第31話 ※後日談①

「ねぇねぇ、ミュカ聞いてくれる?」


「ん?いいよ、メル。何の話?」


「この間のお茶会でのことなんだけどね、レイフォード様ったら、アンにお友達とやりたかったことはないかと尋ねられてね……」


「ふんふん」


「アンが子どもの頃、お友達とシロツメクサで花冠を作りたかった、お父さんが作ってくれた白いブランコでお友達と遊びたかった、川のせせらぎや夕日をお友達と手をつないで見に行きたかったし、初めて自分だけでクッキーが焼けたときは一緒に食べてみたかった、字を覚えたての頃は、内緒の手紙交換をしたかったって、照れくさそうに話すのをレイフォード様は(萌えて悶え転がりそうになるのを堪えながら)真剣に耳を傾けられてね」


「ふんふん」


「結婚することが決まったとはいえ、4年前に一度会っただけだし、会えなかった間のことや、今までのお互いのことをよく知るためにも会話も大事だけど、思い残しも無くしたいから、この婚約期間にお互いがやりたかったことを全部してみようって、提案されてね」


「えっ!!4年後の再会で、あれだけキスしまくっておいて、今更純愛路線!?」


「するとアンが喜んでね。レイフォード様も、お友達としたかったことはなんですか?って可愛く上目遣いで聞くもんだから、レイフォード様の箍がはずれかけてしまってね、大変だったわ。……結局、ご自分の膝の上にアンを横抱きにしてね、頬擦りと顔中にキスの無限ループになりそうだったところを、再度アンに質問されて、ようやくご自分を取り戻したから良かったものの……」


「うっわ~、凄い遠い目になって……」


「レイフォード様は自分には昔、親友がいたけれど、その親友は、お友達のキスの習慣を知らなかったので、お友達のキスをもらったのはアンが初めてだった、って言ったの。アンが全てのお友達のキスを捧げてくれたのが嬉しかったので、自分のお友達のキスも全部アンに捧げたいって顔を真っ赤にしておっしゃってね」


「え!膝に抱っこで、散々アンを堪能しておいて、赤面って……!」


「そうしたらアンも負けないくらい、真っ赤な顔で、すごく嬉しいって、ありがとうって、キスをしたから……」


「あ~、その先言わなくっていい!」


「魔王様は箍外れまくりでね、私は部屋を追い出されちゃったの。それでお茶会はお開きよ」


「……ねぇ、その話し、まだ聞かなきゃだめ?」



「シロツメクサを摘もうとしたら、虫が飛んできてね。アンは子どもの頃のトラウマで虫が大の苦手になってしまっていたから泣いてしまってね。私がアンを膝に抱き上げて、私の腕の中で花冠を作らせてあげたんだ。アンはありがとうって、私の頭に花冠とキスをくれたんだ。花冠を作ったのは、あれが初めてだったが楽しかったし、幸せだったよ。


 白いブランコは大人が乗るには小さかったから、急遽魔人族国の職人に頼んで作らせたら、職人が気を利かせてくれて、並んで二人で乗れるようにしてくれたんだ。アンの肩を抱いてブランコにゆっくりと揺られているとね、アンが私の胸に頭を寄せてね、すごく嬉しいってはにかむんだ。あれはとってもかわいらしかった。ブランコに乗ったのも初めてだったが、あれもとてもいいものだったぞ!


 川のせせらぎや夕日や今までお互いが一緒に見たいと感じた、いろんな場所に行ったんだ。手をお友達つなぎにしてな。……でも、お互いに自然と恋人つなぎがしたくなったんだ。だけど私とアンは身長差があるだろう?だから私がアンの肩を抱いて、アンは私の上着の裾をキュッと掴んだんだ。キュッとだぞ!どれだけ私を煽ったら気が済むんだろう。……とにかく、お友達と散歩も素敵だったぞ!恋人でも夫婦でも続けたいって思うぞ!


 アンは、すでにお料理上手だから、私がアンの指導を受けてクッキーを作ることにしたんだ。おそろいの白いエプロンを着けてな。アンのエプロン姿、すっごくかわいかったなぁ……。生地を混ぜるときに手を添えてくれたんだが、小さくて可愛い手で、アンはどこもかしこも可愛らしくて……、と、とにかく私の初めてのクッキーはアンが手取り足取り、すっごく優しく教えてくれたから完璧に出来たんだ!


 ……それでも、最初不安でな、アンについてもらって美味しく出来てなかったらどうしようって。そしたらアンが、私と同時に食べさせあいっこしましょうって!!アンに食べさせてもらったら、すっごく美味しくって安心したし、嬉しかった!アンも私の作る物より美味しいって褒めてくれるから、そんなことないって、ちょっと言い合いになってな。お互い言い合いしているときに気づいたんだ、これがお友達との初喧嘩かもって。そう思ったらおかしくなっちゃって、笑い合って、初めてのお友達との仲直りもしたんだぞ!


 お手紙交換もしてみたんだ!夜、アンを部屋に送るときに渡されてね、眠る前に読んでと言うから楽しみで楽しみで。ベッドの中で封を開くとな、今日はありがとう、大好きですって書いてくれて、寝ているときは傍にいられなくてさびしいです。夢でも会えたらいいにのにって、早く朝が来てくれたらいいのにって、可愛いことを書いてくれるから思わず、夢渡りの魔法を研究しようかと思ったぞ!……つまり、私が皆に言いたいのは、お友達というのは、いいものだぞって事だ!!」


 魔王城の執政室に新しい魔王に引き継ぎをするため、元魔王レイフォードは来ていた。執政室に入るなり、まるで遠足帰りの子どもが興奮状態で息継ぐまもなく一気に話をするような勢いで、愛しい婚約者とのお友達ごっこの様子を話し出したのだ。


 執政室の中は砂糖に蜂蜜をたっぷりかけたような、地獄のような甘甘~いのろけ話にもだえ苦しむ新魔王と、苦虫を噛みつぶしたような表情の獅子王デューダと痙攣を起こして倒れる猿王アキセがいた。


「ね、先に聞いておいて、良かったでしょ!」


 先日のお茶会の報告をした白鷺王メルと、メルのおかげで事前に免疫がついた三毛猫王ミュカだけは、その甘甘のろけ話に冷静に突っ込むことが出来た。


「「それ、絶対お友達違うから!!」」

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