第35話 ※番外編 王子様と『白黒』の真冬の日の贈り物と 元魔王様の真冬の日の贈り物②
王子様と出会って、王子様の聡明さも愛情深さも知ってからは、二人は王子様が願う民の幸せのために懸命に働く王子様に心から敬愛しつつも、まだ小さい子どもなのにと王子様が子どもでいられない状況に痛ましさを感じずには、いられなかった。
5歳になり、この国の外交官に頼んで無理矢理外遊に同行し、諸外国を回って帰ってきた王子様は帰ってきたときに、外国の出版社といくつか契約を交わしてきていた。そうして5歳の王子様が綴る小説が、この国の借金を清算したのだから、周りの大人達は唖然として、皆が言葉を失った。
今の王子様は7本の連載を抱えた、超売れっ子の小説家だった。その収益で国庫を潤し、夢を実現するために、クロードにタイプライターを強請ったのだ。宮廷医師の力を借りたとはいえ、王子様の願いを叶えられて、クロードはとても満足していた。
自分の力が悪いことでは無く、善いことに使えるなんて夢みたいだ!それも自分が尊敬してやまない小さい主のために力を使えるなんて、ものすごく僥倖だ!……と、密かに喜ぶクロードにカップケーキを食べ終えた王子様は、王子様の上着のポケットから小さく小さく畳まれた一枚の紙を取り出して渡した。
「これ、今年のクリスマス……いや、真冬の日のプレゼントにと思って。少し早いけど、クロードとシローナにあげる」
「「
「うん、春になったら執事と侍女長を退職して行っておいで。心配しなくても学費とかは、もう全部僕が支払いを済ませたから」
「わ、私たちはあなたの傍に、ずっといます!!そ、それに、私たちは、もう老いて……」
「そ、そうです!私たちは、ずっとお傍にいたいんです!」
「老いていないでしょ?わかるよ、僕。君たち双子、シローナと君は
「「!!ど、どうして、それを!?」」
「わかるよ、僕、昔から
誰からも綺麗など言われたことのないクロードとシローナは自分達の容姿を褒める言葉よりも気になる言葉を先に言われてしまったことで身を硬直させて、声を震わせた。
「「あ、あの……
そう、人目につくところで変装を解いた記憶はないはずなのに、この王子様は、知っているというのだ。シローナにお茶のおかわりを頼んでから、王子様は二カッと白い歯を見せた。
「僕が5歳で外遊してた時だよ。君たち僕のこと心配して、夜中に天井で寝ずの番を交代でしてたでしょ?あの時は二人とも化けてなかった。クロードはイケメンで、シローナはコギャルだった」
「「いけめん、こぎゃる……でしたか?」」
教養がないため、いけめんやこぎゃるが何を指すのかわからずじまいだが、王子様はどうやら褒めてくれているらしい。一族で一二を争う腕前のはずなのだが、どうも、この小さい王子様の前だと自信を失いそうになる二人だった。シローナからお茶を受け取り、冷ましながら王子様は話す。
「君たちは、学院に入って学び、国際弁護士になるんだ」
「「国際弁護士?」」
「そうだよ、君たちの一族が根拠のない理由で差別され迫害を受ける今の状況を変えなきゃいけないんだ。君たちは賢くなって法律を武器にして、戦うべきだよ」
「「アンソニー様……」」
ようやく冷めたお茶を飲み、王子様は二人を交互に見た。
「今は僕がいるから、表立って君たちを貶めるものはいないけど、それじゃあ、ダメなんだよ。僕がいなくても、世界中のどこにいても、何をしていても、誰にもひどいことなんてされてはいけないんだ。誰の命だって皆、尊いんだよ。……泣かないで、シローナ。クロードも、よく聞くんだよ。
あのね、
この国の王になるための勉強で、僕もこの世界の法律書は、まだ少ししか流し読み出来てないけど、少なくとも特定の一族を嫌って迫害してもいい……なんて法律は、どこの国にも無かったよ。だから君たちは賢くなって、それを武器に戦えば、世界中の国々に自分たちは否定される一族ではないって立証できるはずなんだ!」
クロードもシローナも涙が頬を伝って、途切れることがなかった。王子様は眉をシュンとさせて、申し訳なさそうに言葉を続けた。
「本当は僕が君たちを自分の手で守れたらいいんだけど、僕、今はとにかく、この国の人たちのお腹をいっぱいにしたいんだ。ごめんね。君たちの未来を守れる方法を考えついたの遅くなっちゃったから、怒ってる?本当に遅くなってごめんね」
首を横に振り、そうではないと言いたいのに涙が止まらない二人は、ティーカップを持ったままオロオロと狼狽える王子様を見て、ますます涙が止まらなくなってしまった。二人と二人の一族は、今以上に小さい王子様に心から仕えることを誓った。
そして春が来て、二人は旅立っていった。小さい王子様が成長し、大人になって(大きくなっても小柄なままだったが)王様になって、しばらく経った頃ー。
「二人とも、勝訴おめでとう!」
「「ありがとうございます!」」
二人は無事国際弁護士となって一族の存在を肯定させる裁判を起こし、長い戦いを勝利に収めて、大恩なる王子様……王様に報告するために一時帰国していた。一族は裁判を起こしたときに一族の存在をいち早く認めてくれた学院のある永世中立国に移住していたのだ。二人は本当は王様のいる、この国にいたかったのだが、家族が離れるのはいけないと王様に諭されての移住だった。
一時帰国する際、二人は王様のための真冬の日の贈り物について悩んでいた。
というのも、真冬の日の贈り物という習慣は、どこの国にもなく、そして王様の国にもなかったからだ。久しぶりに再会した宮廷医師の話では、どうやら王様が個人的に、
「クリスマス……いや、真冬の日の贈り物!」
と言いながら、自分の周りの人間に感謝の言葉とともに贈り物をされていたらしい。
二人は自分たちがもらった贈り物が、一族にとって人生を変える贈り物だったため、王様に何を贈り物にしたら喜んでもらえるのか、二人を含めた一族皆の感謝の気持ちをどう示したらいいのか、わからなかったので、素直に王様に尋ねてみることにした。『聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥』と王様が王子様だった時に教えてもらっていたからだ。
王様は「う゛~」と相変わらずのうなり声を上げて、しばらく悩んで二人に尋ねた。
「何でもくれるの?」
「「はい!」」
二人は王様が望みを言ってくれるのだと思うだけで嬉しくなって、つい声を弾ませて返事をしてしまった。この王様は本当に賢く、その賢さで大金を稼ぎ出し、国を立て直したが、実は本人自体はあまり物欲がないのだ。絹や高級なアクセサリー類も、商売の匂いがしない場所(本当にプライベートな自室)では身につけることがない。王様は常に民のことが最優先だったので、二人は一度でいいから王様自身のための望みを聞いてみたかったのだ。
王様が望んだ物は一族総出で、必ず手に入れようと話し合いも済ませていた。……何なら、隣国が欲しいという無茶な願いだって、王様が望むなら絶対に手に入れようと思うほど決意も固かった。もちろん、そんな願いを口にするような王様では、けしてないこともわかっていたが、それぐらい全力で感謝を示したいと強く皆が思っていたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます