第27話 前世の不遇な俺と今世の勇者の俺⑥
俺は幼き日の自分を褒めてやりたくなった。小さい頃から一番の子分として可愛がっていたから、きっとアンは俺のことが大好きなはずだし、大きくなって恋する乙女となってからも、ずっと俺に片想いをしてきたはずだ。親分子分の関係からラブラブ両想いカップルにレベルアップするのに何も不都合なことはないはず!
……でもなぁ、アンは泣き虫の恥ずかしがり屋だから、親分だった俺が一人の男として告白したら、嬉しすぎて、心臓が止まっちまうんじゃないか?俺はすごく心配になった。何せ初対面で美形の俺を見ただけで泡吹いて気絶しちまうほど、気弱な女だからなぁ。どうやったら心臓に負担をかけずに、お前だけでなく俺もお前が好きだって知らせてやれるんだろうと悩む。俺って、思いやり溢れるいい男だよなぁ。こういうの純愛っぽくって、いいよなぁ。
アンの旅を反対する言葉は、まだ続いているようだ。ようするにアンは魔王を倒すのが恐いんだな?本当に怖がりなのも相変わらずだなと苦笑する。わかるわかる、アンは普通の村娘だから恐くて当たり前だ。大丈夫だと安心させてやることにした。
「大丈夫、お前は俺の一番の子分なんだから、俺のそばにいるのが当然だろう?なぁ、みんな?」
「いや、子分じゃないって言ってるでしょ!私はあんたが大嫌いなんだから!」
「照れるなって。本当は俺の一番の子分が嬉しいんだろ?」
「「「……ウェイが、どうしてもと、いうなら……」」」
まぁ、他の女達の嫉妬があるだろうが、俺が上手く言ってやるから大丈夫だろう。しばらく様子を見てたが大丈夫そうだった。さすが、俺のハーレム要員の予定の女達だ。段々仲よくなってきたようで安心した。
「もうあなたって本当に戦えない、どうしようもない凡人なんだから!今夜はお肉にしてよ!」
「戦えぬ平民など、足手まといにしかならないのがわからないのか!今夜は魚と決まっております姫!」
「わーい、デザートはオレンジのパンプディングだ!えっと、この役立たずの平民め!おかわりも作ってよね!」
「お前ら、アンにまとわりつくな!アンの一番のそばは、俺だぞ!」
裏切り者の子分らのいうように、アンの料理はマジ上手かった。俺のための飯なのにココルが横取りするのが腹立った。
「あなたってとっても地味ですわよね。で、私のお洋服には、この間のバラの香りをまた焚きしめてほしいのだけど」
「確かに茶色の髪に瞳と、ありふれた容姿ですな。姫の後は私の鍛錬着を繕ってくれないか?刺繍はいつもの百合を」
「二人ともずるい!この地味平民は私のハンカチにウサギさんつけてくれるって、先に約束したの私なんだから!」
「お前ら、アンにまとわりつくな!アンは俺の一番の子分なんだぞ!」
アンは俺の洗濯を、未婚の娘は結婚する相手の物しか触れないから、って断った。俺に好感持っていても、貞操観念がしっかりしているアンに感心する。心配しなくても俺の第一夫人は、お前だからな!いくら姫がごねても、一番の子分だったお前を2番になんてさせないからな!
