第23話 前世の不遇な俺と今世の勇者の俺②

 ガチャガチャの前でガチャを引いた存在が恨めしそうに手元のカプセルを見た後チラリとガチャガチャに視線を移し、その中に見える沢山のカプセルを羨ましそうに見て言った。


『どうしよう、すっごく、やり直したい!』


『あら、ダメよ。”世界救済勇者ガチャ”は、追試を受ける学生がを選り好みしすぎて、粗悪品ばかり残って、後の学生が不利になるからってクレームが出たから公平になるようにと設置された物よ。一度、ガチャを回してしまえば、ポイントは戻ってこないのよ』


『そうなんだけど、上手く出来る気がしないのよ、こんな魂じゃぁ……。あー、もう!折角残ってたポイント全部使っちゃったのに~!!』


『ポイントを沢山取られちゃうのは当たり前でしょ?そうね、例えるならロールプレイングゲームで、自分で長時間かけてコツコツとレベル上げしてステータス上げて、アイテムも必殺の技もコンプリートしていくはずの課程をすっ飛ばして、課金で全部どうにかしてやろうって、お金に物言わせる力業と同じなんだから』


『あっちの世界のゲームに例えられるの止めてよ~!課金の力業って言われると地味に凹む~』


『それはそうかもしれないけど、あなたも悪いのよ。最初のパラメーターを決めるときに、いい加減なことするから、あんなバランスの悪い世界が出来ちゃったんだから。魔人族国のパラメーターの半分でもアンソニー国に割り振っていれば、こんなにしょっちゅう、危機に陥ることにならなかったのに』


『だって、あの時は最初の授業の課題で世界を一つ創造すればいいだけって思ってたんだもん!まさか次の進級試験で、あの時の課題で創造した世界が試験対象になるなんて思わなかったの!パラメーターのアンバランスによる最弱国の衰退で追試になるなんて!衰退が免れても停滞し、澱みが発生したら、追追試になるなんて知ってたら、すっごく念入りに考えて創造したわよ!』


『あのね、神という存在は自分の好きなように世界を創造できるかわりに、その創造した世界の全ての責任を背負わないといけないのよ。世界の未来の姿を見通せて初めて神として認められるの!だって、そうでしょう?すぐダメになる国なんて作ってどうするのよ』


 言い合う二つの存在の元へ、大きな存在がゆったりと寄り添うように現れる。


『どんなのが出たんだい?この間の魂みたいな、大当たりは中々出ないだろう?』


『父上、これ見てくださいよ、このドドメ色!何で、こんなの”勇者ガチャ”に入ってるんですか!こんなの勇者になんて、なりませんよ!業者にクレーム出していいですか!!』


『止めておきなさい。ここに入っている以上、どういう形でさえ、勇者になれる素養があると選別されて入れられているのだから』


『父上のいう通りよ。今回出たのが大はずれだから出来ないって、決めつけてるだけよ』


 三つの存在は、前回のガチャガチャから出た魂を思い出す。


『ああ、前回のは素敵だったね。あんな清らかで優しくて暖かい魂は、今まで見たことがなかったね』


『そうですよね、ガチャを引いた私より、父上が気に入っちゃって、受肉して城の宮廷医術師になっちゃうほどでしたよね』


『君だって、受肉して彼女のクリームシチューとミルクレープ堪能したんだろう?』


『チーズグラタンもです!父上!』


『……あなたも父上も、気に入りすぎたんですよ。だから、あの子のステータスに『総愛され』や『神の愛し子』なんて、特殊加護が着いちゃって、あの子が死んでしまっても、あの子は元の世界の輪廻の輪に戻れなかったじゃないですか。それにあなたたちがいない間の仕事のしわ寄せは私のとこにきたんですよ!』


『え~、あの時謝ったじゃない~!まだそんなこと言っちゃうの~?じゃ、私も言うけど、誰よ、ここにあっちの世界のなんて持ち込んで、あの子とゲームしてたのは?あれで、あの子、に無条件の好意持っちゃったのよ。本当なら周辺の人間の国々と共闘で、魔人族国の国力半分奪って、パラメーターの修復に当ててもらうはずだったのに!それに、あの子は男の子に生まれるはずだったのに、×にハマッてた誰かのせいで、女の子のままだったじゃない!』


