第12話 村人の彼女と王女の私②

 隣国の魔王とは正真正銘の魔王である。隣国は広大な領地を持つ豊かな国で、しかもそこに住むモノは魔力が強く、他の国に比べて長寿の寿命を持つ人が多いので、魔人族と呼ばれているが、姿形は人族と変わらない。


 200年前まで我が国は、隣国以外の色んな国から狙われて戦が続いていたが、当時の王子が隣国の魔王と学友だったことで、友情の証として半永久的に無条件で守護の魔法を国境にかけてくれたのだ。当時の王子が死んでしまっても、魔法は解けなかった。それから、この国は平和になったのに。ただの村人だって知っている真実なのに。この国において大恩人である隣国の魔王を倒す?


 私に暴言に周りの者が真っ青になる。私も自分で言っていて恐ろしい。でも私は本物の王に会うため、命を賭ける。魔王様に勝てるとは思っていない。でも私には魔王様を巻き込む必要があるのだ。彼はアンソニー様の親友だった人だ。きっと、この愚かな男が導いてくれる、本物の王に会わせるべきだし、本当に本物の王なのかを魔王に見極めてもらおうと私は考えていた。



 魔王様が王に相応しいと認めたら、私は私の罪を償おう。もし命が残ったなら、その者に仕えよう。そして、この国をアンソニー様の理想に近づけたい。誰かこのサリー姫愚か者を黙らせろ!と貴族たちが動き出す前に、私はさらに道化愚か者になることにした。


「勇者が隣国の魔王を倒して、隣国を我が国にしてしまえば、お父様は世界一領地の広い、立派な王様になりますわ、素敵」


「そ、そか?素敵か?じゃ、いいかな」


 馬鹿がここにもいたー!!!と貴族たちは崩れ落ちた。この国は、もうお終いだとー。私も、そう思いますわ、皆様。そこへ止めを刺したのがウェイクスと名乗った男だった。


「魔王を倒す?褒美もらえるなら、いいですよ。ただし、旅には俺の一番の子分を一緒に連れて行くことが絶対条件ですがね」


 そうして現れた一番の子分というのが、アンだった。


「まぁ、あなたが勇者ウェイの一番の子分?なんて地味で平凡な容姿なの?そんな細腕で魔王に立ち向かっていけるかしら?大人しく村にいればいいのに」


 輝くピンクゴールドの髪をツインテールに結い、金で細く編まれた華奢な宝冠を額につけた私は出来るだけ、蔑むような馬鹿にした表情で睨む。睨んでなければ、私の憧れの茶色い瞳と髪の彼女の姿に興奮しすぎて鼻血が出そうだからだ。いつまでも見ていたくなる素朴な可愛らしい女性の登場に私の胸の鼓動が高鳴る。ああ、憧れのアンソニーカラー!!


「本当にこれではウェイ殿の足手まといにしかならないではないか!ウェイ殿、考え直されるがよかろう」


 輝く紅い髪を一つに三つ編みにした私の護衛騎士のガーネットがアンを睨む。紫水晶でできたような切れ長の瞳とキリッとした細眉をゆがめたガーネットは白銀に光る鎧に身を包んでいる。ガーネットは、この勇者パーティーに加わることを立候補してきた……私が言うのも何だけど、変わり者で私の護衛兼ウェイの剣術指南役を兼ねている。


 背が高いスレンダー美女だけど、今まで男を寄せ付けず、ひたすら剣術の鍛錬をしていたガーネットが、ウェイにベッタリなんて珍しい。こんな外見だけの男に恋に落ちてしまったのかしら?


