第24話 前世の不遇な俺と今世の勇者の俺③

 目配せをされた大きな存在は、さらに目を泳がせて言った。


『な、何のことかな?』


 大きな存在が狼狽しつつ、それだけ言った後、その存在が自分の胸元のポケットに入れていた懐中時計を取り出し、後ろ手に隠したのを二つの存在は目聡く見つけ、二つの存在は半眼の表情となって、大きな存在ににじり寄っていった。


『大丈夫よねぇー!ね、父上?』


『う゛!!』


『え?父上、まさか……』


『そうよ、父上ったら、お気に入りすぎて、自分の懐中時計の中にあの子の魂を入れて、持ち歩いているんだから!』


『え~!?父上、ちょっと恐い、それ……』


『ち、違!こ、これは、あの子の魂が神格化しかけているから、様子を見て、神の修行に誘おうと』


『父上~!!どんだけお気に入りなんですか~!!』


『とにかく、あの子の魂はここにあるんだから、私のポイントで、あなたの世界に転生させてあげるから、後はまかせたわよ!!』


『う゛ー、わかったわよ。ありがと、ありがたくポイントお借りします。でもでもっ、あなたのいう通りのキャラは用意するけど、それがあなたの思惑通りに動くかは、わからないわよ!私たちは創造できるけど、創造したものを意のままになんて出来ないんだから!』


『わかってるわよ、だからこそ、人の世を鑑賞するのは面白いんじゃない』


『面白がるのはいいが、あの子に危害が及ばないだろうか?こうなったら、また受……』


『父上、もう受肉は止めてくださいよ!仕事溜まっているんですから!!心配しなくても大丈夫ですよ。あの子は前回見事に役目を果たしてくれたから、成功報酬として今後はあの子が望む願いで幸せに生きられるように運命のパラメーター全振り調整されてますから!!』


『あなた、そのパラメーターの割り振りの大ざっぱさが追試の原因って気づきなさいよ!』


『もう、わかってるわよ!次から気をつけるわよ!!……えー、コホン!じゃ、気を入れ直して、と。テステス……トントントン、お告げ用マイクオン!』


 《さぁ、では今回の勇者よ!今の会話聞こえていましたか?聞いていましたか?……聞いていなくてもマニュアルなんで、今から、お告げといきますよ!


 あなたの使命は、停滞しているアンソニー国の澱みを解消し、民達の幸せを向上させるための道筋を作ることです。わかりますか?停滞している国の歴史を動かす大事な使命ですよ?今のままの魂では力不足なので、あなたには神の試練が課せられます。


 !それがあなたへの神の試練です。


 人の話を聞くとは、あなたのそばにいる人たちの話す言葉の意味を理解することです。理解して、受け入れなさい。あなたの思うことと違うときは、お互いが受け入れられるよう会話を重ねて、お互いを理解できるように行動しなさい。人の話を聞けるようになったあなたには、の魂が傍について助けてくれるでしょう!頑張りなさい!!』


『そんなに細かく説明するお告げって、アリなの?』


『……ツッコまないでよ、落第が、かかってるんだから、私も必死なのよ!……まぁ、試練が乗り越えられなくても、勇者の強制力が働いてくれるから何とかなるんだろうけど。ドドメ色とはいえ、私の事情でこっちに転生させるんだし、出来たら神の試練を克服して幸せになってほしいのよ』


『あなたのそういうところが、私は好きよ』


『ありがと、私も好きよ』


『私の愛し子を傷つけたら、許さないからな!!』


『……父上、私情入りまくりですね』


『とにかく、頑張ってきてよね!!じゃ!!』






 ……なんか、ゴチャゴチャ、うるさい……。そう思った次の瞬間、俺は意識が遠のいて-。


 そして次に目を開けたら、そこはだった-。俺は笑いが止まらなくなった。


 はいはいはい、わかりましたよ、わかりました!あれでしょ?『異世界転生』ってやつでしょ!チートでハーレムのやつでしょ?キタキタキタ!やっぱりね!!やっぱり俺は特別だったんだ。前世は俺のこれからの素晴らしい人生のための予行練習。そのための俺の不遇な人生だったんだ。つまり、これからが本番。本当の人生が始まるんだ!ここからが俺の本気の人生だ!


