第26話 前世の不遇な俺と今世の勇者の俺⑤

 床に転げた俺の胸ぐらをグイッと掴み、ミカちゃんは顔を近づけ、さらに俺を罵った。


「店の借金返済するために頑張ってきたのに、あんたのせいで俺がこんな格好で働かないといけなくなって、どんだけ俺が恥ずかしかったか、わかるか!俺にまでつきまといやがって!最初に言い寄られたときに『俺は男だ!』って、ハッキリ言って断ったのに、少しも人の話を聞かないで、何回も何回もデートに誘いやがって!気持ち悪いから止めてくれって、俺もルウも何回も何回も断ったのに、ずっと付きまといやがって!こんなにキッパリ拒否してるのに、何で人の話を少しも聞かないんだよ!


 初来店の時、この店で一番高いのを出せって言ったお前たちの感じが悪かったから、もう来てほしくなくて、ルゥがメニューにない裏メニューだと偽って馬鹿高い値段を提示したのを、食通気取りで鵜呑みにして、この4年近く、毎日5人分を三回頼んでくれたことだけは感謝してるよ。あれで借金返済が早く済んだからな。だが、それとこれとは話が別!お前は害悪だ!


 やっと借金返済したから、次にお前が来たら、腕ずくでも入店拒否してやろうって待ってたんだよ!田舎に帰るだって!?お前がいなくなることを神に感謝するよ!これでルゥはウェイトレスが出来る!俺だって男の姿に戻って、また厨房で働ける!これで予定より早く俺はルゥと所帯が持てる。俺たち、本当にお前が来るのが嫌で仕方なくて、お前らだけ、茶でないものに変えたのに味が良くなったって、褒めるから笑い堪えるの苦労したよ!」


 店の裏口からルゥちゃんが顔を覗かせた。


「ねぇ、ミカエル、終わった?そろそろ戻れそう?」


「あぁ、今戻る。他の奴等にも今から入店拒否告げて来るから、そこで待ってろ!お代は要らねぇよ、餞別がわりだ!!」


「餞別って、ミカエルったら。アレ、青菜のゆで汁よ」


「こいつらには、それでも贅沢さ!ルゥも最後だし、今までの不満を言ってやれ!」


「私、もう二度と係わりたくない。行こ、ミカエル」


 二人が去り、しばらくして、気まずげに仲間たちがやってきて、ゴミだらけの俺の体を払ってくれた。


「こんな格好のやつの横、歩けるかよ。ったく、汚ねーな。あんま、そば寄るなよ!」


 照れ隠しの男の友情の言葉に俺は感動した。そうだよな、アバズレ女や気色悪い女装男より、男の友情だよな。気を取り直して、俺たちは王城に行く事にした。王都に来て11年になるが、城には来たことがなかったからな。田舎で待っている、一番の子分にいい土産話になるだろう。


 いつものように、人数分の入場料金を支払う。王城の中庭に立ち入り禁止の柵があって、中には勇者の剣が台座の上に刺さっていた。勇者の剣は勇者しか抜くことができないと説明書きが、横の立て札に書かれていた。


 俺は、これこそが俺の運命だと直感した!!そうだよ、田舎の村長なんて、おかしいと思ったんだ!村長より貴族より王子より、凄いものにならなきゃ、異世界転生した意味ないじゃん!俺は、もっとすごいことが出来る男なんだ!俺は、これを抜いて勇者になるために生まれてきたんだ。


「おい、立ち入り禁止だぞ!入るな、ウェイ!っおい!それに触るな!!」


「やばいって、ウェイ!それは、ダメだ!お前はカモにはなれても、勇者なんてなれるわけないだろ!」


「顔だけ男なんだから、そろそろ自覚しろよ!」


「馬鹿だ馬鹿だと思ってたけど、ここまでとは!?……おい、もうこいつを捨てて行こうぜ!!どうせ、これ以上金も引き出せないだろうし、ここにいたら俺たちまで仲間だと思われて捕まるぞ!!」


 俺は勇者の剣に手をかけた。光に包まれることもなければ、雷鳴が轟くこともなく、拍子抜けしたけど、剣は何の抵抗もなく抜けた。


 やっぱり俺は勇者だった!俺は勇者の剣に選ばれたんだ!さすが異世界転生者!


 王城の中の人間達は大混乱に包まれている。当然だ、勇者が現れたんだからな!俺は一人だけ城の騎士達に連れられて謁見の間に呼ばれ、王族と会うことになった。俺だけ勇者だから特別待遇だ。いつのまにかいなくなっていた仲間達には後で謝ろう。


 謁見の間に入ったら、年取った王様と城の中で働いていた貴族達、そして、そこに、お姫様がいた!さすが、貴族!茶髪茶目は一人もいない。みんな美形だ!でも、その中でもダントツに美形なのは俺だがな!貴族ではないのに、この美貌!恐ろしいくらいにイケメンの俺が登場したんだ。この後の展開は想像した通りだった。はいはいはい、お約束来ましたよ!やっぱり勇者には、姫がテンプレだよな。そしてセオリー通りに一目惚れされた。これだよ、これ!


「勇者には勇者の使命があります。それは隣国の魔王を倒すことです。無事倒すことが出来たときは褒美を与えましょう。それにわたくしも勇者ウェイのパーティーの一員として、ともに魔王を倒す旅についていきましょう。私はこれでも少々回復魔法と光攻撃魔法が使えますからね」


 姫の言葉に皆が固まったように思ったが、そんなに魔王はヤバい奴なのか?隣国に魔王がいたなんて知らなかったが……大丈夫だって!だって俺は誰も抜けなかった勇者の剣を抜いた男だ!余裕だろ!


 そうだ。俺の活躍を俺の一番の子分にも見せてやろう!俺が勇者やっている間に、裏切り者の子分の傍に置いておくのも許せないしな!褒美は何がいいかな?このサリー姫に惚れられているんだから結婚は間違いなく、するだろうから、公爵位と一生遊んで暮らせる金をもらおう。


「魔王を倒す?褒美もらえるなら、いいですよ。ただし、旅には俺の一番の子分を一緒に連れて行くことが絶対条件ですがね」


 さらに美しさが増した俺を見て、またアンが泡を吹いて倒れないか心配だな。


「まぁ、あなたが勇者ウェイの一番の子分?なんて地味で平凡な容姿なの?そんな細腕で魔王に立ち向かっていけるかしら?大人しく村にいればいいのに」


 輝くピンクゴールドの髪をツインテールに結い、金で細く編まれた華奢な宝冠を額につけ、澄んだ海の碧色のきれいな瞳も真っ白な肌にバラ色の頬もサクランボのような赤い唇も美しいサリーミレジェット王女。


「本当にこれではウェイ殿の足手まといにしかならないではないか!ウェイ殿、考え直されるがよかろう」


 これまた輝く紅い髪を一つに三つ編みにし、紫水晶でできたような切れ長の瞳とキリッとした細眉をゆがめた背の高いスレンダー美女の女騎士ガーネット。


「この子は本当にただの小娘よ!剣も弓も魔法だって使えない!私みたいに神の力も使えないじゃない!」


 シルバーブロンドの髪を腰まで垂らした、淡いピンクの瞳の美幼女の神巫女のココル。これぞ、異世界転生の醍醐味!来ましたよ、ハーレム展開!!回復魔法と光の攻撃魔法が使えるサリー姫に、サリー姫の護衛騎士をやっていた女騎士ガーネット、防御魔法と神の祝福魔法が使える神殿の神巫女ココルが俺の仲間に加わるらしい。皆、タイプは違うが美人揃いだ!


 さすが勇者の俺が侍らす予定の女たちはレベルが高い!!それに俺の溢れる美しさに、皆の好感度は初対面でマックス状態だ!ココルなんて好感度ありすぎで、俺をバラの蔓で拘束して触りまくるから困ったぜ!いくら綺麗でも幼女は、さすがにまずいだろ!!気後れしたアンが遠慮して帰ろうとしたので、アンの肩をつかみ、安心させるために微笑んでやる。


「大丈夫、お前はなにもしなくていい。俺が守る。ただ俺のそばにいて、俺の活躍を見ていてくれ!」


 16歳になったアンは、ものすごく俺好みの女性に成長していた。ハリウッド女優たちの中に、日本のトップアイドルがやってきたような錯覚を感じる。ああ、やっぱり、この顔だよ、この顔!!安心感半端ない!小柄なのに出るところが出て、引っ込むところは引っ込んでいる体型も実にいい!


 一生懸命に何やら話しかけてくるアンに、俺はうっとりと見とれた。声も可愛いなんて、完璧すぎるだろ、俺を萌え殺す気か!?村にいた頃の子どものアンには抱かなかった感情が急速に芽吹き、花開くように膨らんでいく。


 こいつは俺の一番の子分で俺のもの。だから、すでに俺の女だ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る