第1章 暁を求めて 第1話

「シュリ様、そろそろ起きないと朝食が無くなってしまいますよ。」

俺はその声に起こされ、まだ開ききれてない目を擦りながら身体を起こした。


「ん?もう朝?…………………って、誰!」

目の前に見知らぬ女性がいて、びっくりする俺を気にせずその人は喋りだした。

「もう、昨日挨拶したじゃないですか。シュリ様の身の回りの世話を任せられた、アイリですよ。覚えて下さいね。」

そう言うとアイリと名乗った女性は、どこかに出て行った。


えっと…、ここはどこなんだ?

見回して、俺の部屋じゃないことは確かに分かる。

そもそも、ここは誰の家?

外国みたいな見慣れない部屋の作りで、そもそも日本にいるのかも怪しくなってきた。

とりあえず、さっきの女性に話を聞くことにしよう。

俺は部屋を出て、ご飯のいい匂いがする方へ足を進めた。


「あの~。ここで宜しいでしようか…。」

俺は恐る恐る匂いがする扉を開け、食事が準備されてるテーブルに着いた。

「そちらで良いですよ。スープ温め直したら、準備できますから。」

「なんか、すみません。」

「そんな、謝らなくて良いですよ。私の仕事なんですから。」

そう言うと、女性は手際よく出来上がったスープをテーブルに並べた。


「えっと、アイリさん?」

「はいアイリですが、なんでしょ?そうそう、アイリで良いですよ。あと、畏まらないで下さいね。」

「そしたら、アイリ…。色々聞きたいことが…。」

「はい。でも、ご飯食べてからにしましょ。せっかくのご飯が冷めちゃいます。」

アイリにそう言われ、「頂きます。」と朝食を取る事にした。


「では、何かご質問でも?」

食器を片付け終えたアイリは、向かい合うように席に着いた。

「あの…、ここは何処なんでしょう?それに、何故アイリは俺の世話をしてくれて?~~。」

俺はアイリに、色々質問をぶつけた。


アイリに聞いた事をまとめると…。

ここはレイと言う町で、シーラって国の一角にある。

俺はそこに招かれたらしい。

いわゆる、異世界に召喚されたって事なんだろう。

しかも覚えていないが昨日召喚され、ここに来たらしい。

更に、俺が召喚された目的も一つ返事で了承したと。

なんと、俺は魔王を倒す勇者になったらしい…。

いやいや…、昨日の俺何してるんだよ。

なんでこんな事、覚えてないんだよ。

あーも、どうすりゃいいんだ。

俺はパニックになるしかなかった。


「では、シュリ様。今から出掛けますので、準備をして下さい。」

戸惑うなかアイリに促され、俺は準備されてた服に着替えた。

「そう言えば、俺が着てた服は?」

「洗濯し、干してますよ。でも、ここにいる間はこの世界の服を着て下さいね。シュリ様が元の世界に帰る時に、ぼろぼろになって使えなくなっては困るでしょうから、ここでは直しといて下さいね。でも…。」

