カーテン論争【君と僕】

 至極、つまらないことで彼と喧嘩した。


 カーテンの色、だ。


 私は淡いブルーが良いといったのに、彼は黒だと言ってきかないのだ。おかげでせっかく引っ越してきたというのに、私たちの部屋には未だカーテンがない。


 今、季節は夏の真っ最中。私たちは毎朝、殺人的な日光によって起こされる。


「いい加減さ、カーテン買おうよ」

 彼が朝日を遮るように、目元を手で覆い隠しながら言った。

 私も真似したわけではないが、同じ格好をしながら隣に返事を返す。


「青」

「いや、黒だって」


 大体黒などありえない。部屋の印象が暗くなるし、重くなる。そう彼を説得してみても、彼はすぐに「でもなんか、カッコいいじゃん」と被せる。


 その間にも、ベッドの上、じりじりと朝の日差しが二人を焼く。クーラーが役に立っていない。このままでは二人とも表面がこんがり焼けてきつね色になってしまう。


 指の隙間から真横にある顔に目を向ける。いつもは浅黒く見える顔が日光によって、白っぽく色が飛んで見える。その額にはじんわりとにじんだ汗が玉を作って浮かんでいる。そこで自分の額にも手をやってみると、滴に触る感触がして、指をこすり合わせてみれば、表面がぬるりと滑った。


「ねぇ」

「ん、」

「緑にしようか」


 緑は彼が黒の次に好きな色。私も緑が好きなほうだ。この折衷案で手を打ってあげようというのだから、私の寛大さを褒めて欲しい。


 すると、彼は目に手を当てたまま。

「黒だって言ってんじゃん」


 感情より先に腕が動いて、彼の顔を枕で殴りつけると、うっふと間抜けでくぐもった声が聞こえた。それでも怒りは収まりそうもないので、今日の夕食は彼の大キライなピーマンの肉詰めにしてやろうと心に決めた。

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