第22話 前世の不遇な俺と今世の勇者の俺①

「◯◯君は運動が得意で、とても元気な所がいいですね。でも二学期は、もう少し周りのお友だちや先生のお話を聞けるように頑張れたら、もっといいですね」


「ほら、みなさい!◯◯!先生も、お母さんと同じこと言ってるでしょ!!すみません、先生。この子、本当に人の話を聞かなくて」


 うるさいな!クラスの奴らの話は、うざいんだよ!何が運動場の遊具は10数えたら交代だよ!!先生だって意味わかんねーよ!掃除で箒と雑巾掛けは、当番で順番に何て嫌に決まってるだろ!!振り回して遊べるから、俺はいつだって箒がいいんだ!お母さんだって「勉強しなさい!」って、うるさいよ!!いつだって、今やろうとしてたのに、そう言われると、やる気なくなるの、わかんないかな!!


「◯◯君の今の成績では、ここの高校は難しいですね。○○君は何か悩みがあるのかな?いつも授業中、ぼんやりしてうわの空だと他の教科の先生方も心配されていましたよ?悩みがあるなら話してみてくれないかい?先生は○○君の話、きちんと聞くよ?もう少し先生の話をしっかり聞いて、勉強でわからない所は、いつでも聞きに来なさい」


「だから、お母さん、いつも勉強しなさいって言ってたでしょ!!◯◯!聞いてるの?」


 うるさいな!俺にはサッカーがあるんだよ!!成績なんて、どうでもいいんだよ!サッカーで、あそこから、ぜひ入学してくれって、頭下げてくるに決まってんだよ!


「おい、◯◯!もっと周りの声を聞け!サッカーは、個人競技じゃないんだぞ!!」


「監督、◯◯は拗ねてんスよ。行きたかったサッカーの強豪校から、まったく相手にされなくて、◯◯の馬鹿にしてた高校にお情けのギリギリで入学させてもらったから」


 本当に何もかも、ウゼー。あんな学校、こっちからお断りだ!俺が凄すぎるから、逆にハンデをつけてやったんだよ!こんな三流高校からテッペン取ってこそ、俺の凄さが際立つってんだ!


「〇〇、何度言ったらわかるんだ!いくらボールさばきが上手くても、チームプレーが出来ない奴はウチには必要ないんだ!ちょっとベンチに行って、皆のプレーを見て学んでこい!」


「運動神経だけはいいのに、本当に残念な男だよな、お前。レギュラーどころか補欠にも入れないなんてさ。これに懲りて、少しは人の話を聞けるようになれよな」


 あぁ、ウゼーウゼー!!何だよ、嫉妬かよ!俺が上手いから、ひがんでんだな!ったく、これだから凡人は嫌だ。


「◯◯!また学校サボったんだって!!補欠にも入れなかったからって、いつまで拗ねてんの!勉強しなきゃ、大学に入れないわよ!!」


「わー!〇〇、止めてよ!お母さーん!◯◯が僕の本に折り目つけたー!もう絶対◯◯に貸さないからな!!」


 家もウゼー!大学なんて、ちょろいに決まってんだよ!俺が、ちょっと本気出せば、サッカーのレギュラーだって、大学だって、すぐ何だよ!!今は本気出してないだけ!


 おい、お前弟だろ?兄貴のこと、呼び捨てにすんな!それに何だよ!?こんな本!!何が『異世界に来ちゃった』だよ?チートとかハーレムって、どんだけ現実逃避なんだよ!ププッ、お前、異世界に夢見すぎ!小さい頃から運動神経抜群で少年サッカーチームのレギュラーだった俺と違って、お前は愚図で、ずっと補欠だったからな。現実で才能のないヤローは辛いよなー。


「あー、卒業式、体育館マジ寒かったなー。カイロ、もう一つ持ってくりゃ良かった」


「ホントだよな。あっ、そうだ、お前聞いたか?〇〇のこと。あいつ30校も受験したっていうのに、どこにもかすりもしなかったらしいぜ」


「そりゃそうだろ、あいつ、全然勉強してねーもん。サッカーで補欠にもなれなかったくせに、スポーツ校推薦とれるって思い込んでたんだぜ。あいつの親が慌てて探しまくって、30校受験させたって話だったが、やっぱり全滅だったのかぁ。一校受験するだけで数万かかるってのに全部落ちただなんて、あいつの親、気の毒だよなぁ」


