第21話 村人の彼女と騎士の私④

 この作戦は、大成功だった。


 アンは時間稼ぎのために、この狭いアンソニー国を縦横無尽に2ヶ月間も駆け巡ってくれたので、私たち勇者パーティーのことは、食べる以外の楽しみがほとんどない民達の間であっという間に有名になり、食事と宿を提供するので読み聞かせをしてくれないかと頼まれるほど、王都以外の字が読めない、ほとんどの町村で私たちは、もてはやされるようになった。


「……っく、ずるいぞ、お前ら、俺だってなぁ、アンと……。なんだよ4人して変態みるような目つきやめろ!チクショー!」


 変態っていうか、こんなにもアンに毛嫌いされているのに、なんでこの男は気づこうとしないんだ。ここまで人の話を聞かないっていうのも、ある意味一つの才能なのか?まぁ、未だに自分がどういう立場に立たされようとしているか気づいていないのは、こちらにとって好都合だが。


 2ヶ月後。目の前は隣国との国境で。私は魔王とアンの抱擁を目にすることになる。



 私の中の瞬間、大暴れをしたため、私は獅子王デューダに拘束されてしまった。獅子王デューダがアンを除く勇者パーティーを引き連れ、アンソニー国の王城に行く。私と勇者は暴れたため、後ろ手に魔法の綱で拘束され、猿轡も施された。


 姫を守るようにして、前に立った三毛猫王ミュカは、ミュカ率いる三毛猫シスターズが送る映像魔法『2ヶ月間に渡るアンソニー国の調査報告』を流し始めた。


「この映像は元魔王レイフォード様の奥方になられるアン様に導かれて、王女たちが2ヶ月間くまなく国内を駆けずり回ったときの国民の生活を撮影したものです。ここには貴族の実情も平民の実情も、何の脚色もなく撮影したと私、三毛猫王ミュカは、『撮影魔法を考案されたアンソニー様の一番弟子』の名にかけて撮影したと誓います」


 そこに映し出された証拠の数々に、ため息を吐く国際弁護士。


「ここに映された全てを王女サリーミレジェットの名において、全て真実であると証言いたします。私もその場で見聞きしたことです。私は、この映像を撮ってもらうために大恩ある魔王様に仇なす発言をし、お兄様がいない2ヶ月間をかけて国内を回ったのです!」


「私はアンソニー様の御意志に添えていない今の国を憂いていました。王である父も第一王太子であるお兄様も他の兄弟姉妹も城にいる者たちも、誰も私の言葉を聞いてはくれませんでした。アンソニー様は国民の知力向上を願ってらした。食べられるだけで幸せと満足するのではなく、貴族のように文学に親しみ、音楽や絵画といった芸術を楽しめるほど、心も豊かになってほしいと願ってらした。


 そのことは国民向けの伝記にも書かれているというのに、一部のお金を持っている人しかその本が読めないなんて、ひどすぎる。私はアンソニー様亡き200年間、守護魔法を補佐する三毛猫王ミュカ様に幼い頃から親しくさせていただいていて、この国をよくご存じの彼女に尋ねたところ、アンソニー様の孫世代から、少しずつアンソニー様のもたらす利益が国民に使われていないのだと教えられました。ミュカ様はこのアンソニー国の者ではないため、口出し出来なかったと後悔を口にされました」


 姫は息継ぎのために言葉を切り、また続けて語り出した。


「国政に口出し出来ない末の姫の私は外に出ることも叶わなかったのは、皆もよく知っているでしょう。だから愚かな男の起こしたこの珍事に、私も愚かな道化となって奇策に出ることにしたのです。父である王が、アンソニーの王で居続けることが正しいのか、ふるいにかけ、第一王太子と宰相の考える時間稼ぎの2ヶ月もの国内の旅の案を予想し、それを利用して国の実情を映像に映すことをミュカ様に依頼しました。


 もちろん今回の一番の貧乏くじをひくことになった功労者となったアン、いえアン様の身の安全は、いの一番にミュカ様を通して魔人国の魔界四天王の皆様に依頼しています。残りのパーティーの面々のこともよきように取りはからってくれるでしょう。