「ん……?分かった。で、これから何処に?」

何か言いかけたアイリがちょっと微妙な表情をしてたから、深くは追及しないようにした。

「これから、この町に住む大魔導師様のお宅に行きます。昨日シュリ様を召喚した一人ですが、覚えてないですよね?」

もちろん覚えてないので、大きく縦に首を振る

「そうですよね…。向かう道中に、簡単に紹介しますね。」

とりあえず大した準備はなかったから、窓だけ閉めて家を出ることにした。


道中アイリから、大魔導師とやらについて教えて貰った。

名前は『キウ・レイ』。

年齢不詳の男性で、この町の領主の親戚にあたる人らしい。

だから、名前に町の名前が付いているのだと。

国に所属する魔導師の中でも最高峰の実力を持っていたようで、今は引退し余生を送りつつ必要に応じて国の手伝いをしていると。

今回魔王を倒すために必要な力を持つ俺を召喚するのに助力し、この国で俺の保護者的な役割をしてくれる。

アイリは元々この大魔導師の屋敷に勤めるメイドであったが、今回俺の世話役に抜擢された。


こんな感じでアイリの話を聞いていたら、大魔導師の屋敷の扉前に着いた。

アイリは扉に付いている宝石に手をかざし、『アイリです。シュリ様をお連れしました。』とそのまま喋りだした。

すると宝石が光り、『待っていたよ、アイリ。扉を開けるから、中で待っててくれ。』と男の声が返ってきた。

インターフォンみたいな感じなんだろ。

と言うか「俺はほんとに魔法の国に来ちゃったんだな。」と、半ば興味が湧いたのとは逆に不安にも駆られた。

一般高校生に何ができるのだと。

「?シュリ様、中に入りますよ。」

俺は思い詰めた顔をしてたのか、アイリが心配そうな顔で声かけてきた。

「あ、ごめん。ごめん。中入るわ。」

慌てて、アイリの後ろを付いて行った。


「はー…。なかなか立派な、お家で…。」

俺は、見たことのない広い玄関に圧倒された。

そもそも外観自体が明治や大正時代に建てられた洋館と似ている建物で、一般家庭からするとあり得ない位に立派すぎて。

なんせ、玄関入ったら天井が高くて。

豪華な置物が沢山あるとかでは無いが、それが逆に玄関の広さを強調しているのだろう。


「何か、面白い物でも見つけたかね?」

「はい!あまりにも、素敵なお家過ぎて…。」

突然声がした方向に、びっくりしながら顔を向け返事した。

…が、声の主が目線に現れない。

「どこだ?」とキョロキョロしていると…。

「目線を下げては貰えぬか?お主が思っとるより、小さくて。」

その言葉に慌てて俺は、下を向いた。

「ん?」

そこには老人位だろうと想像していた魔導師の姿はなく、小学生1から2年生位の小さな男の子がいた。

慌ててアイリの方を見ると、アイリも頭が?になっているような顔をしていた。

「二人揃って、そんなに驚くか。シュリは仕方ないとして、アイリよ主従の顔を忘れるとは…。私は、キウだ。」

男の子が呆れて大魔導師の名前を名乗ると、アイリが慌てて声を発した。

「キウ様、失礼しました。いつもとお姿が違われましたので。」

「話ししていなかったかね?だか、顔の面影はあるだろうに…。」

そう言われると、アイリはまじまじとキウの顔を覗く。

「確かに、面影が…。特に目が少し垂れているのと、鼻に小さなほくろがあるところなんかキウ様の特徴で。」


「アイリ。もっと神々しいとか、褒め称えてくれるような表現はないのかね。」

キウは呆れ顔で反応した。

「しかし余りにも年齢的な外観が違いすぎて、顔の特徴しか思い付かなくて…。そもそも、この姿は一種の魔法か何かですか?初めて、拝見する姿なもので…。」

「アイリには、説明していたと思ったが…。仕方ない、説明するかね。」

キウは、自身の容姿の変化について話しだした。


「シュリを召喚するのに、大量の魔力を消耗したからね。本来は国専属の魔導師達だけで召喚する予定だったが、魔力が足りぬと駆り出され…。その結果、何でか私が一番魔力をごっそりと持っていかれ、今まで長年身体に溜めていた魔力が極限まで減り、反動で子供に戻ってしまい。魔力は又年月掛けて溜める事として、久しぶりに幼少期を経験できるのも、善きかなと思っているところでね。」

