第13話 村人の彼女と王女の私③
怖い女の虐めをしたのも、彼女の人となりを知りたかったのもあったのだけど隣国までの行程における衣食住に顕著に影響が出ることになったので、作戦を変更し、悪口を罵倒するだけのかわいいもの(?)にしました。
「もうあなたって本当に戦えない、どうしようもない凡人なんだから!今夜はお肉にしてよ!」
家事仕事が素晴らしく、私は彼女を尊敬しているが、そんなこと口に出来ず、つい憎まれ口を叩いてしまう私に続いて、ガーネットもココルも悪態をつく。
「戦えぬ平民など、足手まといにしかならないのが、わからないのか!今夜は魚と決まっております姫!」
「わーい、デザートはオレンジのパンプディングだ!えっと、この役立たずの平民め!おかわりも作ってよね!」
「お前ら、アンにまとわりつくな!アンの一番のそばは、俺だぞ!」
とか、言いながら旅を続けていく。
「あなたってとっても地味ですわよね。で、私のお洋服には、この間のバラの香りをまた焚きしめてほしいのだけど」
アンは忙しい中、私のために特別に手作りで調合したバラの香りを私の衣服に焚きしめてくれる。王城でも、こんなに柔らかいバラの香りなんて焚きしめられた者は誰もいない。
「確かに茶色の髪に瞳と、ありふれた容姿ですな。姫の後は私の鍛錬着を繕ってくれないか?刺繍はいつもの百合を」
普段からお洒落なんてしたことがないガーネットの白い鍛錬着に、白い糸で可憐な百合の刺繍を施したアンのことをガーネットが熱い視線で見つめるようになったのは、いつからなのだろう?
「二人ともずるい!この地味平民は私のハンカチに、ウサギさんつけてくれるって、先に約束したの私なんだから!」
わがまま幼女だったココルは、相変わらずわがままだけど、アンに甘えるようになって、年相応のかわいい笑顔を浮かべるようになった。
「お前ら、アンにまとわりつくな!アンは俺の一番の子分なんだぞ!」
ウェイはとにかくアンに近づこうとするが、本気でアンが嫌がっているので、私はウェイに好意があるふりを利用して、アンをウェイから守ろうと決意した。
「何だかお城を長く離れるなんて、初めてで落ち着かないわ。あなたの地味顔、落ち着くから今夜は私の横で寝なさい」
本当はパジャマパーティーがしたいと言えなくて、こんなことを言ってしまう自分が嫌だ。
「なるほど、確かに落ち着く顔ではありますな。でもこの者が寝ている姫に悪さを働かないように
私も隣で眠りましょう」
いえ、ガーネット。私、最近のあなたの視線が怖いのですよ?アンに悪さなんて働かないように私守りますからね。
「ずるいずるい!!二人とも大人でしょ!今夜はココルに寝る前のお話してくれる約束したもの、ね、アンは私の地味顔よね?」
ええ、ココル。私とココルでアンを挟んで眠りましょうね。
「……っく、ずるいぞ、お前ら、俺だってなぁ、アンと。……なんだよ4人して変態みるような目つきやめろ!チクショー!」
変態っていうか、こんなにもアンに毛嫌いされているのに何故好かれていると思えるのでしょうか?
