

「は?」

「それでは失礼します。今度は値引き交渉も上手くやりますからね!」

「えっ、ちょっと、お嬢ちゃん?店は今日でおしまいだって!」


訳が分からず慌て出すアンナおばさまに手を振ってから走り出す。

向かう先はもちろん領主の屋敷だ。


「碌でなしは私が成敗してあげますわ」

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