「何だかお城を長く離れるなんて、初めてで落ち着かないわ。あなたの地味顔、落ち着くから、今夜は私の横で寝なさい」
「なるほど、確かに落ち着く顔ではありますな。でもこの者が寝ている姫に悪さを働かないように私も隣で眠りましょう」
「ずるいずるい!!二人とも大人でしょ!今夜はココルに寝る前のお話してくれる約束したもの、ね、アンは私の地味顔よね?」
「……っく、ずるいぞ、お前ら、俺だってなぁ、アンと……。なんだよ4人して変態みるような目つきやめろ!チクショー!」
将来の妻達が仲よくやってくれて、嬉しくて、つい、俺も4人が思ってもないようなことを言ってボケてみた。そんなことないって言われるのを待ったが返答がなかったので、ボケが高度すぎたことを反省した。まぁ、仲が良いのは、いいことだと思い直してすぐに反省を止めたけど。仲よくなりすぎて、疎外されている気がするのは本当に気のせいだろう。
さすが車も電車もない世界だ。明日は隣国と呼べる場所まで着くのに2ヶ月間もかかった。大変だったが良い旅だったと言える旅だった。魔人族国の魔王を倒すことを隣国に隠すため、姫と女騎士が上手い言い訳を思いついてくれた。
サリー姫は自分が姫であることを伏せ、俺の部下だと言い、「この国を救う使命を持つ勇者様の命令で民の暮らしを調べています。どうぞご協力ください」と丁寧に行く場所、行く場所で、色んな民たちに声を掛け、俺たちが魔王を倒す旅に出ていることを、ごまかしてくれた。
ガーネットは騎士であることを隠さずに、勇者に仕える騎士だと言って「この国を救おうと立ち上がるために、まずは体を鍛えたいという勇者様の申し出があったので体を鍛えながら、民の暮らしを調べるための旅をしている」と言って、魔王討伐のために修行している俺のことをごまかしてくれた。
アンは家事と馭者の傍ら、ココルの世話をして本の読み聞かせまでしてくれていた。頭のいい嫁達を持つことが出来て俺は誇らしい気持ちになって、「勇者の力になりたい」と別れ際に周りの人間たちに言われるようになったので、「かならず、一緒に頑張って成し遂げましょう!」とノリで決め顔を作って、握った拳を頭上に上げると大盛り上がりだった。
色んな場所を回ったが、どこも別れ際はこんなふうに大盛り上がりになって、最後の方には行った途端、歓迎されるようになってしまった。さすが、俺!これが勇者様のカリスマっていうヤツなんだろうな!
とは言えー。俺は勇者の剣に選ばれた勇者様とはいえ、村長の息子に生まれただけで騎士ではないのだから剣の修行をするのは当然だと旅の間、ずっとガーネットに朝から晩まで一日中しごかれて毎日クタクタだった。ガーネットが「さすが勇者様は、飲み込みが早い」と毎日褒めてくれたので、嫌だったけど手は抜かなかった。早朝、ココルにたたき起こされて自分の洗濯をしてから、朝食をサリー姫と食べて、ガーネットと弁当持参で修行に出かけ、帰ってから風呂に入り、夕食を皆と食べたらアンに話しかける間もなく倒れ込むように眠ってしまう2ヶ月は、あっという間に過ぎてしまった。
誰ともラブラブ展開になることもラッキースケベなことも起きなかったけど、皆の好感度が高いのは、わかりきっていたので俺に不満はなかった。そうだよな、こういう穏やかな時間が俺たちの愛を育てていくんだよな。大人なラブラブ展開は、魔王をサクッとやっちゃってからの方が落ち着いて出来るからいいだろう。大丈夫、俺は、皆を愛してるからな!
……なのに次の日、俺は魔王とアンの抱擁を目にすることになる。
当然俺は大暴れしたが一兵士にも勝てず、ライオンに顔が似ている大男に拘束されてしまった。そいつがアンを除く勇者パーティーを引き連れ、アンソニー国の王城に行く。俺とガーネットは暴れたため、後ろ手に魔法の綱で拘束され、猿轡も施されていた。王城の謁見の間が騒がしかったが、俺の耳には何も話が入ってこなかった。
俺の脳裏には、あの時の男とアンの姿が焼き付いて離れなかった。
漆黒の艶やかな黒髪を肩まで伸ばし、意志の強そうな透き通る紅い紅玉の瞳でアンを愛おしげに見つめる魔王。整った太い眉に鼻筋は通っていて、きれいな形の唇もキリッと引き締まっていて、浅黒い肌のあいつは確かに俺と同じぐらい、完璧な美貌の男だった。俺より頭一つ分くらい背の高い、がっしりとした体格の鍛え抜かれた体が髪と同じ黒い軍服で包まれているのは、確かに俺のヒョロヒョロの体格とは違って、逞しいと言えるかもしれない。
……が、それだけだ!俺たちの今まで育んだ愛の時間は何だったんだ!?4年前に二人は出会ったって?俺が留年さえしなかったら、二人の出会いを防げたのか?あの教師のせいだ!!
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