拝啓、愛しきあなたへ
この手紙をあなたが手に取るとき、僕はこの世にはいないでしょう。
ずいぶんとベタな書き出しをしてしまいました。捻りがなくてダメですね、僕は。
そう、所謂「最期の手紙」ってやつです。
まあ、生前に手紙を書いた機会も片手に収まるほどしかなかったので、今になって「最後だ」などともったいぶるのは違う気がしますね。
紅茶でも片手に、気軽に読んでください。
そうはいっても僕は病気などで死ぬのではありません。
ご存じかとは思いますが、死刑を執行されて死ぬのです。
死ぬときになってまで、人の言いなりになるというのは嫌なものですが、仕方がないですね。
僕は人を殺しました。
正確に言うと、手をかけた人々の姿かたちを変えてしまいました。
何故だか僕の手によって命を奪われた人々は、どのような最期であれ、蝶になってしまうのです。
腹を裂いた人は体内から蝶が、首を絞めた人は喉元から蝶が羽化しました。
果たして、その人たちが本当に蝶になってしまったのかどうかはわかりません。
しかし、僕が殺めた人たちの体からそれらが羽化するのは確かです。
初めに気が付いたのは飼っていたカナリアが死んだときです。
殺したのではなく、寿命だったその小さな命は、僕の掌の中で息を引き取りました。
その時も、例によって蝶が表れたのです。
羽が透明の、それはそれはきれいな個体でした。
呆然として見ていると、透明の蝶は僕の手を離れてどこかへ飛んでいきました。
嘘偽りなく、すべてを話したつもりです。
この手紙の中でも、取り調べの時も。
まあ予想していた通り、精神鑑定に出されたのですが。
あなたには正直でありたかった。だから話します。
頭がおかしいと思われても、それでもいいのです。
僕が好きで手紙をしたためているだけだから。
蝶を見せたかった。
君は春が好きだったよね。
永遠に檻の中から外を見ている、と聞いた時、僕はできる限りのことをしてやりたいと思ったんだよ、本当だよ。
普通になれないと泣いていた君が美しくて、愛おしくて。
狂っているのは僕たちじゃなくてこの世界なんだよ、きっと。
そうやって声を大にして言うことができたら、僕たちはどんなに楽だろうね。
あなたの散り際に立ち会えなかったことが残念です。
あなたは素敵な色の羽を持っていたでしょうから。
僕も、できることなら君と同じ色がいいな。
少し長くなってしまいました。
そろそろ行きます。
あなたもどうか、檻の中でいいから、幸せな生涯を送ってください。
虚構と花束 東雲 水 @seaside-again
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