……とかね、なんか最後の方はアンを守る騎士になったような気分でした。
2ヶ月後。目の前は隣国との国境で。私は魔王とアンの抱擁を目にすることになる。
獅子王デューダがアンを除く勇者パーティーを引き連れ、アンソニー国の王城に行く。勇者ウェイと女騎士ガーネットは暴れたため、後ろ手に魔法の綱で拘束され、猿くつわも施されている。ココルは白鷺王メルに手を引かれ、私には王城に入ってから三毛猫王ミュカが付き添う。
私は小声で三毛猫王ミュカにある確認をすると、彼女は「大丈夫」と頷いてくれた。猿王アキセは学院がある永世中立国から、国際弁護士を連れてきてくれた。深呼吸を一つ。白鷺王メルの目が細められ、三毛猫王ミュカの目の瞳孔が怪しく光る。獅子王デューダは私にウィンクし、猿王アキセは歯茎を見せて笑う。
さぁ、これからが、本番だ。私にとっての倒すべき
「この度、我が魔人族国の当代魔王レイフォード様が300歳になられたことで、魔王を引退されることとなられた。これは、魔人族国の決まりであり、それによりに
謁見の間は、阿鼻叫喚の地獄絵図のようであった。集められたアンソニー国全ての貴族が叫び、罵り、悲鳴を上げた。
「そ、それは、我が父と妹が、魔王様に謀反を企んだからですか!?それなら国ではなく二人の暴挙だとお伝えしたはずですが!!」
帰国したばかりの第一王太子が花嫁を背にかばうようにしながら、怒鳴るように言う。
「大恩ある魔王様に、我が国は謀反など!そこの王とサリーミレジェット姫が全ての諸悪の権化です!!」
「我々は反対しました!!」
「「「そうだそうだ!!」」」
貴族たちが、口々にそう叫ぶ。確かに私の言葉からこの騒動は起きたし、私は、この騒動の責任を取るために命を投げ捨てる所存だ。でも死ぬ前にどうしてもやらなければいけないことがある。政治力もない王女というだけの私に、国内全ての貴族を集めるなんて普段なら不可能なことなんだから。獅子王デューダが、獅子の咆哮を上げ、その場の者を黙らせる。
「先に述べた通り、
アンソニー様の名を出されて、口をつぐむ第一王太子に貴族たちは気まずげに視線をそらせた。猿王アキセに伴われた国際弁護士と名乗る、初老の男が声を上げる。
「私が今回こちらに入国しましたのは、
アンソニー国の貴族たちが驚きの声を上げる。父である王も第一王太子の兄も驚愕の表情だ。国際弁護士の手から羊皮紙が広げられる。
「200年前アンソニー様はお亡くなりになる3日前に、ご長男に王を譲る際、いくつかの遺言を残されました。遺言は残された家族や、城内で一緒に働いてきた者への感謝や励ましのお言葉を綴られた私的な物と、国民に当てた愛情溢れるお言葉から始まり、アンソニー様が理想とする国の姿を最後まで見せることの出来なかったと誠意ある謝罪の言葉と次代の王になる息子をこれからも信じ支えて欲しいという願いをこめられた公的な物の他に、後2つございました。
アンソニー様の死後、最初の2つの遺言は、キチンとアンソニー様が望む者達に、そのお言葉が届いたことを200年前の国際弁護士が見届けたと、記録が残っております」
誰かが喉を鳴らせる音が、やけに大きく聞こえる。
「後の2つは、アンソニー様が自分亡き後の未来の、この国を憂いてなされたものです。
一つ、アンソニー様発案によるアンソニー様の名で作られた著作権のある物から、もたらせられる全ての利益は全て国民のために使われること。食料の心配がなくなった時点で、国を運営する最低限度の費用以外は、王家や貴族が私腹を肥やすのではなく、国民の生活を見守り、国民の識字率、知力向上にそれらは使われること。王家も貴族もそのための努力をすること。
一つ、親友である魔人国の魔王レイフォード様が友情の証として守護魔法を国に施してくれたが、その魔法が解かれる200年後、国民の識字率が50パーセントを満たない場合、この遺言を公開し、絹の秘密を全ての国に明かすこと」
皆の顔が、青いどころか土気色に変わる。
「そんな……絹の秘密が、秘密でなくなったら、この国はお終いだ」
「我が国は、一番小さく資源も乏しいというのに!?」
「いくら賢王とよばれるアンソニー様の遺言とはいえ、それは殺生な!」
「横暴すぎる!そんな200年も前の王の言葉など無効だ!!」
騒ぎ出す貴族たちに今度は白鷺王メルが、白鷺の突風でなぎ倒していく。
「静かになさい!!アンソニー様を侮辱することは許しません!それに遺言の最後はともかく、3つめの遺言は次代の王が即位するたびに、国際弁護士が新しい王に伝えていると記録が残っております」
貴族たちは項垂れる王と第一王太子に目をやると、王を抱えるようにして第一王太子が貴族たちを睨み返す。
「そうだ!3つめの遺言は、即位式はもとより、新年の挨拶の時に必ず読み上げられる言葉だ!!お前たちだって知っているはずだ!城にある書記が記録しているのだから!!」
そう、毎年の新年の挨拶時に、王はアンソニー様の残したその言葉を口にしていた。ただ、王も貴族たちも、それが遺言と知らず、聞き流していただけだった。慌てて王や貴族たちは国際弁護士に弁明する。自分たちは必死に努力していたが、まだ国が貧しいのだと……識字率に回すほど余裕がないのだと。
さぁ、下腹に力を入れよう。
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