「何か、俺のせいですみません…。」

キウから説明を受け、自分のせいではないが俺は申し訳なくなりとっさに謝った。

「いやいや。シュリは何も悪くはない。これも、必要な犠牲。まあそんな事より、魔王退治について話を深めようではないか。」

キウはそう言うとアイリに部屋とお茶の準備を促し、俺に屋敷の案内をしてくれた。


「ここが書庫。気になる本があれば、読んでみるが良い。」

そう言われ、俺は目についた本を手にした。

………、読めない。

そこに書いてある文字は日本語でも英語でもなく、読める文字ではなかった。

「あの…。読めないんですが…。見たことのない文字でして…。」

「そうか、シュリの国の言葉とは違ったか。どれ、目を瞑ってみてくれ。」

俺は言われるままに、目を瞑った。

キウは俺の眉間に人差し指を当て、何やら呪文を呟いた。

「ほら、これで読めるだろ。本を見てみるが良い

。」

そう言われ再度本に目を通すと、読めない文字の上にうっすらと日本語が浮かび上がって読めるようになった。

凄い、スマホの翻訳機能みたいだ。

「おー、読めます。」

「そうか、そうか。良かった、良かった。」

『コンコン。』

そんな会話を繰り広げている時、部屋の扉をノックする音が聞こえた。

「はーい。」

「部屋の準備ができました。」

俺の返事にアイリが答えた。

そのままアイリに促され、部屋を移動した。


お茶やお菓子が用意されているテーブルに、俺達はついた。

「さて、シュリが呼ばれた目的の魔王についてと、これからについて説明しようか。」

キウはどこからか持ってきた本や、地図を広げながら話し出した。


「まず、魔王について話をしよう。魔王は名前の通り悪の存在で、我々の生活を脅かす存在である事は分かるかね?それを、シュリに退治して貰いたい。」

「えーと…。俺、何の力もない一般的男子なんですが…。」

「それは分かっている。だか、シュリにしかできぬ事がある。それを説明するにあたって、魔王について理解して欲しい事がある。」

キウはある本の絵を指差しながら、話を続けた。

「まずこれを見てくれ。小さな竜巻みたいな絵が描いてあるだろ。実はこれが魔王の始まりになる。」

その絵を見ると、小さな竜巻が角の生えた子供になり、悪い顔をした悪魔になる進化の様子が描かれている。

「魔王って、最初から魔王の姿じゃないんですか?」

俺は理解できずに、そのまま思った事が口に出た。

「魔王は、様々な生物の悪気の塊が集まって産まれる。最初は小さな竜巻みたいな天気の違和感から始まって、気付いたら子供の姿を形どるまで成長する。それが進むと魔王にと姿を変える。他にもその過程で生じた気によって、魔王の配下となる悪魔達も産まれる。それらが、猛威を振ると世界の崩壊の危機に去らされる事となる。」

キウは息つく間もないように、続けて話した。

「 そこで、魔王になる前に退治できないかと我々は考えた。子供の姿になる前に対処できれば、被害も少なく魔王を消滅できる…。子供の姿になると、成長は早いからね。だか、この世界に生きる者達が魔王の存在に気づくのは子供の姿を成してから。そこで、おとぎ話にもなっている魔王を倒した勇者なる存在に掛けることにした。そこから様々な魔術書やら伝記やら探し、召喚成功に至ったのだ。」

「なぜ、俺が勇者に選ばれたんですか?」

「それははっきりとした理由はわからないが、この世界の者ではないのが第1の理由だろうね。後は、この世界との因果がシュリと繋がっていたのか…。」

なんかよく分からんが、異世界から召喚された俺には拒否権は無さそう…。

キウさんの魔力は底ついて、他の誰かを召喚し直すとかは無理だろうし…。

 

俺に何ができるのかと悩んできたら、ある疑問が浮かびキウに問いかけた。

「ところで、魔王は今いないって事なんですか?もしそれなら、なぜ魔王が誕生するって事が分かって?」

「魔王は今不在だが、ある事件が起った。各地で姿なき者から斬り付けられる、と言った事が多発した。しかも同じ時間に離れた場所で起こっているため、同一犯とは考えにくい。更に、斬りつけられた時に風が強く一瞬吹いたと。そこで、魔王が誕生する前触れではないかと仮説が上がった。そして、魔王を唯一退治できる勇者の召喚が成功した事で信憑性が増した。だから、一刻も早く魔王が誕生する前に消滅させて欲しい。」

「出来る限り、力になりたいのですが何をしたら良いのやら…。それと、魔王誕生を阻止したら元の世界に帰れるのかも気になり…。」

「これからに関しては、まず魔術や剣術などを身につけて貰おうかと思う。数日後、アイリと共にここに行ってもらおう。」

キウはそう言うと、メモ紙をシュリに渡した。

って、えー!

俺って、チャンバラごっこ位しかした事ないし弱いし…。

魔術なんて、できっこない。

そもそも、異世界召喚の特典スキルとかはないの!?

「元の世界に戻れるかは、まだ分かっておらぬ。だか、方法がないかは全力で探すと誓おう。」

キウは俺にそう言い、手に持っていた本を握り締めた。

 

その後しばらくキウと話をし、俺とアイリは館を後にした。

一度に色々な事がありすぎて、考えるのも嫌になりとりあえず寝る事にした。

『…………………。』

「ん?」

夢の中で輝く何かに出会った気がしたけど、俺は覚えていない位に爆睡してた。

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