第2話 魔王の彼と村人の私②
村長と私の両親と、もちろん私も血の気が完全に失われてしまった。この国は終わったと声も出ない。それに、私自身も終わったなと私は思った。王様の命令は絶対なのだから。本当にウェイは私にいつも最低で最悪を運んでくる。
私は自分の部屋を整理整頓し、まるでお葬式にいくような黒いワンピースに着替え、涙にくれるやつれた両親に今までの感謝と永久の別れを告げた。頭を地につけ、ひたすら土下座してくる村長を無視して、王城から迎えの馬車に乗り込んだ。王都に行くのは初めてだが何も心弾まない。私がこれから向かうのは死地なのだから。
「まぁ、あなたが勇者ウェイの一番の子分?なんて地味で平凡な容姿なの?そんな細腕で魔王に立ち向かっていけるかしら?大人しく村にいればいいのに」
輝くピンクゴールドの髪をツインテールに結い、金で細く編まれた華奢な宝冠を額につけたサリー姫と思われる美少女に、蔑むような馬鹿にした表情で睨まれる。睨んだ表情でなければ、澄んだ海の碧色のきれいな瞳も真っ白な肌にバラ色の頬もサクランボのような赤い唇も美しく、愛らしい顔にふさわしい折れそうなくらい華奢な体を水色の絹のドレスが包んでて、いつまでも見ていたくなるくらいなのに、もったいないと思いながら、私はその場に死んだ魚の目になって立ち尽くしていた。
「本当にこれでは、ウェイ殿の足手まといにしかならないではないか!ウェイ殿、考え直されるがよかろう」
これまた輝く紅い髪を一つに三つ編みにした美女が私を睨む。紫水晶でできたような切れ長の瞳とキリッとした細眉をゆがめた美女は白銀に光る鎧に身を包んでいる。背の高いスレンダー美女によく似合うなと思いつつ、もはや愛想笑いする気もおきない。
「この子は、本当にただの小娘よ!剣も弓も魔法だって使えない!私みたいに神の力も使えないじゃない!」
こんなにも輝く美貌も多すぎると目が痛く感じるのだなと思うのは、向けられている感情が侮蔑やら嫉妬やら呆れの感情だからだろうか。シルバーブロンドの髪を腰まで垂らした、淡いピンクの瞳の美幼女は、可愛らしい顔が小憎らしい表情にゆがむ。
王都で私を出迎えたのは、一瞬どこの風俗店に入ってしまったのかと錯覚させるものだった。ウェイの両腕をサリー姫と女騎士が腕をからめ、ウェイの足には神巫女らしき幼女がくっついた状態で出迎えられた。
昔お隣のアプお爺さんが、王都にいた頃の若かりしころの
回復魔法と光の攻撃魔法が使えるサリー姫に、サリー姫の護衛を遣っていた女騎士ガーネット、防御魔法と神の祝福魔法が使える神殿の神巫女ココル。彼女たちが勇者ウェイのパーティー仲間であると、城の補佐官だと名乗った人に言われてからの、このお出迎えに-。
「そうですね、では、これで」
即座にきびすを返し、帰ろうとした私の肩をつかんだ諸悪の根源が、ニッコリと微笑んだ。
「大丈夫、お前は何もしなくていい。俺が守る。ただ俺のそばにいて、俺の活躍を見ていてくれ!」
こんな光輝く風貌の彼女たちさえ霞みそうなほど、単なる村長の息子ウェイの容姿は凄まじかった。幼い頃はどこかの国の王子様か、それとも天使様と謳われていた容姿は、成長しても留まることをしなかったらしい。本当に夏の光で作られたかのような短い金糸の髪もそれ自体が光を発しているようだ。同じ金色の瞳も、教会の天使像のような顔立ちも見るモノをうっとりとさせた。
ただし、私を除いては、だが。
「お断りします。第一、大恩ある魔王様を討伐するなんて、おかしいでしょう!」
私は、愚かなウェイに幼児に説明するように懇切丁寧に状況を説明する。一緒に話を聞いてくれている城の補佐官たちも、うんうんと頷きながら同意見だと後押ししてくれる。村長にも城の王様とサリー姫以外の人たちにも頼まれたのだ。
単なる村人の私の使命は、この馬鹿な考えに取り憑かれた勇者パーティーを思いとどませること。
単なる村人の私に何て無茶ぶりしてくるのだろうか。唯一の頼みの綱のこの国の第一王太子様は、ここから海を渡った国に、后を娶るため出国中で、どれだけ頑張って式を急いでも2ヶ月は帰国できないから、それまで勇者出立を引き延ばすことを頼まれたが、多分無理だろう。
ウェイが私の話を聞くなんて、ありえないのだ。昔っから人の話を聞かないウェイは、王都で学校に通っても人の話を聞くという基本が身に付かなかったらしい。さすが4年も留年したウェイだ。
「大丈夫、お前は俺の一番の子分なんだから、俺のそばにいるのが当然だろう?なぁ、みんな?」
「いや、子分じゃないって言ってるでしょ!私はあんたが大嫌いなんだから!」
「照れるなって。本当は俺の一番の子分が嬉しいんだろ?」
「「「……ウェイが、どうしてもと、いうなら……」」」
ウェイに好意を持つバラエティー溢れる美人たちには、ウェイに反対意見を言って、嫌われたくないという心情があるのだろう。苦悶の表情で睨まれた。この後の勇者出立から隣国の国境までの2ヶ月間、私は子供の頃とは比べものにならないくらいの怖い女の虐めというものを体験することに-。
ドン!!バシャ!ガッシャーン!!
