第17話 村人の彼女と神巫女の私③

 アンのことを何故か心から嫌っているようには思えない姫と騎士が彼女に嫌がらせをしようとしているのに便乗して、隣国の国境までの2ヶ月間、彼女を家に帰すため、私は怖い女の虐めというものを行おうとして……出来ませんでした。


 いやね、はじめの数日は怖い女の虐め、頑張ってやってみたんですよ。ミッシェルに聞いた貴族令嬢たちの虐めの話を真似しながらやってみたけど、私たちの衣食住を管理することになったアンに虐めを続けると隣国までの行程における衣食住に顕著に影響が出ることになったので、作戦を変更し、悪口を罵倒するだけのかわいいもの(?)にしました。


「わーい、デザートはオレンジのパンプディングだ!えっと、この役立たずの平民め!おかわりも作ってよね!」


 アンが作るご飯は色んなレパートリーに富んでいて、毎食後のデザートも3時のおやつも作ってくれる。しかも、とってもおいしい!王城で食べたお菓子よりも美味しいのだから、きっとアンは世界一の料理人に違いない!それにそれに、お料理のお手伝いもさせてくれるし、「ありがとうございます。とても助かります、ココル様」って笑顔でお礼言ってくれる!「おいしいですよ、ココル様」って、私が切った人参も食べてくれたし!


「お前ら、アンにまとわりつくな!アンの一番のそばは、俺だぞ!」


 お兄さんとおかわりの奪い合いをする仲になって、旅は続けていく。


「あなたってとっても地味ですわよね。で、私のお洋服には、この間のバラの香りをまた焚きしめてほしいのだけど」


「確かに茶色の髪に瞳と、ありふれた容姿ですな。姫の後は私の鍛錬着を繕ってくれないか?刺繍はいつもの百合を」


「二人ともずるい!この地味平民は私のハンカチにウサギさんつけてくれるって、先に約束したの私なんだから!」


 私が約束していたのに、姫や騎士ときたら横取りしようとするなんてと腹立だしい気持ちになる。アンは縫い物もとても上手だし、手が空いた時には本の読み聞かせもしてくれる。とても博識で色んなことを教えてくれて、挿絵に出てきた動物も私のハンカチに刺繍してくれる。


「お前ら、アンにまとわりつくな!アンは俺の一番の子分なんだぞ!」


 ウェイは、とにかくアンに近づこうとするが、本気でアンが嫌がっているので、私はウェイに興味があるふりをして、アンをウェイから守ろうと決意する。


「何だかお城を長く離れるなんて、初めてで落ち着かないわ。あなたの地味顔、落ち着くから、今夜は私の横で寝なさい」


「なるほど、確かに落ち着く顔ではありますな。でもこの者が寝ている姫に悪さを働かないように私も隣で眠りましょう」


「ずるいずるい!!二人とも大人でしょ!今夜はココルに寝る前のお話してくれる約束したもの、ね、アンは私の地味顔よね?」


 また私のアンを取ろうと二人が邪魔をする。ミッシェルの言っていたお母様の匂いって、きっとアンの優しい暖かいお日様の匂いと同じぐらい、いい匂いなんだろうなぁ。


「……っく、ずるいぞ、お前ら、俺だってなぁ、アンと……。なんだよ4人して変態みるような目つきやめろ!チクショー!」


 変態っていうか、こんなにもアンに毛嫌いされているのに何故好かれていると思えるの?


 神が何を言いたいのかが、段々わかるようになってきたけど、私は神に私を貸してやることは許さなかった。やがてアンを帰すのではなく、ずっとそばにいられるように行動している自分を自覚した。神のソワソワは、いつのまにか私のワクワクに寄り添うようになっていった。


 2ヶ月後。目の前は隣国との国境で。私は魔王とアンの抱擁を目にすることになる。


 獅子王デューダという名前の大きなおじさんが、アンを除く勇者パーティーを引き連れ、アンソニー国の王城に行く。勇者ウェイと女騎士ガーネットは暴れたため、後ろ手に魔法の綱で拘束され、猿轡も施されている。私は白鷺王メルというおば……いえ、お姉さんに手を引かれ、姫には王城に入ってから三毛猫王ミュカという名のおば……お姉さんが付き添う。


 姫は小声で三毛猫王ミュカにある確認をすると、彼女は頷いている。猿王アキセというごついおじさんは学院がある永世中立国から、国際弁護士というお仕事をしているという、おじいさんを連れてきた。姫が深呼吸を一つした。白鷺王メルの目が細められ、三毛猫王ミュカの目の瞳孔が怪しく光る。獅子王デューダは姫に向かってウィンクし、猿王アキセは歯茎を見せて笑う。これから何かが始まるらしい。


 ーその後の大騒動は、ものすごかった。その事を後で再会したミッシェルに手振り身振りで説明してあげるとー、


「最っ高のざまぁ、あざーす!!」


 と今までで一番のいい笑顔で、馬車に乗るサリーミレジェット王女、いや、サリーに感謝を述べていたミッシェルはすっかり令嬢言葉が抜けていた。国を出ることになった私を見送るため、神巫女総出でお見送りしてくれたのだ。私だけではなく、私の中の神のお見送りも兼ねて。と言っても短い間だけの別れだ。神を追って神殿も魔人族国にお引っ越しするらしい。


「そういえば神は、一体、何がしたかったのかしら?」


 神巫女長の言葉に、すっかり共存することに同意した私たちは、にっこり微笑んだ。


「彼らはただ、彼らにとっての崇拝するの傍にいたかっただけらしいです」


 《200年前の尊敬と感謝の思いは永遠です。我らは、あなたと生きられて幸せでした。ですから-、もう一度お会いしたかった、我らの王よ。今世はただ、あなたが平凡に幸せに生きていくのを見守ることをお許しください。あなたの生まれる前の、あなたと同じ時代を過ごすことが出来た幸運な民であった我々の願いです》


 ……私は、これからも神に……彼らに私を貸してやらない。……私の口から彼らの願いは伝えない。だって、私の大好きで大事なアンお姉さんの……彼らの王の願いは平凡に幸せに暮らすことだからー。


 さぁ、馬車の扉を閉めて……一緒にお姉さん私たちの王の傍に行きましょう。

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