幕間② レジス(ガブリエルの父)視点

自分が悪魔になったような気分だった。


私レジス・ド・オリヴィエには娘がいた。

亡き妻の忘れ形見であった愛娘ガブリエル。

大切に育ててきた娘を私は家から、国から追い出した。いや、正確に言えば追い出したのは国王陛下と王太子であり娘の婚約者であったシリル殿下だ。だとしても私が断罪に加担したのは事実である。


全てはとある子爵令嬢の魅了にかかったせいだ。

子爵令嬢のせいではあったが、元々は自分が魅力にかかったのが悪い。


子爵令嬢は既に捕らえられ、王族をはじめとする有力貴族を魅了にかけた罪で公開処刑が決まっている。しかし奴の事など私にとってはどうでも良かった。

私が気になっているのは娘の安否だけだ。

奴が重罪人用の牢に閉じ込められようが、拷問にかけられようが知った事ではない。


「エルはまだ見つからないのか!」

「申し訳ございません。国を出て行った事は確認したのですがその後の動向が全く不明なのです…」

「そんな…」


優秀な魔法師が多いアンサンセ王国の中でも頭一つ抜きに出るくらいエルは高い魔力の持ち主だった。

物取りや魔物に殺される事はないとは思っているが、国を出て行った彼女を探しても見つからない。

どうして見つからないんだ。


「旦那様、少し眠られた方が…」

「眠れるわけがないだろ…」


エルがどうなっているのかも分からないのに眠ってなどいられない。むしろ休もうとしても彼女の顔が頭の中に思い浮かび、飛び起きてしまうのだ。


「エル…」


どこにいるんだ。

今度こそ間違えないから早く見つかってくれ。そして私の元に帰って来てくれ。


「父様…」


私の執務室にやって来たのは息子アンドレ。その顔色は酷く悪い。当たり前だ。

息子は例の子爵令嬢に惚れ込み、慕っていた姉に強く当たっていたのだから。

彼も魅了の被害者だったが、姉を追い出した罪悪感に押し潰されそうなのだろう。


「エル姉様はまだ見つからないのですか?」

「ああ…」

「…ぼ、僕も捜索隊に混ざらせてください!」


息子の発言に私は首を横に振った。


「駄目だ」

「何故ですか!」

「碌に外に出た事がないお前が捜索隊に混ざって何かあったらどうするんだ!エルが悲しむだろ!」

「ですがっ、僕は…エル姉様に酷い事を……」


姉に当たっていた頃の事を思い出しているのだろう泣き出す息子を見て、泣きたいのはこちらだと言いたくなる。


「どうしてこうなってしまったんだ…」



弟が泣き、父が嘆いているその時、エルは何をしていたのかと言うと…。


「んー、美味しい!おばさま、これ美味しいです!」


クリームパンを食べて喜んでいたのだった。

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