「この子は、本当にただの小娘よ!剣も弓も魔法だって使えない!私みたいに神の力も使えないじゃない!」


 シルバーブロンドの髪を腰まで垂らした、淡いピンクの瞳の幼女の可愛らしい顔が小憎らしい表情にゆがむ。勇者パーティーが結成されると聞いて、神殿から送り込まれてきたのが神巫女のココルだ。神力が強いらしいがわがままで神官たちが手を焼いているという問題児だから、今回の私と王の暴挙に便乗して切り捨てられたのかもしれない。


 ウェイの両腕を私と女騎士が腕組みし、ウェイの足には神巫女らしき幼女がくっついた状態で、ウェイの言う、を出迎える。喪服のような黒いワンピースを着た、茶色い目と髪の素朴な顔立ちだけど、可愛らしい小柄な女性が死んだ魚の目のようなうつろな目をして、私たちを見つめている。


 ああ、彼女は、この状態が異常事態だと、キチンと認識している賢い人間なのだと安心する。ウェイの一番の子分と聞いて、どんな愚かな人が来るのかと恐れていたのだけど……。


 回復魔法と光の攻撃魔法が使える私に、女騎士としてはダントツで剣術に秀でているガーネット、防御魔法と神の祝福魔法が使える神殿の神巫女ココル。私たちが、勇者ウェイのパーティー仲間であると、城の補佐官だと名乗った宰相に紹介されて彼女は、


「そうですね、では、これで」


 即座にきびすを返し、帰ろうとした彼女の肩をつかんだ愚かな青年がニッコリと微笑んだ。


「大丈夫、お前はなにもしなくていい。俺が守る。ただ俺のそばにいて、俺の活躍を見ていてくれ!」


 単なる村長の息子ウェイの容姿は、確かに貴族のように輝く容姿であるけれども、彼のこれまでの行動や言動が、あまりにお粗末なゆえ、その美貌が霞んで見える。剣は抜いたものの、剣術も体術も習ったことのない身でどうやって彼女を守るのでしょう?


「お断りします。第一大恩ある魔王様を討伐するなんて、おかしいでしょう!」


 彼女は愚かなウェイに幼児に説明するように懇切丁寧に状況を説明する。一緒に話を聞いている城の者たちも、うんうんと頷きながら同意見だと後押ししている。私は理論立ててのしっかりとした内容に感心してしまった。


 どうして、こんなにもわかりやすく説明してくれているのにウェイはわからないのだろう?どうやら人の話を聞かないらしいウェイは、王都で学校に通っても人の話を聞くという基本が身に付かなかったらしい。さすが4年も留年したという男というべきだろうか?王都の学校のカリキュラムを見直すべきだと、お兄様に進言したほうがいいだろう。


「大丈夫、お前は俺の一番の子分なんだから、俺のそばにいるのが当然だろう?なぁ、みんな?」


「いや、子分じゃないって言ってるでしょ!私はあんたが大嫌いなんだから!」


「照れるなって。本当は俺の一番の子分が嬉しいんだろ?」


「「「……ウェイが、どうしてもと、いうなら……」」」


 私は良心の呵責に胸が痛んだが、彼女の説得に応じるわけにはいかなかった。どうしても、このチャンスを逃したくないのだ。王女として生を受けた私は、この国の王女でありながら城の外へ出してもらえなかった。学院だって行きたかったのに、父である王が末っ子の私を溺愛しすぎて離そうとせず、何だかんだと理由を作って行かせてもらえなかった。


 外の世界を見てみたい。このアンソニー国を私は直に見たいのだ。


 それに、もしかしたら彼女が、私が待ち望んだ本当の王なのかもしれない。それともこれからの旅で出会うのだろうか?どちらにしても彼女の身は私が責任取って守ることを密かに心で誓う。そのための策を内密に施し、私は道化のまま、彼女を試すことにした。


 この後の勇者出立からお兄様が帰ってくるまでの、隣国の国境までの2ヶ月間、私は怖い女の虐めというものを行おうとして……出来ませんでした。


 いやね、はじめの数日は怖い女の虐め、頑張ってやってみたんですよ。でもね、私もガーネットもココルも家事全般がまったく出来なくって、ですね。これから戦いに行くのに、侍女やら侍従やらコックなど、連れて行けるわけがないでしょう?……という正論で、お城の者たちは、私たちを思いとどまらせようとしたけど、従わなかった私たちは当然家事が出来ないので、非戦闘員の彼女に命令という形で家事をさせた訳です。


 そう、その立場なら、もし魔人族の怒りをかっても、

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