「まぁ、ずっと笑っているわ!なんてかわいらしい子なのかしら」


「本当にまるで天使のようだ!」


 てっきり俺は王子か貴族に生まれると思っていたのだが、アンソニー国ってところの端っこの片田舎の村長の息子だと知ったときは、がっかりした。ゲームもネットもケータイもテレビもマンガもない、電気もガスもない、ものすごい田舎だ。退屈だし、なんか空気が土臭い。食べるものには不自由しないが、炭酸飲料やお菓子もファストフード店もないのは辛かった。


 でも、ここの居心地は悪くない。皆が俺を褒めてくれる。俺の容姿は美しすぎると褒め称えられる。平民は茶色い目と茶色い髪に生まれることが大半らしいが、俺は両親ともに淡い金髪の持ち主だったのが功を奏して、夏の光で作られたかのような金糸の髪と金色の瞳で、どこぞの王子様か貴族様のお子様のようだと持て囃された。


 両親も村の大人たちも俺を褒めるし、腕に抱いて頬ずりしたがる。とても大事にしてくれるし、今度の親は俺の言うこと、何でも聞いてくれる!やっぱ、本当の人生っていいなー。俺の本当の人生を歩み始めて7年後、さらに嬉しい出会いがあった。


 それがアンだった。


 当時まだ3歳のアンを見て、俺は懐かしさにかられて泣きそうになったんだ。ここは映画で見た、昔の西洋の世界によく似ている。当然俺も含めて皆の顔がすごく濃い!あまりの濃い顔のラインナップに、ちょっぴりうんざりしてたんだけど、アンの顔ときたら!!


 茶髪茶目の日本の美幼女だ!!


 ……そう、濃くないが、すっごくかわいらしい。何だ、この安心感?ホッとする。7年ぶりの日本人顔に、すっごく郷愁にかられて、俺は……。


「俺の一番の子分にしてやるから、感謝しろよ!」


 村長の息子ウェイクスの一番の子分になって、ずっと俺の傍にいさせてやる!そう思って、その時、気に入って、ずっと持ち歩いていたブクブクに太ったイボガエルをアンに見せてやった。


「いやぁああああああああああああああああああ!!」


 アンは突然美形の俺が現れたことにびっくりしすぎて、泡を吹いて気絶してしまった。しかたないから、とりあえず、アンに俺のお気に入りを持たせておいてやろうとした。


「いやぁああああああああああああああああああ!!」


 アンの母親が、なにやら大絶叫をあげながら、俺からアンを取り上げた。親子して、俺の美貌に驚きすぎじゃね?アンの母親の顔もアンほどじゃないが、やや日本人寄りの顔だったので好感をもてた。きっとアンは、大人になっても日本人顔だろう。絶対、俺の傍から離さないぞ!


 それ以来、俺はいつも一番気に入っているもの、例えばイボガエルやトカゲやナメクジや芋虫やら毛虫やらetc.を一番の子分であるアンにも分け与えようと決め、アンを追いかける日々を送るようになった。アンは本当に泣き虫の恥ずかしがり屋で俺からのプレゼントが本当は嬉しいくせに、それが素直に言えなくて、いつも嫌だと泣いて逃げ回った。


 俺はアンの本心が分かっているので、それを照れ隠しの言葉として受け止めた。一番の子分と決めた日から一緒に遊ぶことも恥ずかしがるアンを他の子分たちと追いかけ回して捕まえては、一緒に木登りやザリガニ獲り、鬼ごっこやかくれんぼをして遊んでやった。アンは余程それが嬉しかったのか遊んでいる間、最初から最後まで泣き通していた。


 ただ予想外だったのは、村の権力者である村長の息子で、しかも村の子供の中で一番体格がよく、運動神経もよいし、見た目も整っている、いわば皆の憧れの存在である俺がアンを一番の子分にしたのが周りのガキどもは面白くなかったらしく、アンをいじめるようになってしまったことだった。モテる男って辛いよな。


 

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