「そうだよな、でも〇〇の弟が春に、あのサッカー強豪校に入学することが決まってるから、プラマイゼロなんじゃね!?俺の妹が同中なんだけど、〇〇の弟はキャプテンで、周りとの連携プレーがスゲー上手くって、クラブの連中に慕われてたって。あの高校は進学の方にも力を入れてる所だけど、〇〇の弟は全国模試で常に上位10の中に入ってるから余裕だろうって。女子人気も高いけど、幼稚園時代から付き合っているっていう美人の彼女一筋なところがいいって皆に好かれてて、性別問わずに大勢友人がいるってさ。妹がファンらしくって、語り出したら止まらなくて困ったよ」


「そりゃ、スゲーな。良いとこ全部、弟が持っていっちまったか、〇〇悲惨」


「ちょっと、〇〇君に聞こえるわよ。かわいそうじゃない」


「笑いをこらえた顔で同情してる振りしてるほうが、ひでーよ」


「だって、〇〇君って、いつも上から目線で俺様発言連発の勘違いヤローでしょう。普通に挨拶したり、先生から頼まれた事を伝えただけで、自分に気があるって思い込んじゃう、おめでたい人が落ち込んでるのよ?ウケルわー」


「ああ、それで、女子たち〇〇に話しかけないのか。納得」


「そうだな、いくら否定しても、こっちの話聞かずに、グイグイ行くからな、〇〇って。この間も先生から生徒指導室に来るようにって、伝言を伝えただけの女子を追いかけ回して、先生付き添いで『それって、ストーカーです!!止めてください!!』って言われてたし」


「そうよ、あれってやられると、すっごく怖いんだから!自衛にでるのは当然でしょ!なのに『俺がイケメンすぎて、告れないんだろ?』って、どんだけ自己評価高いのよ!?あなたたちも私たちのメルアドとか絶対に教えないでよ!」


「教えるかよ……ってか、俺たちも教えてねぇのに。この後の打ち上げだって誘ってねぇし」


「……なぁ、やっぱり、マイナスの方がでかすぎないか?」


「そうだな、親と弟が気の毒だな」


 ……ホッント、うるさいんだよ。弟が、あそこに行くって?聞いてねーし!俺の時代と違ってレベル下がったんじゃねぇ?そうに決まってる!頼まれてもお前らとなんか、飯もカラオケも行かねーよ!


「ほら、予備校申し込んどいてあげたわよ、〇〇!!今度こそしっかり勉強しなさい!!え?行かない?……なら、働きなさい!!家でゴロゴロなんてさせないわよ!いつまで甘えてるの!!」


「こんな時間からコンビニ?なら、今日は大通りは通っちゃダメだよ、兄貴。下水道の点検でマンホール開けてるってさ。……なぁ、兄貴。しっかりしてくれよ。あんまり父さん達に心配かけんなよ。前の高校受験の時もそうだったけど、今回の受験料だって60万超えてるし、予備校の入学金だって、かなりの額だったんだぞ!っ、おい!人の話を聞けよ、兄貴!!」


 うるさいうるさいうるさい!!俺は受験したいって言ってない!予備校行きたいなんて言ってない!働きたくなんかない!俺の才能を認めない周りが悪いんだ!!


 家から出て歩いていて、怒鳴るような制止の声や前をふさぐ柵が、うっとうしくて、無視して歩いたら、地面が急に消えて、目の前が真っ暗になった-



 ……何も見えない、ここはどこだ?……何か音がする?……誰かの話し声?







 ガチャガチャ、ガチャ!コロコロ、コロ……。ヒョイ、パカッ!!


『あ~、大はずれだ~、ついてな~い!』


『えっ、ほんっとだ~!大はずれ~!!』


 そこにポツンと置かれたそれは、ある世界のある国でと言われているものだった。


 決められたコインを枚数分、投入口に入れ、ダイヤルを決められた方向に回すと中からプラスチックのカプセルが出口から出てくる。中身はカプセルを開けるまで分からない。カプセルを開けて、すぐ閉じた、その存在は顔をしかめた。横から覗き込んだ、もう一つの存在も同じように顔をしかめ、ガチャで大外れを引いた存在の肩にポン!と手を置き『ドンマイ』と慰めの言葉をかけた。

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