 私は魔王様にアンの保護を頼んでから国に戻り、裁判にかけられるときに、命をかけてこの映像をお兄様に見せ、これからのアンソニー国を良き方向に軌道を修正してもらおうと嘆願するつもりだったのです。だから今回の国際弁護士の来訪には、とても驚きましたし、アンソニー様の遺言をこうして聞くことが出来て、私のやり方は荒っぽいやり方でしたが、結果としてアンソニー様に協力する証拠を提出することが出来て私は、このサリーミレジェットは初めて王家に生まれて、民の幸せのための一矢の働きが出来たと、とても幸せに思っています。もう悔いはありません。どのような罰も甘んじて受ける所存にございます」


 サリーミレジェット王女は、すっきりした笑顔で言い切った。国際弁護士は、三毛猫王ミュカから編集した映像と編集されていない映像魔法のこめられた水晶を証拠として受け取ると、それを大事そうに紫色の絹の布に包み抱え持った。


「これは持ち帰り、国際裁判所で皆で検証します。検証後、遺言に背いていた場合、通達から一週間後にアンソニー様の御意志通りにさせていただきます」


「我々は200年前にアンソニー様から直にその遂行を頼まれ、絹の秘密を守るように命じられた『白黒』の末裔です。当時各国で忌み嫌われていた我が『白黒』の一族を保護し、その存続に力を貸し、永世中立国で最も中立な立場である国際弁護士という職を与えてくれただけでなく、とても大事な絹の秘密を託してくれるほど、我々を信頼してくれたアンソニー様のお言葉を遂行するのは、我々の生きる意味ですので、この証拠は絶対渡しません。では、これで」


 この怒濤の急展開を誰が予想出来ただろうか?国の守護魔法が解かれ、秘密は秘密でなくなり、本来、とうの昔に得られていただろう『アンソニー様の望む民の幸せ』を得るため、国中の民達が立ち上がるのだ。この動乱のきっかけは、一人の男が剣を抜いたことから始まった。その剣の名は勇者の剣。


 さぁ、私の役目は終わった。この後のことは私の父や兄たち、私の一族達がやってくれる。私は拘束されたまま、静かに目を閉じた。魔人族の国に連れて行かれた私への処罰として、元魔王は私にアン様の護衛騎士を命じた。


 元魔王がアン様の最初で最後の最愛の恋人として、恋人たち特有の甘い時間を一年間じっくり楽しむ姿や、元魔王がアン様の最初で最後の最愛の夫として、アン様の美しいウェディングドレス姿に感涙し、抱き上げ、キスを交わす姿を後ろから見続けた。


 魔人族国に着いてから私と姫と神巫女は、今までのことをアン様に謝罪し、許され、ありがたくも友人関係を結ぶことになったが友人のキスは断られてしまった。


「お友達へのキスは全部レイフォード様に捧げるって、誓ったんです。ごめんなさい」


 元魔王の膝の上で眉をシュンとさせたアン様を抱きしめ、満足げに至る所にキスの雨を降らせる元魔王に、私の中のがハンカチを噛みしめて、恨めしげに叫んでいた。


!)


 私は、その声を発することなく、ただ無言で幸せそうなアン様をいつまでも見つめていた。今日、アン様のお腹に小さな命が宿ったことを知らされて慌てて着替えてきた私に、ようやく侍女の仕事に慣れてきたサリー姫、いや、サリーが呆れた声を出す。


「……ホント、その鎧、いざって時の勝負服なのね。いつもそれなのもどうかと思うわ。違う鎧も着てみたら?」


「じゃ、を模様に入れた鎧で」


 即答したら、「冗談だったのに……」と引きつるような表情になったサリーから、再びアン様に視線を戻す。


『白い百合を貴方に捧げます、愛しい人。……ふふ、白い百合の花言葉は「純潔」って言うんだよ、ユーリ』


 あれからあの声を聞くことは、二度とはなかったけれど、私と、私の中のの気持ちは決まっていた。


((最初から私の白い百合純潔は貴女のものでしたよ、アン様アンソニー様……))

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