『何よ!!あれは、あの子が前世の日本で心臓が弱くって入院生活が長くって、ネットもゲームもしたことがないっていうから、転生する前に経験させてあげようという親切心よ!それにあのゲームは、私の最推しで魔王は私のオニ推しなのよ!あなたが、あの時ガチャを引くポイントが足りないのを私が貸してあげる見返りの男装も、とっても可愛く似合ってたじゃない!!思わずナデナデしたくなる、あの可愛さときたら、どんだけ尊かったか!!それにそれに、結局は魔王とはくっつかなかったじゃない!!まぁ二番目に推しのクール系美形の女装騎士とくっついてくれたのは、なかなか萌えたけど。


 だいたいね、あなたの考えた滅亡を防ぐ解決案は野蛮なのよ!魔人族国の国力を力任せに奪えばすむって考えが安直なのよ!人数にモノを言わせても、あなたの魔人族国のパラメーターの数値では返り討ちされて、すぐ滅亡だったわよ!!』


『何ですって!?』


『止めなさい、ふたりとも!!……そうだね、私たちも、あの時は安直な解決案しか思い浮かばなかった。でも、あの子は神でも考えつかなかった方法で、を成し遂げたんだ。私は受肉して、あの偉業を見守ることが出来て、感動のあまり、あの子を慕う魂達に『神の愛し子の魂の永遠の臣』の称号を与えてしまったよ』


 愛おしい魂を思い出して目を細める父と呼ぶ存在に呆れつつ、話を戻そうとガチャを引いた存在は声を上げる。


『そ、それは、ともかく、大事なのは今!ですよ!今!!』


『そうよね、今回はドドメ色の勇者だもんね、どうする?』


 う゛~と頭を悩める二つの存在に、大きな存在は一つの案を提案した。


『どうやら、その魂にはというカルマが刻み込まれているようだね。今回はそれを神の試練にしては、どうだろうか?』


『どういうことですか、父上?』


『神の試練って、力不足の魂が試練を乗り越えることで本来の勇者の力が発現するっていう、アレですか?』


『あの子には必要はなかったけど、今回の魂には必要なことだよ』


『でも神の試練が乗り越えられなかったら?私、落第になっちゃう!!』


『ねぇ、じゃあ、今回は特別につけたら?また私のポイント貸してあげるから』


『……み、見返りは、……な、何?』


『サポートキャラは、前回の勇者のあの子よ。立ち位置は……勇者の村に住む幼なじみ、で。勇者が20歳になる前に、神の試練を乗り越えれば彼女の『前世での入院生活で得た本の知識』だけが解放されて、勇者と一緒に国を助けてくれる。国は滅亡を免れて、あなたも落第しないですむ』


『……で、見返りは?』


『サポートキャラはガチャを2回引くのと同じ位ポイント使うから、私の好きな恋愛ゲームの要素を入れて欲しいなぁ。今度は一人でなく、いっぱい。そうね、この魂は男だし、男の勇者が主人公なら攻略対象は幼なじみ、お姫様、女騎士、神巫女、元公職令嬢の悪役令嬢くらいかなぁ。隠しキャラはカフェの店員の男の娘で。サポートキャラのあの子も前世は勇者だったから、女の勇者が主人公なら攻略対象は幼なじみの勇者、第一王太子、魔王、前世の夫だった女騎士、隠しキャラは普段老人に擬態している忍びの一族の長で、よろしく!』


『う゛ぇー!!何、それ!?どんな無理ゲーよ!!あなたの好みのクセが強い!それにいくら、あなたのポイントが使えるっていっても、黄泉の世界から、あの子の魂探すの、どんだけ大変か、わかってるの!?砂漠から一粒のダイヤモンドを探すくらい難易度高いのよ!』


 いくら神といえども、沢山ある魂の中から、たった一つを探すのは至難の業だと嘆く存在に、サポートキャラを提供すると言った存在は、急に目を泳がせ始めた大きな存在に気づき、首を傾げ……、


『きっと大丈夫よ。ね、父上』


 と大きな存在に向かって、意味ありげな目配せをした。

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