両手に持っていた皿が、誰かに背を押された拍子に、派手な音を立てて壊れていく。
「あーら、ごめんなさいね、つい、うっかり。クスクス、火傷しなかった?」
「あーあ、鈍くさいわね、田舎娘はこれだから、クスクス」
「うわー、きったなーい、キャハハ」
私は、慌てずニッコリ笑顔で3人の美女に返事をする。
「大丈夫ですよ。これは勇者とお三方の今日の夕食のブイヤベースでしたが、これでは、食べられませんよね。今日はお粥だけですが、仕方ありませんよね」
「「「え?(私たちの夕食だったの?そういえばすごくいい匂いしてた)あなたのは?」」」
「私は味見と毒味も兼ねて先に食べてしまいました。残念です。今日のは新鮮なエビも入った自信作でしたのに」
「アー!!アンのブイヤベースが!!お前ら、俺の一番の弟子の手作りご飯になんてことを!!」
青くなる三人の美女とプリプリ怒るウェイに、あえて塩を入れていないお粥だけ出して部屋を下がった私は食べ物を粗末にした罰に、彼女達から誠意ある謝罪をもらうまで、果実も甘味も与えず、まったく味のないお粥だけを提供しつづけた。
川で洗濯の終わった衣類を干そうとした私の頭上から、泥水が洗濯物ごとかけられた。
「あーら、ごめんなさいね、つい、うっかり。クスクス、手元が狂っちゃって」
「あーあ、これだから一般人は困る、騎士ならよけられるぞ、クスクス」
「うわー、きったなーい、キャハハ」
私は顔についた泥をぬぐって3人の美女に返事をする。
「そうですね、汚れてしまいましたね。これはお三方が特にお気に入りだからと託された下着類でしたのに、残念です。ここまで汚れがひどいと、もう着られませんね。私は体を洗ってきますので。この汚れ物はご自分で捨ててくださいね」
「「「え?私たちのだったの?」」」
川で洗っていたのは、3人の美人たちの下着。それらは、
……と、こんな感じのいじめが、最初の数日はありました。でもね、彼女たち家事全般が、まったく出来なくって、ですね。これから戦いに行くのに、侍女やら侍従やらコックなど、連れて行けるわけがないでしょう?……と、いう正論で、お城の人たちは勇者達を思いとどまらせようとしたけど、聞き入れず、家事の出来ない彼女たちは、非戦闘員の私に命令という形で家事をさせた訳ですが、私に怖い女の虐めをすると、隣国までの行程における衣食住に顕著に影響が出ると気づいてからは悪口を罵倒するだけのかわいいもの(?)でした。
「もうあなたって本当に戦えない、どうしようもない凡人なんだから!今夜はお肉にしてよ!」
「戦えぬ平民など、足手まといにしかならないのが、わからないのか!今夜は魚と決まっております姫!」
「わーい、デザートはオレンジのパンプディングだ!えっと、この役立たずの平民め!おかわりも作ってよね!」
「お前ら、アンにまとわりつくな!アンの一番のそばは、俺だぞ!」
とか、
「あなたってとっても地味ですわよね。で、私のお洋服には、この間のバラの香りをまた焚きしめてほしいのだけど」
「確かに茶色の髪に瞳と、ありふれた容姿ですな。姫の後は、私の鍛錬着を繕ってくれないか?刺繍はいつもの百合を」
「二人ともずるい!この地味平民は私のハンカチにウサギさんつけてくれるって、先に約束したの私なんだから!」
「お前ら、アンにまとわりつくな!アンは俺の一番の子分なんだぞ!」
とか、
「何だかお城を長く離れるなんて、初めてで落ち着かないわ。あなたの地味顔、落ち着くから、今夜は私の横で寝なさい」
「なるほど、確かに落ち着く顔ではありますな。でもこの者が寝ている姫に悪さを働かないように私も隣で眠りましょう」
「ずるいずるい!!二人とも大人でしょ!今夜はココルに寝る前のお話してくれる約束したもの、ね、アンは私の地味顔よね?」
「……っく、ずるいぞ、お前ら、俺だってなぁ、アンと……。なんだよ4人して変態みるような目つきやめろ!チクショー!」
とかね、なんか最後の方は3人のツンデレ美人たちの母になったような気分でした。
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