第32話 ※後日談②

「ねぇねぇ、ミュカ、聞いてくれる?この間ね……」


「ち、ちょっと待って、メル!この話し始め、最近なかったかしら?あれ?なんか嫌な予感が!」


「あら、免疫追加接種はいかが?」


「激しく遠慮したい!!……で、でも、何?」


「レイフォード様がアンソニー様を失ってから、から呼びしてるのは気づいてた?」


「あっ!!そういえば……」


「あれはね、ユーリが私呼びだったからよ!レイフォード様は否定してるけど、間違いないと私は思っている!」


「えぇ~?レイフォード様必死じゃん!?」


「自分のことを私呼びするのがアンソニー様の好みだと思い込んじゃったみたい。でも、この間、アンと庭で日向ぼっこ中の会話で、うっかり俺って言っちゃって……」


「ふんふん」


「アンに、本当はご自分のこと俺と呼んでいるのかと尋ねられて、レイフォード様ったら涙目で嫌だったかって、恐る恐るアンに聞いたのよ」


「ふんふん」


「そしたらアンが頬をピンクに染めて、ちょっぴりワイルドな雰囲気がして、とても素敵だけど、他の女性に取られたくないから、他の人の前では私のままでいてねって、言うから……」


「……また箍が外れて、部屋直行コースだったと……」


「いえ、庭に防音と目眩ましと守護魔法が速攻張り巡らされたわ」


「うわぁあ、ダメ、それ以上は、もう!!」


「小一時間後、真っ赤にのぼせきったアンを肌つやっつやのレイフォード様が横抱きして出てきて、部屋に直行していったわ」


「え~、さらに~、どんだけなの、レイフォード様!?」






「え~と、何々……。結婚して新婚旅行を2年間とってからの生活計画?週休2日で、出勤時間は朝の9時から夕方5時まで。昼休憩は12時から2時間取る。残業は無し。夏と冬にそれぞれ1ヶ月づつ長期休暇をとり、春と秋にはそれぞれ1週間づつ短期休暇をとる。


 妻が妊娠した場合は家事を替わりにするためと育児を協力して2人で行うために、妊娠休暇と出産休暇と育児休暇を合わせて3年とる。子どもを作るのはアンの体が20歳になって、完全に大人になってから。生まれた子どもが皆独り立ちしたら、城勤めを退職し、子どもの独立と退職を祝う世界旅行を2年間とってから、夫婦で余生を楽しく過ごす。……あのレイフォード様?この素晴らしく健全な家族……生活計画?ですが……」


「なんだ、新魔王?」


「あの、まだ城勤めをされるんですか?普通300歳を迎えた魔人族は、それまで蓄えた資産が充分あるので、働くことを止めて好きなことをして残りの人生を送られますが?」


「あぁ、そうだな、私も充分資産はあるから、もう給料はいらん。その計画は魔人族ではないアンとの生活を幸福に歩むために必要なのだ」


「と言いますと?」


「これは昔、アンソニーに教えてもらったことなんだがな。何でも女性というものは、色々準備する時間が必要らしくて、どれだけ好きな男が出来ても、毎日風呂に入ることや四六時中、そばにいては、その準備が出来なくて、困るらしいのだ。『もう、むだ毛の処理とか肌のスキンケアとか好きな人だからこそ、見せたくないじゃないですか!月に一度の女性特有のものの時だって、さすがにその時は、お風呂別にしてほしいのに、ユーリと来たら!!……あっ!違っ!あの、その、そう!そう、ユーリに!ユーリに、そう言って怒られたんですよ!参りましたねー、ハハハハハハ!!』って、よくアンソニーが愚痴っていたからな。


 それに妻に夫がベッタリなのもあまりよくないらしい。『夫源病っていいましてね、家事も自分でろくに出来ずにいる夫が趣味も無く、ずっと妻のそばに張り付いて妻の行動を制限したり、拘束することで、妻が夫がいるだけでストレスで病気になってしまうこともあるんですよ!だから魔王様も結婚されたら、家事が出来る夫になってくださいね。え?国に戻らないのかって?いやだな、外交が2、3日伸びることはよくあるじゃないですか。あぁ、魔王城の前でピンク色の長髪の男が、何やら叫んでるって?やだなぁ、僕のユーリは后ですよ?いくら長男が最近成長して政務を手伝えるようになったからと言って、子どもに丸投げして、国外まで僕を追いかけて来るはずないじゃないですか?あんな……!外交は……外交は大事な僕の仕事なのに、嫉妬でくっついてくるような、あんな人は知りません!』とも言ってたっけ。


 ……あの時のアンソニーは怖かった。と、とにかく私は、ずーっとアンとラブラブ生活を送りたいから、そのつもりで、よろしく!!」


「そう言われても、城勤めで何をされるおつもりですか?魔王の引き継ぎは先日終わりましたが?」


「とりあえずは三毛猫王ミュカに映像魔法を習って、魔力がない普通の人間のアンでも見られるように、映像魔法を映した水晶を改良しようと思ってる!新婚旅行の映像をいつでも見返せるように!」


「自分の家でやってくださいよ。何、魔王城を自分のアトリエとして使おうとしてんすか!?」


 魔王城の執政室では一週間後に挙式を控えたレイフォードが、新魔王と言い合いをしているのを、魔界四天王たちは呆れた目をして遠巻きにしていた。


「ね、先に聞いて置いて良かったでしょ!」


「……この間から、何が言いたいのよ?」


「えーと、つまりね。……私たち、もうレイフォード様から卒業しない?獅子王デューダの言う通り、好きなうちは好きでいいけど、私たちもう250歳でしょ?新しい恋に目を向けてもいいんじゃないかって」


「……そうだね、私たち、レイフォード様よりも初恋引きずりまくってたものね、そろそろ潮時だよね」


 白鷺王メルと三毛猫王ミュカは、お互い涙が滲んだ顔で微笑み合った。獅子王デューダが無言のまま両手でグリグリと二人の頭を撫でこすった。


「い、いたたた!!もうデューダ、痛いって!!」


「何よ、その上から目線!!子どもが5人いるお父さんだからって余裕ぶってんじゃないわよ!!」


「二人とも!恋人に猿王アキセはどうですか?恋人常時募集中なんですが?」


 猿王アキセの軽い勧誘の言葉二人は、撫でられたまま、顔だけをそちらに向け即答した。


「「ごめんなさい!」」

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